02

「じゃーん、連れてきましたよー」


 ああ、また悪い癖が出てしまったようだ。


「平良が悪いな」

「気にしなくていい、この子が誰に、なにに興味があるのか気になる」


 それはまた……普通だな。

 程度がどうであれ友達なら当たり前のことだ。

 対同性ならとことんまでは無理でも踏み込みやすいからその考えが強い人にはいいかもしれない。


「君は杏花のなに?」

「友達だな、まだ親友にはなれていないと思う」


 これもまた誰が聞かれても同じようにしか返せないことだろう。

 まあ、いきなり平良にとって害悪とか言われてなし判定をされるよりはマシか。

 本人から直接言われたらその通りにするしかないが違う人に言われて変えたくはない。


「そうなんだ、だけどいつかはそうなりたいって思う?」

「そりゃ仲良くなれた方がいいよな」

「わかった、教えてくれてありがとう」

「それこそ気にしなくていい」


 二人で盛り上がり始めたから少し離れた。

 いまは早くあそこにいきたい、寒いがグレンがちゃんと戻れたのか気になるんだ。

 敷地外で既に会っているかもしれないものの、アヤラと人みたいにあそこで集まる約束をしているなら現れるはずだ。


「なんか固まっちゃった」

「あれは猫ちゃんのことで頭の中がいっぱいなんだよ」


 鋭いな平良は。

 だというのに自分のことに関することにはすっとぼけたりするときがあるから不思議だ。

 わざとやっているのか、それとも自然にそうなってしまうだけなのか。


「猫を飼っているの?」

「ううん、飼ってはいないんだけどある特定の場所にいくと会えるの」

「私もいってみたい、動物に全く触れていないからそういうパワーが不足している」

「いいと思うよ、あ、だけど私は付き合えないからいきたいならあの子に付いていきなよ」

「わかった、尾行する」


 おいおい……。

 尾行なんかしないでいいから普通に隣を歩いてほしいと言っておいた。

 あと連れてきておきながら、そういう興味を持たれそうな話をしておきながら付き合おうとしないのはどうなのか。

 絶対に悪く言ったりはしないがこうしてわかりやすく行動するときがあるから平良という女子は難しい。


「よし、いくか」

「うん、いこう」


 すぐに見たくないときって本当に固まるんだな。

 そもそも後ろから声をかけられた時点でそうなるのに急に二重で微妙というか……少なくとも異性相手にはもう少し距離を作るべきだ。


「え、いま終わったばかりだぞ?」

「もしかして一人でいこうとしていたとか?」

「いや、寄っていこうとは思っていたが……」

「それなら寄り道をしないで済んだとプラスに考えよう」

「お、おう」


 マイペースだ。

 それでも無限にあるわけではないから靴に履き替えてあの場所を目指す。


「よかった、普通にいてくれた」

「おお、猫ちゃん」


 アヤラもセットだから尚更落ち着ける。

 こうなってくれば触る必要なんかはないから持ってきていた弁当を広げて食べることにした。


「おお」

「あ、えっと」

「んー?」

「髪が地面についているからまとめるなりした方がいいぞ、気になるだろ?」


 ずっと伸ばし続ければこんな結果になるんだろうか。

 やたらと長い、派手というわけではないが学校でなにかしら言われそうになるぐらいにはそうだった。

 でも、まとめておけばまだマシになるからいちいち言われたりはしないか……?


