幕間13

編集者から話を通してもらったら、さっくりと話が進んだ。アポ取りの大切さを遅まきながら知ったような気分だ。


次の水曜日に、その衣料品店に行き人形があるか観察を試みた。けれど、子供が風船を放してしまった騒ぎで目を離した一瞬の間に、確かに人形が置かれていた。


不思議なこともあるものだ。



確認は済んだ、さあ帰ろうとエレベーターに向かったが、エレベーターは私の居る階から離れたところで止まっているようだった。しばらく待ってはみたが、扉の上部の表示は変わらない。一階までそう遠くなかったのもあり、諦めて階段室へ向かった。


黒ずんだオレンジ色の段を踏み、階段を下りていると、踊り場の隅に人が座っていた。視線を合わせないように通り過ぎようとしたが、それは叶わなかった。


「なあ、お姉さん」


声をかけられてしまった。無視するべきだろうか。けれど、事態が悪化するかもしれない。仕方なく、私は振り返る。


「なんですか」

「怪談集めてた人だろ、お姉さん」


先日のマネキンのときのことだろうか。それともほかの……? なんにせよ、下手を討ったのは間違いない。自重するべきだったか。


「そうですけど」

「俺、一個知ってるからさ、教えてあげるよ」


これは多分、聞かないと帰れないのだろう。私は内心で溜息をついた。


「後で著作権がどうのとか言わないなら聞いても良いです」

「OK、問題ない。商用利用可のフリー素材だ」


それならいいか。よくないけど。

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