No.6再会#1を読んだオタクの叫び(ネタバレを含みます)

 皆さんもうNo.6再会#1は読まれましたか。あさのあつこ先生の書かれたNo.6の続編です。本日2025年5月28日に発売されました。

 以下の感想文はネタバレがばりばりですので、未読の方はご注意ください。

 

 思い返せば私とNo.6との出会いは中学校の図書館でした。何を思って手に取ったのかももう覚えていませんが、ディストピアで出会った少年たちの物語にひどく魅了された衝撃だけはよく覚えています。

 当時はたしか五巻くらいまでしか発売されておらず、もちろん今のようにスマホもSNSも手元にありませんでした。続きがいつ発売されるのかも分からぬままに続きに焦がれた私は、本屋に連れて行ってもらうたびに今日こそ新刊が出ていやしないかとYA!エンターテイメントの棚を見に行っていたものです。

 No.6の刊行は比較的遅めで、年単位で待っていた記憶があります。とはいえ当時は時間の感覚が今と比べるとひどくゆっくりだった子どもでしたから、実際のところそれが半年だったのか一年だったのか、はたまた二年三年経っていたのかは分かりません。

 ただ、待ち焦がれた新刊を本屋で見つけた日の鼻血が出そうなほどの喜びだけは覚えています。

 

 何が言いたいかといいますと、私はこのNo.6という物語が好きで好きで大好きです。単行本版も文庫版も漫画版も手元にあります。それくらい好きな、十年以上前に完結した物語の続編を、まさか大人になって読むことができる日が来るなんて思っていなかったものですから、発売日を迎えた今日、頭が沸騰しそうに嬉しいのです。

 有名なお話なのでご存知の方も多いことと思いますが、このNo.6という物語は、講談社のYA!ENTERTEINMENTから出ていた、ティーンズ向けのエンターテイメント小説です。物語の主人公は、No.6のエリート区画クロノスで生きていた純粋培養の天才・紫苑と、のちに見捨てられた区域こと西ブロックを住処とすることになる、指名手配された少年・ネズミのふたりです。境遇も性格も正反対なふたりは、嵐の夜に運命的な出会いを果たし、欺瞞に満ちた都市No.6をめぐる争いに巻き込まれていきます。

 

 好きなところをあげればキリがありませんが、私は彼らの間にある友情でもあり恩義でもあり、依存でもあり恋情のようにも思える名前のない関係性を何より愛しています。

 この物語が完結し、漫画になり、アニメになり、文庫化もされて、どんどんと有名になっていくさまを後方古参面で見守ってきました。多感な小中学生の時期をNo.6とダレンシャンに脳を焼かれて過ごした私は、今も友情と友情以上の何かと色んな感情が混じり合った関係をこよなく愛しながら生きています。ありがとうNo.6!


 前置きが長くなりましたが、皆さんもうNo.6再会#1は読まれましたか?

 読んでないなら今からぜひ読んでください。待っていたもの、読みたかったものすべてがそのままそこに詰まっています。

 一度完結した物語、それも結構前に完結した物語の続編と聞くと、正直なところ、私はあまりいい思い出がありません。

 NARUTOにせよFF10にせよテイルズオブシンフォニアにせよハリーポッターにせよ、続編が出ると聞いて飛び付いては、自分の中で育ってしまった期待が高過ぎたのか、はたまた作品を好きになり過ぎて神格化してしまったのか、「私が見たかったものはそこになかった」とそっと目を逸らすことばかりの人生でした。もちろん自分向けではなかったというだけで、作品を批判する意図はありません。

 さてそれではNo.6はどうかといいますと、幻覚を見たかと思いました。続編が見たすぎて夢を見たのかと思いました。それくらい懐かしい気持ちがしました。

 会いたかったキャラクターたちにまた会えて、頑張っている彼らをまた見ることができた幸せに咽び泣くしかありません。これほんとに夢じゃないですよね? 皆さんも読んでくださいね。どうか私をひとりにしないでください。

 

 序盤の語りはエリウリアスでしょうか。それとも沙布ちゃんでしょうか。はたまたあさのあつこ先生の前書きと言われても納得できます。

 余談ですがエリウリアスが初めて出てきたときは結構びっくりしました。残酷な世界で必死にあがく人たちの物語と思いきや、いきなり超常現象が出てきてしまったかのような面食らい感がありました。自然なんて神様そのものですからもちろんいいんですが、ちょっと話の舞台が変わってしまった感じがして、びっくりしたことを覚えています。

