第48章 百里家存続のため

 何でもない日の午後、百里景砂は百里玄武の書斎に来るよう指示された。

 百里景砂がおとなしくそれに従うと、百里玄武から告げられたのは、上官家との婚約を結んだ、という話だった。

「景砂には、三月後に上官家へ嫁いでほしいと思っている」

「しかし、私は百里家の言い伝えを遵守する身ですよ。上官家へ嫁いだところで、どれだけ生きられるかもわかったことじゃありません」

「うん。でも、必ずしも早死にするとも限らない。何せ、言い伝えにある百里家の長女は平和な世を実現したときに命を落とす、と言われている。それが今日になるか明日になるかもわからないのは確かだが、それが十年後や二十年後になる可能性もなくはないし、実際に長く生きた該当者もいる」

 百里家の言い伝えのことに関しては、確かに百里玄武の言う通りだ。しかし、その先例というのも実は一人しかいないから、百里家の長女である以上早死にする可能性の方が高いのだろうが。

「では、もし私が早死にしたらどうなるんです?」

「その時は、百里家と上官家の間には婚姻関係が不要だということだろうから、別に何もしない。ただ、もし今の状況が続けば、三家はより強固な関係を結ぶことができない。そうなれば、三家、特に百里家の今後が危うくなってしまう。その事態だけは避けなくてはならないだろう?」

 と、百里玄武は極めて温厚な口調で諭すように言う。

 その言葉を聞いた瞬間に、百里景砂にも痛いほど百里家の状況を理解せざるを得なかった。今はたとえ百里家の長女を犠牲にしてでも、百里家を存続させるために行動しなければならないのだ、と。

「確かに。わかりました。では、もし三月後に私がまだ生きていたら、上官家へ喜んで嫁ぐことにいたします」

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