第14話 階段
階段室ってあるだろ。ちょうどここみたいな。まあ、そん時のはもっと狭くて暗かったけどな。
いやァね、怪談の話をと求められたから、階段の、stairsの話をしようってわけじゃあないよ。
俺の知ってるユウレイは、階段に出たんだ。
お姉さんと同じように、俺もエレベーターが来るのが待てなかったんだ。エレベーター待ちってなんでか、実際の時間よりもかなり長いでしょ。だから俺、階段を使おうと思ったわけだ。
そこの階段室ってさ、昔ながらの——って言ったらよく聞こえるけど、古臭い思い金属扉で区切られてる、一種の部屋みたいになってるタイプだったんだよね。開けたら中は暗くて、センサーがいかれてるのか、俺が中に入ってしばらくしてから電気が点いた。扉から手を離したら、ちんたら閉まるくせに、最後だけバタンと派手な音を出した。
けどまあ、じっとしてるのがどうも苦手なんで、それよりはマシかと思った。それで、一階まで降りようとしたんだな。
確かその時居たのが二階で、階段室は狭かったから、階と階の間で階段は三回曲がるようになってた。要は、扉が全く見えない場所があるんだな。
で、一つ目の踊り場に来たら、二つ目の踊り場に人が突っ立ってるのが見えたんだ。髪の長い女でね、薄汚れた白いジャージを着てた。
ぜんぜん動かないから、すれ違うしかないでしょ。でも、そこ狭くて、ぶつからないようにするには結構神経を使わないといけなくてさ。嫌だなぁって思いながら、すれ違ったんだよね。
でもその女、微動だにしないの。それなのに、見られてるって直感したんだよな。髪の毛で顔が隠れてたから、そんなことわかるはずないのに。
無事に三つ目の踊り場に降りて、さあ次は出口だ、って思ったんだけど。どうしてか、階段の先に扉はなくて、代わりに四つ目の踊り場と、二つ目の踊り場に居た女が居るんだよね。
ぞっ、とした。
どう考えてもおかしい。扉がないから、追い越されたのに気づかなかったとかじゃなきゃ、絶対にそこに女が居るはずがない。で、さっき言った通り狭い階段で、しかも踊り場よりもスペースがないから、気付かなかったなんでことはありえない。
仮にそれが似ているだけの別の女で、俺をドッキリか何かにかけようとしてるんだとしても、扉がなくなるはずがない。扉をハリボテか何かで隠したとしても、さらに下に続く階段を造れるわけがない。つまり、絶対におかしい。
けど、階段を降りる以外に選択肢が思いつかなかったから——上を見たらやっぱり女が居た——、どきどきしながら女の横を通り過ぎた。で、また次の踊り場に降りて、その次、もうわかると思うけど、当然のように女が居る。
そういうことを何回も繰り返して、もうすっかり参った。じゃあ逆に、登ったらどうかとその次は考えた。
けどもやっぱり、登っても登っても、扉は無いし女は居るんだよな。そして急に、ふっと明かりが消えた。
なにがなんだかわからなかった。一つだけ思ったのが、女がどこに居るかわからない、ってことだった。
周囲のどこからも、気配がするような感じがした。よく、寝る前の暗闇に何かが居るんじゃないかっていう妄想をするだろ。ちょうどあんな感じだ。
それでぐるぐると周囲を、何かが見えないか見回した。そうしたら、薄っすら細長い光が見えた。階段室の扉だった。俺はそこ目掛けて走った。
階段だから、当然のように段を踏み外したり、落ちたりしたが、すぐに立ち上がって扉を目指した。狭い階段だったのが初めて幸いして、すぐにドアノブに手が届いた。
それで無事に帰還したってわけだ。
で、お姉さんに喋ってたら思い出したことがあるんだよな。ドアを開けて、階段室から出る直前だと思うんだけど。
ドアノブを握ってないほうの手に、何かが触ったんだよね。
その時は自分の服だと思ったけど、よくよく考えてみれば、その日に来てた服の生地よりも、ジャージとかの感触の方が近かったなって。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます