第56章 訴え
百里景砂はすぐに祭壇から離れると、ひとまず書斎へと向かった。ただ百里玄武がそこにいることだけを願いながら。
そしてその願いは聞き入れられたのか、百里玄武は確かに書斎で読書に励んでいた。その代わり、菱妃もまたそこで共に読書をしていたのだが。
「……父上」
と、百里景砂が菱妃に目を向けながら言葉が続かずにいると、百里玄武は何も言わずに菱妃を外へ追い出した。それから少ししたところで、百里玄武は穏やかに言った。
「これでもう話せるかな?」
「……はい。ありがとうございます。あの、父上。百里家の祭壇を最近使われましたか?」
「いや。使ってはいない。景砂の儀式のときは正式な祭壇を必要としない儀式だったし。景砂の言う祭壇と言うのは、百里家の祭壇室のことだろう? あれは、百里家の当主が代替わりしたときと、百里家の人間がどこかの家と婚姻するとき以外には使用しないからね。その時だけは辰砂領を挙げての行事になるし、百里家にとっても対外関係が変わるかもしれない重要な節目だから」
「はい。それはわかっています。ですが、あの祭壇に近頃人が入ったような形跡があるのです。今しがたこの目で見てきました」
すると、百里玄武の眉が微かに吊り上がった。
「それは、何か知らせでもあったのか?」
「伝書鳩が私の元に届いたのです」
と言ってから、百里景砂は『菱、祭壇』とだけ書かれた書簡を渡した。
それを一瞥すると、百里玄武は短く尋ねた。
「この字体は、菱珪玉だな?」
百里景砂が無言のまま頷くと、百里玄武は感嘆のため息をついた。
「菱珪玉か。彼は実に惜しい」
「ええ。私もそう思います。彼からの書簡をもとに祭壇へ向かってみると、蜂起に使用すると思われる武器が祭壇に隠されておりました。それからその武器の中に埋もれるようにして、菱妃の通行許可証までありました。父上、確認されてみますか?」
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