第63章 一生の忠誠

 百里景砂は隣の客間で過ごしている百里楓祥の元を訪ねた。

 彼の案内で茶席に腰掛けているとき、扉を閉め終えた上官氏が注いでくれた白茶を百里景砂は丁重に受け取った。

「景砂、何かあったのか?」

 と、白茶を卓上に置きながら百里楓祥は言う。

「先ほど菱珪玉が私の元を訪ねてきたんです。彼曰く、菱家の狙いは百里家ではなく上官当主だとか。兄上、我々はどうするべきだと思いますか?」

「今、菱珪玉はどこにいるんだ?」

「私の部屋です」

「すぐに出しなさい。菱家の人間は信用できない。だから、上官当主が狙いだというのも、正直私には到底信じがたいことなんだ。景砂はそう思わないのか?」

「ええ。私は菱珪玉を信じています。彼は菱家の人間でありながら、密偵として私に菱家の情報を送り続けてくれましたから」

「だが、もしそれが偽の情報なら?」

「もしこの紅蓮の玉佩が何か反応を示していれば、私もその可能性を疑ったでしょう。しかし、現実はそうではないのです」

「奴はその玉佩を手に取ったことがあるのか?」

 と、百里楓祥は百里景砂の腰に着けられたままの紅蓮の玉佩を指さして言った。

 紅蓮の玉佩は百里家の宝でもあるが、同時にその主に対して裏切る可能性のある人間をも知らせてくれるのだ。玉佩が光れば何かしら企みを持っている者、逆に何の反応もなければその人間は一生の忠誠を尽くす。

「奴はいつその玉佩に触れたんだ?」

「私がまだ上官家にいたときです。その、上官家の養女として」

 百里景砂の口が閉じたとき、百里楓祥は真剣な面持ちで静かに目を瞑った。

「それなら菱珪玉は引き続き景砂の部屋で休ませよう。そして我々は菱家の一行を出迎えようじゃないか」

「でも、菱家の集団がいつここへ到着するのかは全く分かりませんよ?」

「いや。先ほど入ってきた知らせによると、じきに菱家の人間たちが氷晶区へやってくるらしい」

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