第16話 会議室

えっと、怪談ですね。


あ、最初に自己紹介とかした方が良いですかね? 面識ないですもんね、松原さんとは。


私は……そうですね、編集者Aとでもしておきますか。いや、Aはあなたですね。Bくらいにしてください。


それで、私が勤めている出版社のビルの話なんですよ。でもすみませんね、わかる人に聞けばすぐわかるような噂話程度のものなんです。私も凄く詳しいってわけじゃないですし。しかもありがちな話です。



ざっくりとした内容だけ言うと、自社ビルの4階の会議室では怪現象が起きる、っていうものです。

その怪現象自体も、ありがちな怪現象がほとんどです。

例を挙げると、誰も触っていないのに物が落ちる、誰も居ないのに音がする、急に電気が消えたり、点いたりする、とかです。部屋の隅に女性がうずくまっていると言っていた人も居ましたが、その真偽はわかりません。


けど、私が聞いた噂の中で一つだけ、毛色の違うものがありました。


それが、エアコンから正体不明の液体が垂れる、というものです。


黒っぽく、粘度の高い液体だという話でした。妙に具体的だし、話す人の証言がブレないので、なんとなく、変だなとは思っていました。


それで、たまたまpH試験紙を持っていた人が……まあ、そんなたまたまがあって堪るかとは思いますけど、その液体のpHを調べたそうです。


そしたら、強酸性を示したらしいんです。皮膚とか溶けるレベルの。


それで再調査が入って、やっぱりその液体は危険だってことがわかって、現在はその会議室は使えなくなっています。黒かったのは液体自体ではなく、壁紙の溶けた壁だったそうです。


どうしてそんなものが発生したのか、なぜエアコンからだったのかはわかりません。けど、社内では愉快犯の犯行という見方が一般的になっています。



調査が入る前、そのたまたまpH試験紙を持ち歩いていた人、会社内の人に言われたらしいんですよ。pH試験紙を持ってくるといいよって。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る