妖の幻想的な力がもたらす因習に関わりを持ってしまった人々と、そこに現れる旅の薬売り・りんが織りなす、独特な世界観の物語。シリーズ一作目の御作品です。
ホラーとファンタジーがかけ合わさったような民話や因習を創作されておられますが、人の持つ我欲や恐怖、救いや愛を求める心……そういった繊細な心理や人間関係を物語に緻密に組み込まれており、まるで本当にこんな伝承があったのではないかと思うほどリアリティのあるお話に仕上げられておられます。
そしてその人間模様を、旅の薬売りのどこか得体の知れない視線が見つめている。
彼の目的とは?
そして怪異のもたらす不可思議な力に翻弄される人々の行く末とは…?
読めば読むほど、その重層的な世界観に引き込まれる御作品です。
ぜひご一読ください。
樹木の魚が空を泳いでいる。そんな不思議な存在がいる村で因習が行われている。
こういった状況が気になる方向けの、ホラー寄りダークファンタジー。
終始、寓話っぽい。
今となっては長寿シリーズとなった連作短編「薬売りりんシリーズ」の第一話。
2万字超となると読むのにちょっと身構えるけど、樹木魚という和風モンスターの奇妙さと、因習村のミステリーの気になる感で実際には長いと感じない。樹木魚は第一話だからこそある物語の始まりの瑞々しさや、書いてやるというエネルギーが高い気がする。シリーズを読むつもりなら、素直に第一話から読む方がいい。
薬売りりんは平たくいうと、薬を売りながら「特殊能力を持つモンスターを集める人」なんだけれど、薬売りとして人を助ける力を持ちながら、ドライなキャラもあって、因習とどう接点を持つか毎度先が読めない。
怖さもちろんミステリアスがその上をゆく、情景豊かなダークファンタジー。
人ならざるもの力を専横するようになった人間の顛末と末路を描いた物語です。
天の則を外れたように常に豊作の齎される中ノ村。
その村へ旅の薬屋が訪います。
奇妙な風体の薬屋は〝クスノキのりん〟と名乗ります。
何故に薬屋は、この村へ来訪したのか。
中ノ村を仕切る次丸の心の内とは。
言葉を発しない娘、梔子が村長の家に居る理由とは。
深く蔵されてた秘密と絡み合った人間の思惑は、やがて一つの臨界を迎えます。
多くの謎が露わとなったとき、この村に陽や雨の恵みが絶えることのなかった理由も詳らかになるのです。
まるでミステリーのように謎の開かれゆく愉悦と怪異譚の暗い悦楽が合わさった本作。
読む者は特異で極上のエンターテイメントを堪能できることでしょう。
〝旅の薬売り・薬屋りんシリーズ〟の第一作でもあるこの物語。
読まずにいるなんて、もったいない。
収穫祭間近の中ノ村を訪れた、薬売りの、りん。
彼は、村長の家に逗留することになります。
中ノ村の村長、次丸。
彼は、とても居丈高で癇癪もちの男。
ちょっとしたことにも、すぐカッとなって怒鳴りつけたりします。
不思議な雰囲気のある、旅の薬売り、りん、は、丁寧に巧みにそれを受け流していきます。
りん、には、この村に来た目的があるからです。
それは、この怒りっぽい村長、次丸と、村長の家の秘密に、大きな関係があるのです。
本当の昔話、本当の童話、というものは、低年齢用に新たに加工された優しい物語より、実はずっと残酷です。
その、本当の残酷な昔話、を聞いた気持ちにさせてくれる、納得、満足のホラー。
面白かったです。
ぜひ、おすすめします。