第51章 百里景砂との出会い

「ごめんなさい!」

 菱珪玉はぶつかってすぐに、名前も知らない子に謝った。それから、目の前で転がっている子を見てみると、なんとその子は見るからに百里家の令嬢と思われる、紅色の衣を身に纏っていた。

「いいの」

 と、その百里家の令嬢は笑って言った。どこかけがをしてしまったかもしれないのに、彼女はその様子を一切感じさせなかったのだ。

「どこかけがをした?」

 と、菱珪玉が恐る恐る聞いてみると、百里家の令嬢は右手を軽く押さえてから首を横に振った。

 菱珪玉は眼前の百里家の令嬢が無傷だったことに一安心する一方、これから自分は一体どうすればいいのか悩むしかなかった。

 すると、その時百里家の令嬢が神のような提案をしたのだ。

「もしよかったら、私の部屋へ来ない?」

 と。

 その提案を菱珪玉は迷うことなく受け入れた。

 だが、彼も全く想像していなかったのだが、百里家の令嬢の部屋でも、百里家の令嬢琴を演奏するのをただ聞く羽目になったが。

 でも、彼女の演奏と、演奏会での演奏は全く別物だった。彼女の演奏は、菱珪玉の知らなかった世界を見せてくれたかのような、魔術を帯びていたように感じた。

「どうだった?」

 と、彼女はひとしきり演奏した後で、菱珪玉に尋ねた。

「今までに聞いたどんな演奏よりも美しかった。君は有名な演奏者なの? 私でも君の名前を聞いたことがあるかな?」

「どうだか。私は、百里景砂っていうんだけど、その名前に聞き覚えはある?」

 百里景砂、の名前をこの時初めて耳にした菱珪玉はただ首を横に振るしかなかった。

 すると、百里景砂はただ笑った後で、一言言った。

「もうすぐ演奏会が終わるころだから、会場に戻ったら?」

 百里景砂の言った通り菱珪玉が会場に戻ったころには、すでに演奏会は終わり、

片付けすらも始められていた。

 それを見てから菱珪玉は百里家の客間に向かおうとしたとき、侍女らがひっそりと話す声が聞こえた。

「聞いた? お嬢様が菱家の子にぶつけられて、大切な手を怪我したんですって! しかもそんな手で琴を演奏されたそうよ。雲渓大陸でもっとも美しい音色を奏でる手が失われたら大変よね」

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