第9話 視山刻人の秘密
視山刻人は超能力者である。
と言うのは周知の事実では”ない”。
当たり前だ。
「自分は超能力者です」と声を大にして言う馬鹿がどこにいる。
幽霊、妖怪、超常現象、あらゆるオカルトが科学によって否定されつつある現代社会。
そんな冷たい世の中で超能力者だと声を大にして叫んでも、周りからは気狂いか頭が残念な人と思われて白い目で見られるのがオチだろう。
俺は、そんな目で見られたくない。
平穏な日常を過ごしたい。
和やかな生活を愛していると言っても過言ではない。
なにかの間違いで能力が露見して、得体の知れぬ科学者共に拉致されて人体実験をさせられるより部室や家の縁側で暖かくお茶でも飲んでいる方が性に合っている。
故に、この事実は本人だけの秘密事項だ。
未来視。
それは本来知り得ぬはずの未来を視ることができる能力。
自分達に何が起こるかを知ることができる能力。
俺の両親が「刻人」なんて名前を付けたからなのか、それとも別の要因からなのかはわからないが、小五の頃には既に未来が視えるようになっていた。
まぁ、未来が視えると言ってもいつでもどこでも視えると言う訳ではない。
万能とは程遠い。
定期的、いや、かなり不定期に”それ”はやってくる。
三日ごとだったり、一ヶ月ごとだったり、数時間ごとだったり。
視える未来も二日後のことだったり、二ヶ月後のことだったり、数分先のことだったりと不定期だ。
最長で一年先のことも視たことがあるが、内容は結構曖昧だった。
そう、既知感と共に視える未来には条件があるのだ。
その一。
視える未来は「結果」しかハッキリと見えない。
例えば、三日先までの未来を視たとする。
その際、三日後のとある「結果」しかハッキリ視えず、それまでの三日間の「過程」は曖昧にしか視えないのだ。
「過程」は何というかこう、度の合っていない眼鏡をかけたときのようなぼんやりとした見え方をする。
ぼんやりと自分が何をしているのか、未来がどうなっているのかが頑張れば見えなくもない、といったような感じだ。
その二。
視える未来の「結果」は変えられない。
これは恐らく確定事項である。
中学時代に色々この未来視を研究したが、ハッキリと視えた「結果」だけは変えられなかった。
例え嫌な未来が視えても、変えられはしないのだ。
その三。
視える未来の「過程」そして「結果」以外の事は結構変えられる。
これもまた、中学時代に行った研究の成果だが、どうにも曖昧にしか見えない「過程」は柔軟に変えられるようだった。
例えばテストに出る問題を少しだけカンニングできたり、いつもの帰り道を通ると転ぶからその日だけ道を変えることができたり。
他にも、三日かけて解決する相談事を神木にアドバイスをして一日に縮めることができたりする。
条件二に「結果」だけは変わらないとしたが、「結果」が訪れる日を早めたり、「過程」を変えたりする事はできるみたいで「結果」が変えられない事以外は割と適当だった。
どうにも「結果」を遅くするのには失敗するが。
因みにだが、「結果」にカレンダーなどが映って日付が視えた場合などは「結果」を早めることはできない。
その四。
未来を視た後は数日間寝付きが悪くなる、と言うより寝れなくなる。
俺はこれを未来が見れる代償なようなものと捉えているが、コレが本当に酷かった。
寝たいのに寝れない。
頑張って寝ても悪夢を見てすぐに起きる。
未来視をした後は眠気がいつでもどこでも襲ってくるのだ。
これだけは本当に辛い。
以上、四点。
便利ではあるが、どうにも不便。
それが俺の未来視だった。
……さて、ここで少し先月の事を振り返ってみよう。
そう。俺は二年に進学した時点で今回の件の「結果」は既に視えていた。
神木が相談事を面倒くさがり、新入部員を募集し、二人が入部する。
そして相談事に関しても、キーホルダーは最終的に神木が見つけ解決する。
その「結果」を俺は知っていたのだ。
どんな新入生が入部するのかは曖昧にしか視えなかったが、二人は来ることがわかっていたし、相談事に関しても俺が手伝わなくても神木が解決した。
だから別に心配事など何一つなかった。
まぁ、ちぃとばかし神木にアドバイスをして解決に三日かかる所を一日に短縮させてもらったりはしたが、悪いことをした訳でもないのだから別にいいだろう。
貴重なゴールデンウイークを、俺は三日も無駄にしたくないのだ。
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