第49章 百里家と上官家婚約の噂
百里景砂が上官家との婚約を承諾した翌日、辰砂領全体が歓喜に包まれた。百里家の人間がそのことを漏らしたわけでもないのに、辰砂領の人間でそれを知らない人間はただの一人もいなかったくらいだ。
辰砂領のある麺屋でもまた、その話題で持ちきりだった。
「百里家のお嬢様が上官家に嫁いで行かれる時はこの辺りも相当豪華に飾られるんでしょうねえ」
と一人の客が言うと、店主もまた麺を煮ながら答える。
「そうでしょうねえ。百里家のお嬢様というと、昔から百里家で一番寵愛を受けていた方でしょう? その方が嫁がれるときは当然上官家へ見せつけるためにも、これまで見たことのないくらい豪華な婚礼になるでしょうよ」
「うん。間違いない。それも、ただの令嬢じゃない、百里家の言い伝えを伝承されるお方だ。そんじょそこらの婚礼じゃ、当主さまが満足されるはずがないからな」
「そうでしょうとも。いやあ、それにしても今から待ち遠しいですね。百里家のお嬢様が上官家の世子に嫁がれるその日を早く見てみたいものですから」
店にいた客が店主に同意する中、たった一人だけは伸びた麺と共に涙をのみ込んでいた。
この時初めて、菱珪玉は百里景砂の婚約を知ったのだった。
(やはり、私はあの方を諦めるしかないのか…)
菱珪玉はすっかり食べる気もなくしてしまった麺を残したまま、店を離れた。
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