第7話 あっさり、あらビックリ
「しかし、これで今誰かがキーホルダーを持って帰っているとかなり厄介になるな」
神木は顎に手を当てながらそう呟く。
ゴールデンウイークだからな。
キーホルダーを持っている人物が学校に来ていない可能性だってある。
まぁ、そこは大丈夫だと俺は思うが。
「案外、美術室のすみっこに落ちてんじゃねーの」
「どうしてそう言える?」
「勘」
「殺すぞ」
「冗談だよ。神木、お前が最後に目撃情報を聞いたのはいつだ?」
「……? 昨日の午前中だ」
「お前が目撃情報を得ていたのは何回あって、どれくらいの時間が空いていた?」
「二週間、毎日二回。だいたい午前十時と午後四時だ」
「昨日の午後は?」
「特に情報はなかったが……まさか」
「そう。今、キーホルダーは誰かの目に映らない場所にある」
「いや、だが、俺の知らないところでキーホルダーが誰かに渡された可能性もある」
「それなら、お前が知ってる範囲で最後にキーホルダー持ってた奴に話を聞けば早いよな」
「……」
「誰かにキーホルダー渡された? 誰かに渡した? って」
「……そうだな」
「そいつは誰だ?」
「……美術部員だ」
ならば話が早い。
美術部は今日、活動日だ。
美術室前にたどり着くと、まずは神木だけが中に入った。
美術部は今も活動中だ。
せっせと何かを描いているのだろう。
こっちも用事があるとは言え、美術部の部長に相談事の件を話さなければならない。
しばらくして神木が出てきて「キミ達、一緒に来てくれ」と相談事をしてきた女の子と連れ添いの子を連れて美術室に戻っていった。
残された宮城くん、七扇さんはポカンとしていた。
「残されてしまいましたね」
「まぁ、大人数で入っても迷惑だ」
七扇さんの呟きに、俺は答える。
「これ僕ら手伝い必要だったんでしょうか」と宮城くん。
「今回は見学みたいなもんだろう。どんな感じで相談事解決をするのか、のな」
「神木先輩みたいにできる気がしないんですけど……」
「あそこまでしろとは言ってない。手順だけ覚えればいんだ手順だけ」
「これから私達がやるのですよね……」
「そうだな」
後輩ズには既に、これからは相談事解決を一任するということを伝えていた。
今回神木が彼らを呼んだのも、どうやってやるかを実際に見て欲しかったからだろう。
それを聞いた時、宮城くんは目を見開き、七扇さんは嬉々とした様子だったのをよく覚えている。
「まぁ、困ったらなんでも言うといい。大体神木が解決してくれる」
「……水坂先輩と視山先輩はどうなんです?」
「水坂はともかく……俺はまぁ、美味い茶くらいは出してやる」
「視山先輩……見損ないましたわ」
「手伝ってくださいよぉ」
「わかったわかった。わかったから騒ぐんじゃない」
俺は後輩ズに対して「しーっ」と指サインを口元に持っていく。
その時横目で見ていた水坂が、ずっと青い顔をしていたのが印象的だった。
しばらくして、神木と女の子二人が美術室から出てきた。
女の子二人は嬉しそうな顔をしていたが、神木だけは何故か浮かない顔をしていた。
「どうだった」
「見つかりましたか?」
「もしかして、見つからなかったとか……?」
「いや」と神木は首を横に振る。
「あっさり見つかった」
神木はそう言って、もふもふした熊のキーホルダーを俺達に見せてきた。
◇
部室に戻って、ひとまず全員分の茶を入れてやった。
あれからの話を聞く限り、どうやら熊のキーホルダーは、俺が適当に言った通りに美術室の隅に落ちていたらしい。
話はこうだ。
最後にキーホルダーを受け取った美術部員は、自分もキーホルダーを渡されたように誰かにキーホルダーを渡そうとしていた。
曰く、渡されたキーホルダーには「一日以内に誰かに渡さないと呪われる」という、チェーンメールみたいな話が付きまとっていたらしい。
まったく質の悪い話だ。
そして、いざその美術部員がキーホルダーを渡そうとすると、机の上に置いてあったキーホルダーがない。
まぁ別に「呪われる」とかはただの冗談だろう、と思った彼は特に探すこともせず、放置したままにしたらしい。
肝心のキーホルダーは、机から落ちて美術室の隅に転がっていたと言うことだ。
「人のキーホルダーに変な話付けるなんて酷いです」
神木の一通りの説明に、七扇さんが怒った様子で言う。
それに対して神木は冷めた口調だった。
「まぁ、この手のいたずらの相談事は結構ある。本当に酷い話だがな」
「そんな……」
「嫌な気持ちになるかもしれないが……まぁ、目的のものは見つかったんだ。良しとしよう」
「そう、ですね」と七扇さんは頷く。
「でも、本当にありがとうございました。キーホルダー見つけていただいて」
「こんなに簡単に見つかるなら、もっと早くして欲しかったけどね」
「それに関しては悪かったよ」
「フン」
「新入生のあなた達も、手伝ってくれてありがとう」
相談事をしに来た女の子は、そう言って嬉しそうに後輩ズに笑顔を向ける。
それに後輩ズはあわあわと「いえいえいえなんもしてないです」なんて首を振っていた。微笑ましい光景に、少し笑みがこぼれる。
「私みたいに困っている人がいたら、これからも助けてくれると嬉しいな」
「それは……はい!」
「もちろんです」
こうして相談事を解決し、程なくして女の子二人は部室を出て嬉しそうに帰っていった。
日議研も一つの仕事を終え、その場で解散となった。
神木は一人部室で残っていたが、まぁ気にするほどでもないだろう。
水坂も、茶を飲んでいる間に青ざめた顔は戻っていた。
万事解決。
これでゴールデンウイークを悠々自適に過ごせると言うものだ。
めでたしめでたし。
完。
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