第29話


なんだかんだ目立ってしまう誠と周囲の目線が気になりつつも、

そして、思いもよらないハプニングもあったが、丸1日とても楽しめて、一花は満足だった。


夜のパレードを見て夜景を見て、そして土産屋で誠が言った。


「ねえ一花!オソロでこれ買お?」


明らかにカップル用のキーホルダーを指さして嬉しそうに言う誠に、一花は自然と笑みが溢れる。


「いいよ。じゃあ買ってあげる。」


「えっ、いいよ、俺が買うから!プレゼントさせて!いつも一花にお世話になってるお礼。」


お世話……か。言われてみれば、確かに仔犬の世話でもしてる気分になることは多いが……

なんだかこんな年下に物を買わせるのは気が引ける。

それに最近は、自分がお世話されていることもあるような感覚になることも……



「別に…。私が好きでやってることだからいいのに」


「えっ、好き?」


「あ、いや…だから、私はその…結構誠といるの、悪くないと思ってるっていうか……」


「ホントに?」


整ったベビーフェイスで目を輝かせられたら、妙に心音が大きくなってしまう。

最近よく、こんなことが起きる。

日に日に感じていること。それは、誠の存在が自分の中でとても大きくなってきていて、今では自分の生活の一部で、そしてなぜかかけがえのない大切な人になっているということ。


お揃いのキーホルダーを家のキーにつける。

結局、誠に買ってもらってしまった。


「俺も家のキーにつけよっかな〜」と言っている誠に帰り際、一花はそっとあるモノを渡した。

それを見た誠が驚いたように目を丸くした。


「え……、一花これっ」


「うちの合鍵。」


「いっ、いいの……?」


頷くと、誠はこれまでにないほど満面の笑みになった。

その笑顔だけでなぜか、生きてて良かったと思えた。


キーホルダーをそのキーにつけてから、突然誠が一花を抱きしめる。

それと同時に、背景には閉園の花火が上がっていた。


「ちょ、ちょっと誠っ!」


「一花……大好きだー……」


花火の音と共に、微かにそう聞こえた気がした。

ギュッと力が強くなる誠に、一花も力を抜いて手を回す。

周りのことがどうでも良くなっていくほどに、この温もりは不思議な安心感をもたらしてくる。


「一花、生きててくれて、ありがとう」


耳元で、優しい声が囁かれる。


「また俺を、見つけてくれてありがとう」


「え?ふふっ…なぁに、またって?いっつも変なこと言うよね誠って。」


「……。」


誠は何も言わずに、一花の髪に唇を寄せた。


「今度こそ、一生守るからね…」


儚く優しい微かな声色なのに、それは無数の花火の中でもしっかりと、強い意志を象徴するように耳に届いた。


「何があっても……何を犠牲にしても……俺が一生死ぬまで一花の幸せを約束するから……」


それじゃあまるでプロポーズじゃないかと思った。

しかもこんなところで抱き合って……さっきからチラチラ人に見られているような気が……


でも……いっか。

初めて、そんなふうに周りのことなんかどうでもよく思えた。

だって私は、私の人生には今……誠という1番大切な人がいる。


そっか、私は……


「誠が……大好き……」


「……え?ごめん、花火の音うるさくて聞こえなかった。もう1回言っ」


一花は誠にキスをしていた。

目を見開いた誠は数秒固まっていたが、それを受け入れるようにゆっくり目を閉じた。

そして、互いの存在を、今ここに生きているということをしっかりと確認するように、もう一度深い口付けを交わした。

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