 大人になってから読み返すとこれはこれでありなのかもしれないと思いつつ、でもこういう超常現象が出てこなかったとしたらどんな人間ドラマが展開されていたんだろうなあと妄想しなかったといえば嘘になります。

 この再会では、今度こそ自然の力というよりは人間たちの中で完結する物語が見られるのかもしれません。どきどきします。

 

 委員長紫苑さんとても淡々としててよくないですか!? 敬語が冷たくていいですね。この人表面上は素直で優しいのに、内面は感情的というかとても激しくて冷淡な一面もあるのが本当に得体が知れなくて好きでした。紫苑が豹変するというか、ネズミの言葉を借りるなら異形っぷりを見せてくるたび、怖さ半分興奮半分で見ていました。懐かしいー!!

 そして「炎は背景に過ぎない」の一文すごいよくないですか!? 犠牲者たちを数で捉えるのではなくて、ひとりひとりの人生があった人たちの、苦しみや悲しみそのものとして知りたいと言ったその口で、これを言えてしまうのがとても紫苑らしいですね。好きです。

 炎って、崩壊するNo.6を包む炎です。たくさんの人の命を奪った苦しみと悲しみの象徴そのものです。それを指しておきながら、紫苑はその炎を記憶の中のネズミの背景に当たり前のように落とし込んでしまうんです。

 犠牲者を数で見るよりよっぽど冷淡な見方というか、怖い捉え方ではないでしょうか。犠牲者を気にかけているのは本当のはずなのに、心の底ではただのそういう事象というか、記憶の中のネズミを飾る風景でしかないと考えているようにも受け取れてしまって、いかにも昔の本編通りの紫苑らしい感じがします。お元気そうでよかったです。また会えて嬉しいです。私はもうこの一文を見るだけで一日転がれる自信があります。

 紫苑さん、相変わらず二面性というかまっすぐな素直さとぞっとするような冷たさの両方を抱えて生きている人で大好きです。

 

 そういえば本編の後にBeyondという後日談的な本が出ていましたよね。当時うきうき読んだ覚えはあるんですが、自分が見たかったものではなかったというか、何かに衝撃を受けた気がして、一度読んだきり本棚に眠っています。何にそんなにも衝撃を受けたのか分かりませんが、内容もすっかり記憶から薄れてしまいました。今読んだらまた別の感想が出てくるかもしれません。


(追記2025/6/7 Beyondを読み直しました。本編終了後一年後のみんなの話だったんですね。変わらないでくれとネズミに願われた紫苑がなかなか黒いことをしていて、この先きっとこの人はミイラ取りがミイラとばかりに闇堕ち独裁者か新理想都市の教祖様になってしまうのだろうな、ネズミとの再会は変わり果てた紫苑の断罪ないし介錯になってしまうのかもしれないな…と不穏な未来を考えずにはいられなくなるようなお話でした。

 紫苑にそういう一面があることは知っていますが、それでも善性を保てる強い人だと信じたいので、当時はその不穏さにショックを受けたのかもしれません。ネズミが紫苑のことを過去として片付けようとしていたのも、当時の私にとってはショックだったのだろうと思います。

 再会を踏まえて読むと、紫苑は義務感でかなりがちがちに縛られてしまった結果そうならざるを得なかったんだろうなと察せられますし、ネズミは自分にそういい聞かせようとしているだけで、実際は紫苑のために人を手に掛けるかどうか迷うほど紫苑のことを想っているのだろうと分かるので、今読むと素直に楽しくどきどきしながら読めました。ありがとう再会!)

 

 そしてNo.6といえばマクベス!

 『消えろ、消えろ、束の間の灯火! 人生は歩く影法師。哀れな役者だ』という一節が印象的でしたが、再会でも回想シーンで出てきてとても懐かしい気持ちになりました。回想シーン最高ですよね。言葉選びがとても色っぽくて好きです。

 夢とうつつのあわい。静謐でありながら熱情を秘めた声。眼差し、吐息、そして囁き。どれも短い文なのに、どうしてこうも匂いたつような色気があるんでしょう。あさのあつこ先生の文はさらりとした色気があっていいですよね!!私もこういう文が書けるようになりたいものです。

 

 イヌカシさんもお元気そうでよかったです。イヌカシは本当に感情豊かで嘘がなくてかわいいですよね。サソリは虫じゃなくて節足動物と真面目すぎることを語る紫苑とぽんぽん話をするところがとてもかわいかったです。

