第30話


「わぁ!ありがとう!これ私がめっちゃ好きなやつじゃん!」


後日、一花からお土産を渡された雪乃は喜びつつも疑問符を浮かべた。


「でも突然誰と行ったの?まさか誠くんじゃないよね?あんな人が多い場所。」


キョロっと目をそっぽに向ける一花に、これでもかというほど目を見開く雪乃。


「えっ!ちょっと嘘でしょ?!よりによって女の影でこんな大注目されてる時期に?!さすがに身バレしちゃうよっ」


「それがさ…誠ってばすごいいろいろと緻密な変装してきてさ…」


詳細を聞いた雪乃は、大きな口を開けてハッハッハ!と笑った。

一花は雪乃のこういう遠慮のない笑い方が好きだ。いつも自分の感情に全力なところが。


「あー、でも刺青有りのヤクザ風カレシってのも結構いいよね。なんか守ってくれる強い男って感じだしさ!しかもあの誠くんなら尚更似合うだろうし!」


「うーん、まぁ……実際いろいろあって助けられたし……」


雪乃に話そうか迷ってはいたのだが、正直にあの話をすると、雪乃はやはり、一瞬息が止まったように固まった。


「え……嘘でしょ、アイツがいたの?」


こくんと頷く。

あの元カレと別れることができたのは、雪乃と健太郎のおかげでもあるのだ。

なんとか夜中に逃げ出す手配をしてくれた。


「そっかぁ……誠くんがいてくれて本当によかった……1人だったらそのまままた……」


雪乃の歪んだ顔の意味していることはわかる。

一花がまたあのままついて行って、昔のように逆戻りしてしまうことをリアルに想像できるのだ。だから誠は本当に救世主だった。


「でも……1番ショックだったのは、そんな自分自身。あの頃の自分にあんなに簡単に逆戻りしちゃうなんて……」


足が竦んで、操られたように彼に従ってしまっていた。無意識に、だ。


「……仕方ないよ、一花。だってさ、DVの男って沼らせるのが悪魔のように上手だし、一花は優しくて思いやりもあって一途だから、1度惚れたらなんでも信用しちゃうのよ。それがたまたま間違ったやばい相手だったってだけ…」


雪乃は恋愛のことを本当によく熟知していて頼りがいのある友達だ。彼女に出会えていろいろ救われてきた。

けれどその度に、軟弱な自分にうんざりするのも確かなのだ。


「私ね……ただ自分に、圧倒的に自信が欠けてるだけなんだと思う。だから少しでも優しくされたり、好きだなんて言われて求められたりすると……」


「うん、わかるよ、一花。私だってそんな時期はあった。」


「嘘?雪乃はいつでも自分に自信があって、しっかり自分自身の軸を持ってて強いじゃない?」


そんないつでも堂々と輝いている雪乃にずっと憧れている。


「そんなことないって。私だって、1度ゾッコンしちゃうと周りが見えなくなるし、逆に相手を傷つけちゃったりもするよ?」


雪乃は自嘲気味に笑った。


「まぁ、何はともあれ良かったよ。さすが誠くん!今度はきっと、一花は幸せになれるよ。」


「っ、いや、付き合ってるわけじゃ…」


「いつまでそんなこと言ってるわけ?自分の感情に嘘をつき続けることほど不健康なことないよ?」


真剣な目をしてピシャリと言い放つ雪乃を前にして、一花は俯く。


自分の本当の感情……

そんなの分かってるけど……


「自信がないから前に進めないだけでしょ?」


ドキリとする。完全に図星だ。


「大城くんの時もそうだったけどさ、きちんと愛してくれる人の前では、もっと素直になって、自分に自信を持つべきだと思うな。」


「そ…だね……誠とはなんだか雰囲気に流されて……キスしちゃったし……このままの曖昧な関係じゃダメだよね……」


「ちょちょちょちょ!まーった!今なんて言った?」


「え……?」


雪乃は目を丸くしていたかと思えば、その後、ニヤニヤとした笑みに変えて身を乗り出した。

こういう顔をする時の雪乃は決まってしつこいくらいに詳細を聞き出してくるのだ。


サラッと言ってしまった自分の発言に気がついた一花は、もう遅かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る