Ep.21 通り雨だよ? 和十尊君

 バンドサークルの先輩である芳賀副部長に誘われ、僕は和十尊君と鰐中さんと一緒にジャズ喫茶へ行った。店内に入るとオシャレなバーの様な雰囲気で、僕は自分が場違いな場所に来たような感覚があり、鰐中さんも僕と同じような表情でいる。和十尊君は相変わらず自信満々な感じだ。


「谷川ドリンク何頼む?」

「先輩、僕はジンジャーエールで。鰐中さんは?」

「あちきはウーロン茶で」


「和十尊は?」

「先輩、奢ってくれますよね? オレ手持ち無いんで」

「誰も奢るって言ってないだろ」

「じゃあ、飲んだらバックレます」


(先輩、もう和十尊君を警察に突き出しませんか?)


「はぁ。まあ誘っているから一杯だけ奢ってやるか」

「じゃあ、度数の高いウォッカで」

「和十尊、ウォッカよりも度数の高い酒あるぞ」

「そんなのあるんですか先輩?」

「スピリタスってやつだ」

「じゃあ、それでお願いします」


(スピリタス? 初めて聞くお酒だな。いったい何度あるんだろう?)


 注文を終え、飲み物を待っているとウッドベースの鳴る音が聞こえてきた。その上にピアノ演奏が重なり、タイミングよくドラムも入ってくる。「すごい」一気に惹きつけられる魅力に特に僕はドラム演奏に目が離せなかった。


「どうだ谷川、ジャズもいいだろ?」


 先輩の言葉に対して僕は頷き、繰り出される音色は一度しか聴くことのできないアドリブてんこ盛りの演奏だ。


「あっ、ターニー。雨降って来た」


 鰐中さんは自分のパートであるギターと歌が無いジャズの演奏に対して、僕とは違い前のめりになって聞いているようではないみたいだ。やがて雨は強くなっていき演奏と雨の音が不思議と絡み合うと、隣にいた和十尊君が立ち上がった。


「谷っち行ってくる」

「ん? どこに行くの?」

「外だ。シャワー浴びてくる」

「はっ?」


 和十尊君は迷うことなく店内から出て、土砂降りの雨の中へ入っていく。僕は少し驚いたが、和十尊君なら普通にあり得るなと思い、またジャズの演奏に耳を傾けた。


「あっ、雨止んだ」


 数分後、鰐中さんは土砂降りの雨が止み始めたことをポツリと呟く。僕はこの後起こるであろう展開が頭の中によぎり、急いで店の玄関へ向かった。


「おう、谷っちちょうどいい所に来た。タオルあるか?」

「タオルなんて持ってないよ」

「まったく、使えないヤツだな。タオルくらい用意しておけって」

「和十尊君」

「ん?」

「一緒に帰るよ」

「谷っち、なんでだ?」

「説明しなくてもわかるでしょ? お店に迷惑かけちゃう」

「あのな、谷っち。オレ、スピリタス飲んでないんだけど? パイセンが飲むのか?」

「芳賀先輩は飲まないと思う」

「だろ?」

「ちょっとスピリタス持ってくるからちょっと待って」


 僕は芳賀先輩と鰐中さんがいる所に戻り、先輩に事情を離し、先輩からスピリタスが入ったショットグラスを受け取る。そしてそれを持って和十尊君のもとへ行った。


「はい、スピリタス」

「サンキュー」


 和十尊君はクイっとスピリタスを飲み干し、僕にショットグラスを返す。


「これヤバイな。喉めちゃくちゃ焼ける」

「グラス返してくるから、そのあと一緒に帰るよ」

「いや、一人で帰る。ベースの練習したくなったからパイセンに言っといて」


 どうやら和十尊君にはウッドベースの演奏が響いたみたいだ。僕はそのことに気がついて自然と口角が上がった。


「じゃあ和十尊君、気をつけて帰ってね」

「あいよ。お前もドラム死ぬほど練習しろよ」

「うん」


 この日の夜、僕はジャズの生演奏を堪能し「もっとドラムを頑張りたい」そんなモチベーションが今まで以上に溢れかえった。


 ◆


「おう、谷っち。昨日はあの後どうだった?」

「すごく良かったよ。和十尊君練習は?」

「あぁ。帰り道でカツアゲしていたバカな連中がいたから片っ端から殴って懲らしめてやった。で拳痛めて、練習できんかった」

「そ、そうなんだ」

「だから今から慰謝料そいつらに請求してくるわ」


(うん。警察に言おう。決めた。まずは芳賀先輩に相談かな)

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大学生なの? 和十尊君 フィステリアタナカ @info_dhalsim

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