 イヌカシがママで火藍がバァバなのよくないですか。なんですかそのかわいい関係……。イヌカシもシオンも健やかに育ってほしいです。

 紫苑に親友と言われて照れてるのも最高にかわいいです。沙布ちゃんが生きていたなら、きっとイヌカシと沙布は紫苑繋がりでいい友だちになれたんじゃないのかなあなんて考えてしまいます。イヌカシも沙布も、女性でありつつあんまり女性性を感じさせないところがあるというか、でもやっぱり女性を感じさせるところもあるというか、そういうところにも魅力を感じます。

 ネズミのことを考えながら、おれのシオンとおまえの紫苑って考えるところも最高でした。

 おまえの紫苑ってなんですか?ネズミの紫苑なんですか。対比とはいえ響きがなんだか素敵ですね。

 あいつらがキスしようが寝ようがおれの知ったことではないって後の方でイヌカシが紫苑とネズミのことを考えるところがあるんですが、そこもよかったです。紫苑と離れていることに耐えられるのかとネズミが自問自答するのも最高でしたが、イヌカシから見てもこのふたりはそういう関係にあってもおかしくないくらい近しく見えるんですね。

 恋をするとは狂うことだ、と意味深に二度引用される文を読んだ後だと、私の方がどうにかなってしまいそうです。BLとして書かれたBLを読むより、こういった一線の上で手を伸ばしあっているような危うい関係のほうが色っぽく見えるのはなんでなんでしょうね。

 依存度が一見大きいのは紫苑の方で、主導権を握っているのは一見ネズミなのに、根っこのところではそれがまるっと逆転するような二人の関係が大好きです。また読めて本当に嬉しいです。

 そして待ちに待った再会!

 ネズミと紫苑の再会です!

 紫苑の行動なんてお見通しとばかりにサソリさんにネズミを託しておいたところも微笑ましかったですが、ホラーちっくな登場を果たした紫苑と白々しい挨拶を交わすところがもう最高でした。

 髪を解くのも解かせるのも心許し合ってる感じが素敵です。こういう髪や首に触れるですとか、命を預けるような描写には、直接的な性描写以上のエロスを感じます。児童書に対してこういうことを感じるのもどうかとは思うのですが、汚れた大人になってしまった私をどうかお許しください。

 ネズミの髪を解くのは紫苑ですが、紫苑の顎に手をかけるのはネズミなんですね。言葉にせずに行動で示すそれがたまらなく素敵です。

 当たり前みたいにキスするじゃんですとか、唇が濡れるようなキスってどんなキスしてるんだこの人たちですとか、考え出すともうどんな目で彼らを見ればいいのか分からなくなりそうですが、ふたりの再会を見られる日が来るなんてもうなんと言えばいいのか……!

 言葉になりません。

 紫苑はネズミに惹かれているし、ネズミも紫苑と離れたままではいられない。紫苑にとってイヌカシや沙布は親友だけれど、ネズミは親友ではない。紫苑は彼にそういうものを求めていない。そんな言葉にできない関係が最高です。

 言葉にするというのは、言葉にしなかった部分を取りこぼすということでもあります。何かを恋と定義してしまうと、それ以外の友情だったり同情だったり仲間意識だったり、それら全部のうまく言えないものすべてを、その言葉の下に押し込めてしまうような気がします。そう思うと、言語化して何かを取りこぼすことになってしまうのがもったいないと思うことがあります。

 こういう感想にしても、言語化してしまうことでその言葉に向かって寄せられてしまう気持ちがあって、言葉にしきれず切り捨ててしまうことになる部分が少なからずあると思います。そう思うと、本当はもやもやとしたものは、形のないまま抱えておいた方が、純度の高い感想のままとっておけるのかもしれません。ただもう喜びが激しすぎてこういう形でどこかに言語化して吐き出さないと私の方がいっぱいいっぱいになってしまいそうなので、こうしてばーっと書き連ねています。

 

 とにかく、とっ散らかった感想ですが、ネズミに「惹かれる」紫苑、紫苑といると「自分がなくなりそうになる」ネズミ、そういう言い方でいろんな感情を受け止めるふたりが大好きなので、また会えて本当に嬉しかったです。

 意味深な恋の話が二度も引用されていたので、この先ネズミの感情は恋に近いものとして定義されることになるのかな?と期待とも不安ともいえない気持ちでどきどきしていますが、もうとにかく次の巻が読みたいです!!!!!!

 何年でも待ちます。あさのあつこ先生、編集部の皆さま、本当にありがとうございます……!!!!

 皆さんもぜひ!!!!!

 私をひとりにしないでください。一緒に再会にのめり込みましょう。

 

 それでは、ここまでお読みいただきありがとうございました。

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