「おーありがとう」

「平良はずっとあんな感じなのか?」

「どういう感じ?」

「あんまり付き合ってくれない、みたいな」


 同性の彼女に対してはなんとなくそうであってほしくないと思った。

 なんというか浅く広くではなくて狭く深い関係の方が――これは俺の願望か。

 ただ言わないまでもそうであってほしいのは確かなことだから放置気味なら寂しくなる。


「そうだね、基本的には私を放置して他の子と盛り上がっているよ、だからこそこそ追うのが楽しいんだ」

「そうなのか」

「ん? なんで君がそんな顔をするの?」

「どんな顔をしているんだ?」


 自分がされたら寂しくなるなんて言うべきではないからとぼけてみせた。

 なるほど、だから平良も言うべきではないことがあって聞かれたときにこうして躱そうとしているだけなんだ。


「はは、さっきの真似かな?」

「違うよ、自分の顔を道具を使わずに見ることができないから聞いているだけだな」


 わかりやすく顔に出やすいところはプラス方向のことなら悪くないんだが……。

 それで揺さぶりたいわけではないからどちらにしても直したいところではある。


「それなら言うけど、なんか寂しそうな顔をしていたよ」

「それどころかちゃんとこの二匹がいてくれて嬉しいぐらいなんだがな」

「本当に猫ちゃんが好きなんだね、あのとき杏花が言っていたことは当たっていたんだ」

「おう、平良は鋭いときがあるんだ」


 弱っている状態のときにあのモードでいられると一気に負ける。

 あとこちらに対しては言葉を吐かせようとするから大変だった。

 というか、普段は離れているのにどうしてわかるのか。

 それこそ顔に出やすいからこそならただただ恥ずかしいことでしかないからなにかで優れているとかそういうことにしておいてほしかった。



「そろそろ帰るか」

「だねー」

「……静かに近寄るのやめてくれないか?」

「これが癖なんだ、だから三上君には慣れてもらうしかないかな」


 名字を知っていたのか。

 まあ、誰が増えようといまは帰るだけだ。

 途中で先輩も加わって何故か三人で店にも寄ることになったがそう遅くならない内に帰ることができれば問題ないと片付ける。


「入谷先輩はどちらかと言えば杏花派ですね」

「俺はあそこまで明るくいられないぞ、グレンとアヤラがいるところでは別だけどな」

「そういえば今日初めて見ましたけどどっちも可愛いですね」

「そうだろそうだろ? ストレスにならない範囲で可愛がってやってくれ」


 上手い、先輩が相手のときはあの二匹のことを出しておけばなんとかなる。

 実際にそれで先輩が落ち込んでいたときにもなんとかなったから実績があるんだ。

 気に入られたいならこれからもどんどん利用するべきだった、言葉にするだけであの二匹に迷惑をかけているわけではないから自由だ。


「片方の子は三上君のことをじっと見ていましたね」

「グレンか、あれから平良にも聞いたけどずっとそうみたいだな」

「でも、片方の子だけ連れていっちゃうともう片方の子が寂しいですよね」

「その場合は俺がアヤラを貰うからいい、全てはあの二匹次第だ」


 向こうが人の言葉を理解できないようにこっちも猫語なんて理解できないから延々にこのままだろうな。

 それでいいんだ、それぞれの生き方があるから無理やり連れていっても悪い方にしか繋がらないんだ。


「これを食べ終わったらいくか」

「制服も着ていますからいいですね」


 あと平良よりも彼女の方が付き合いがよかった。

 暇しているだけなんだとしてもこうして付き合ってくれたら先輩的にも違うはずだ。

 連絡をしてからまた付いて歩いていると学校に着く前にグレンと遭遇した。

 先輩が抱き上げたことで顔がよく見えるようになったがやっぱりグレンは格好いいな、と。


「アヤラはいないのか――ん? どうしたそんなに動いて」

「三上くんに抱っこしてほしいんじゃないですか?」

「それなら任せよう」


 子どもを抱くみたいにしてみたら物凄く落ち着いていたから移動も楽だった。


「最近は違う男の子といるみたいですね」


 さも猫語か猫の内のことをわかっているみたいに言い始めた……。


「まあ、悪い奴じゃないならいいことだな」

「あとグレン君はやっぱり三上君のことが気になっているみたいです」

「待て、わかるわけじゃないだろ?」

「顔を見ていれば大体はわかりますよ」


 顔の目の前まで持っていってみると無垢な瞳でこちらを見てきているだけだ。

 あとグレンもアヤラも全く鳴かないからそろそろ一鳴きぐらいしてほしいところだったりもする、人と同じであまりに発しないと上手くできなくなってしまうからもある。


「どうなんだろうな、グレンがそのつもりなら三上が家族に迎えてやった方がいいんだけど」

「下ろしてみて付いてくるか試してみます?」

「おう、また付いていくようなら考えてみてくれ」


 下ろしてみたら早速とばかりに俺の膝に前足を当ててなにかアピールをしてきた。

 もしかしたらなにかが見えていて実は俺が危ない状態とかではないだろうか。


「やっぱり触れていると落ち着くんだね、ね、抱っこしてあげて?」

「お、おう」

「あと連れ帰ってあげた方がいいと思う」

「俺もそう思うぞ、そこまでアピールをされたら受け入れるしかないだろ」

「ですかね」


 でも、アヤラから奪ってしまっていいのか?

 集合場所にいった際、いつまで経っても相方が現れなかったら心配にならないだろうか。


「俺の家だがどうだ?」


 とてとて探索を始めたからソファに座って待っていたらあっという間に戻ってきて俺の足の上で丸まって休み始めた。


「はは、慣れない場所のはずなのに前々から過ごしていたみたいな感じだね」

「グレンってオス猫だよな? それに三上は全く触れていなかったのに面白いな」

「そうですよね、気に入るとしても入谷先輩を気に入ると思っていました」

「グレン、いまからでも考え直さないか?」

「はは、全く反応しませんね」


 こうなってくるとアヤラ次第となる。

 だから現れてくれないと困るが相方がいないあそこに現れるかどうか、タイミングがずれてしまったらもう一生出会えないまま終わる可能性だってゼロではない。


「ん? なんか聞こえないか?」

「これは……腹の音ですね」


 午前も午後も頑張っていてもそうでなくても腹は減るから仕方がない。

 本人は至って気にした様子もなく「お腹空いたー」と言って足を伸ばしただけだ。


「それならグレンを頼む、なにか作るよ」

「え、いいの? それならお手伝いするよ」

「そうか? なら頼むわ」


 平良とだってほとんどしないような行為を俺達はしていた。

 それこそ前々から友達だったみたいな感じでいてくれるから喋りやすいのも問題だ。

 とっつきづらいとか取り付く島もないよりはよくてもこういうのは勘違いに繋がる可能性もあるのが怖かった。

 それでも優秀で、あっという間に作り終えることができたときには感謝しかなかった。

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