第2話 悪魔登場
それからもう一度後藤さんに会える機会があった。
前回は全くと言っていいほど後藤さんとはまともに話せなかった。架さんのせいで。
だから待ちわびていた、連絡不精の後藤さんがまた誘ってくれるのを。
逸る気持ちで待ち合わせ場所に着いた私の目に入った地獄。
「やっほー」
そこに誰より先に待っていた架さんは、顔を顰める私に呑気に手を振った。
「え、なんで」
思わず足が止まり表情が無くなる私に架はつまらなそうな顔で尋ねてくる。
「ねえねえ、この食事会は何の意味があるの?」
また?また架さんもいるの?後藤さんが呼んだの?
いろいろな疑問が頭の中で過ぎる。
「君は後藤が好きなはずのなのに告白する気配もないし?何の為に会ってるの?」
呆然とするしかない私に架さんは容赦なく質問を投げ続ける。
「パパ活とか?」
「は?」
架さんのデリカシーのない言葉に反射的に声が出る。
しかし架さんは構わず首を傾げた。
「んー…じゃあ後藤から告白してくれるのを待ってるとか?」
「え…そういうわけじゃ……」
そりゃそうだったら嬉しいけど…
そうなれるように不定期の連絡も辛抱強く待って、こうして会えるのを楽しみに頑張ってるのに…
私がモゴモゴと口を動かしながら俯くと、架さんの声が明るくなった。
「まさか!後藤が君に興味ないの分かってるでしょ?!」
言葉は出てこなかったけれど顔を上げたら、架さんはニコニコ笑ってた。
そして楽しそうに続けた。
「好きならとっくに彼女にしてると思うよ、後藤なら」
薄々感じていた脈なしをストレートに言われたことや、
そのことに私が気付いていると言い当てられたこと、
出会って2回目の人に現実を突き付けられたことに間接的に玉砕した気分だった。
そして何より、それを何の躊躇いもなく、しかも楽しそうに言ってくるこの人…絶対ヤバい奴。
ゆっくりと私の視線が地面に落ちていく間際、後藤さんの声が聞こえた。
「あれ、なんで架がいるの?」
「やっほー」
架さんが何事もなかったように明るい声で答えている。
てか、え?後藤さんも架さんが来ること知らなかったの?どういうこと?
何故この人は私と後藤さんが今日食事をすることを知って来たの?
ハッキング?私か後藤さんの携帯がハッキングされてるとか?この人ハッカーなの?
またもいろいろな疑問が頭の中を過ぎって呆然とする私に後藤さんが尋ねてくる。
「どうした?」
その優しい声に顔こそ上げられたものの、言葉は出てこなかった。
言えるはずがない。間接的に玉砕してましたなんて。
でも「なんでもない」と言えるほど、私は強くなかった。
「大丈夫か?」
そう言って心配そうな顔をする後藤さんに何か言わなければと、
でも何を言えばいいのか分からなくて何度か瞬きをすることしかできないでいた。
すると架さんがまたつまらなそうな声色で言う。
「その気もないのに優しくするのやめなよ」
「その気って?」
後藤さんがすっとぼけてくれたから良かったものの、私が目の前にいるのに、この人は…
架さんは後藤さんをお説教するかのように淡々と言葉を続けた。
「後藤はなんのためにご飯に誘ってるの?」
この人は…この人は、私の目の前で後藤さんが恋愛感情を否定するよう誘導している。
今日これ以上ここに居たら、この人たちと居続けたら、私は失恋する。
「え?…お前こそなんでいるの?」
耐えられない。
後藤さんの問いかけににこやかに答えようとしていた架さんを遮って私は声を振り絞った。
「あの!…今日は帰ります」
驚く後藤さんの顔と架さんの見透かすような鋭い視線から逃げるように俯く。
上手い言い訳も思い浮かばず、それ以上なにも言えない。
でも理由を聞かれたらどうしよう。いや、絶対に聞かれる、多分、架さんに。
「どうしたの?」
案の定、架さんが意地悪そうな微笑みを浮かべて首を傾げた。
私はそれを一瞥して、もちろん何も答えず2人に背中を向けた。
そして逃げるように足早にその場を去った。
後藤さんには二度と会えないような気がした。
だけど架さんには二度と会いたくないと思った。
どうして架さんはあんなことをしたんだろう…
たった2回しか会っていないのに、私は一体なんの恨みを買ったんだ?
からかうにしても一線超えてるような…
私を困らせたかった?怒らせたかった?傷付けたかった?…なんの得があって?
架さんの楽しそうな笑顔が蘇る。
それはまるで悪魔のようで。
彼はきっと、性格が悪いんだろう。
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