3、中学生 職業体験にて②
今日も学校ではなく警察者に向かう。
2日目は、指紋をとったり交番に行ったりするらしい。また新しいことができそうで楽しみだ。
いつもよりも少し早く起きる。なんだか背筋が伸びる。
別に何をしたわけでもないのに、ちょっと自分かっこいいかも?なんて思えてくる。
警察署に着いてメンバーと合流し、鎌倉さんに挨拶をする。
「おはようございます!」
「おお、おはようございます。じゃあ、今日は最初に模擬訓練をしてもらうから、体育着に着替えて。準備できたら呼ぶから。」
「はい!」
更衣室に向かい、体育着に着替える。模擬訓練って何するんだろうとワクワクしつつ、ちゃんとできるかなという不安感もある。でもまだ、楽しいの気持ちの方が大きい。着替え終わると、鎌倉さんが待っていた。
「よし、じゃあついてきて。」
連れていかれた場所は、畳が敷き詰められた部屋だった。道場みたいなところ。体育館くらいの広さを想像していたが、そこまでは広くなかった。
そこでは剣道を教えてもらった。その時に初めて竹刀を持った。警察ってこんなこともするんだ、と思いつつ、作法を教えてもらう。見よう見まねでやってみるが、全然うまくできない。きっと変な動きをしているんだろうなと思いながら、必死に竹刀を振る。鎌倉さんはもちろん、綺麗に竹刀を振っている。一種の憧れを抱いてしまうほど、かっこよかった。結局うまくはできなかったが、竹刀を振ったという経験だけは残った。
訓練体験が終わって着替えを済ますと、
「これから交番に行く。警察署より交番のほうが身近だよね。公道に出るから、迷惑にならないように。」
「はい。」
警察署を出て、交番に向かう。交番って、外から見ることはあるけど、中に入ったことはないかも。
一本道を歩いていき、交番に到着した。
「どうも。」
鎌倉さんが交番に入ると、中にいた警察の人が背筋を伸ばす。
「みなさんこんにちは!」
交番の人たちが笑顔で迎えてくれる。私たちも、元気に挨拶をした。交番には女の人が一人、男の人が一人いて、二人とも若そうな人だった。
交番の奥に入るとキッチンや机があって、思ったよりも生活感に溢れていた。確かに、交番って24時間やってないと困るもんね。ここで泊まって仕事したりするのかな。すごい、大変そう。
「警察官って言われて思いつくような、逮捕!みたいなのはないけど、町の平和を守る大切な仕事なんだよ。みんなも何かあったらすぐに交番に来てね。」
と、言ってくれた。大変な仕事だと思うけど、その仕事を誇っていそうだ。私もそんな誇れる仕事に就きたいな、なんて思ってみる。町の平和を守ってるんだもんね。すごい仕事だ。別に警察官になる気はないけど、やっぱりかっこいい大人には憧れる。
交番内ツアーと質問タイムを終え、警察署に戻ることになった。
「あ、その前にお土産あげるよ。」
そう言って持ってきてくれたのは、防犯ブザーだった。
「女の子は特に危ないからね。これ持ち歩いて、何かあったらすぐ鳴らして。」
「ありがとうございます!持ち歩きます。」
「うん、約束ね。」
青いハート形の防犯ブザー。明日から学校バッグに付けよう。
素敵なお土産をもらって、警察署に戻る。きっと戻ったら鑑識体験が待っている。今日一番楽しみにしていたことだ。
お昼の時間だったのでお弁当を食べると、警察者の休憩室のようなところで待っているよう指示された。そこで待っていると、警察の人が何人もそこを通る。すごく急いでいる人が多かった。何かの事件に東奔西走しているのだろうか。
鎌倉さんが戻ってきて準備を始めた。準備中に、周りの警察官に声をかけていた。
「あれ捕まったのか?」
「まだです!まだ逃げてます!」
「今からどこ行くの?」
「一丁目の交通事故です!」
話していく人はすぐにどこかに行ってしまう。
「君たちはそういうことしないように気を付けるんだよ。」
と言ってくる人もいた。二度とここに来ないようにしようと思った。
「よし、準備できたから、鑑識始めようか。自分の指紋をとってみよう。」
そうして鑑識体験が始まる。鎌倉さんのほかに一人、お手伝いの人が来てくれた。普段見識をやる機会が多い方だそうだ。こんな中学生のために時間を割いてくれるなんてすごいな、今すごい体験をしているんだなと思った。
透明の板に自分の指を押し付け、指紋をとる。そして銀色っぽい粉をつけると、指紋が浮き上がってきた、でも、くっきりは浮かび上がってこない。
「あー、ちょっと微妙かな。もう一回やるから、次また頑張ってみよう。」
やっぱり微妙だったんだ。でももう一回できるなら。次こそは。他のメンバーもあまりうまくはいっていないようだった。やっぱり難しいんだ。鑑識って簡単なものだと思ってた。
「意外と難しいでしょ。俺もあんまり得意じゃないし、そもそもやる機会もないんだけどさ。結構へたくそだよ。」
鎌倉さんは指紋をとらず、横から手伝いをしてくれていた。もう一人の鑑識の人は、一緒に指紋をとってくれていて、出来上がったものはとってもきれいだった。やっぱりやってる人はすごいな、と思わされる。
「じゃあもう一回やってみようか。空気が入らないように気を付けてね。」
そうしてさっきやった作業をもう一度行う。難しいけど楽しい。自分の指紋が浮かび上がってくる。さっきよりいい感じじゃない?そう思っていると、横から鎌倉さんが、「おお、上手だねえ。」と言ってくれた。
「ありがとうございます。」
その会話が耳に入ったのか、もう一人の警察の方も近くに来て、「お、うまいうまい。」と言ってくれた。二回目はうまくいったみたいで嬉しい。
他のメンバーも、一回目よりはうまくいったようだった。その中でも、「一番うまいよ」と言ってくれて嬉しかった。うまくできてよかった。
それにしても、パパッとこれを終わらせる鑑識の人はかっこいいなあ。町の平和を守るってイメージだったけど、中身を切り刻んでみてみるとよりすごさを感じられる。
「じゃあ鑑識はこれで終わりだ。あとは、帰る準備して終わり。出口で待ってるから、準備できたらみんなで来て。」
「はい!」
今日で職業体験は終わりだ。この二日で、警察になりたいとか、そんな大きなことは思わなかった。でも、仕事をするかっこいい大人を見ることができた。
何年もたった今でも、きっと鎌倉さんはこの町の平和を守っている。
いちごのいちえ 上村なみ @kamimura_kaku
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