第66章 友か当主か
向かってくる剣先を見ながら、百里景砂はひとまず応戦することだけを考えていた。
しかし、その刃は結局のところ百里景砂を狙うことはなかった。それは彼女の背後にいる人間を狙っていたから。
彼女が剣先から体を背けると、上官双晶の剣先が菱藍雲のそれに応戦した。
「やっと来たんだな。遅かったじゃないか」
と、菱藍雲が狂ったように笑いながら言った時、二人の剣は動きを止めた。
「私がどれほどお前を待っていたか知っているのか? 我らが共に当主になって以来、こうして会う機会は減ってしまった。会うとするならば百里家で行われるつまらない話し合いの時くらいだろう? それだけでは寂しいとは思わないか、上官当主」
「そうかな? 当主として、それぞれの家ですべきことはいくらでもある。わざわざどこかへ出かけて旧事を語り合うこともないと思うが。菱当主は違うのか?」
「菱当主、か。お前も変わったな。昔はそういう呼び方をしなかったのに。当主になったらもう友とは呼べないのか?」
「菱当主。私は上官家の当主だ。上官家は代々百里家と盟友関係を結んでいる。しかし、あなたの菱家は百里家と対立する関係にある。よって、我々は友とは呼べないような気がするのだが」
と、上官双晶が落ち着きすぎるほど落ち着き払いながら言った時、菱藍雲は怒り狂いながら叫び始めた。
「そうか? 我々がまだ世子だったころは友のごとく語り合ったではないか! まさか上官当主は世子になってから参加した百里家の談会のことをお忘れか? あの時、誰も関わろうとさえしない菱家の世子に話しかけたのは上官家の世子だった。そのおかげで私は来たくもなかった百里家に来てよかったとさえ思えた。その出来事を当主になっただけで忘れてしまったのか!」
「もう何十年も前の話だ。あの頃の我々はまだ幼かった。当時世子だった私が幼き日の菱当主に話しかけたのは間違いだったと思っている」
「どうしてだ? 私が菱家の人間だからか? だが、幼少期から菱家のくだらない野心に手を貸そうとする人間などどこにいる? 当時の私にだってそんなものはなかった。だが、世子から当主になったお前たちに自分の家が潰されそうになるのを見ているだけでは私の命がなくなってしまう。私の家族もいなくなってしまう。だからお前たちに菱家の当主として対抗するしかないんだ。だが菱藍雲の心の中では、上官双晶と言う人間はまだ友なんだ」
「それで何が言いたい?」
上官双晶はしびれを切らしたのか、いつもは岩のごとく動かすことのない肩を思い切り震わせながら言った。
「上官双晶、お前は私が友であると認めるか?」
百里景砂は上官双晶の背後から菱藍雲の両目を覗き込むが、そこからは何の感情も読み取れなかった。彼女の視界に入ったのは、上官双晶が静かに首を横に振るところだけだった。
「そうか。わかった。それなら、私と上官双晶の関係もこれまでだな。これからは当主として接しよう。だが、その時も長いはずはないがな!」
と、菱藍雲が叫んだ瞬間、彼の剣先がなぜか百里景砂めがけて伸びてきた。
とっさに百里景砂は残っている力でそれに対抗しうる剣を作り出そうと試みる。しかし、その前にどこからともなく菱珪玉が現れ彼女を抱きしめたのだ。
その刹那、菱珪玉の背中からは血がとめどなくあふれ出てきたのだった。
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