第43章 上官氏の死

 菱珪玉は夢中で菱藍雲の部屋まで走った。部屋の扉の前まで来たところで、すでに菱藍雲の怒鳴り散らしている声が聞こえてくる。

「お前が長年上官家のために菱家の内情を探っていたことを私が知らないとでも思うのか!」

 その声に耳を閉ざしながら、菱珪玉は部屋の中に入った。

 すると、すでに血のついている刀を持った菱藍雲と、彼に向かい合うようにして跪き全身を血に染めている上官氏が同時に自身の息子に目を向ける。

 菱珪玉が刀に目を向けたまま、一歩一歩彼らの元に近づいていく。すると、上官氏は両目に涙をためながら首を横に振っていた。

「ようやく来たか。あいつがお前を呼びに行くまでに随分と時間がかかったみたいだな」

「おそらく、私が庭園を散歩していたせいでしょう」

「ふん。まあ、いい。ところでお前が私なら、お前は自分の母親をどう始末する?」

 菱藍雲は不気味な微笑を浮かべたまま、刀を上官氏にゆっくりと向け始める。

「まずは、母上が何を犯したのかを聞かせていただいてもよろしいですか? 判断はそれから致します」

 すると、菱藍雲は二つ返事でそれを承諾し、息をつく間もなく教えてくれた。

 まず、上官氏は菱家に嫁いで以来、菱家で探り当てた内情を全て上官家へ伝えているということ。それから、百里景砂に劇薬を飲ませ、想定期間外に百里家へ戻させたこと。どちらも、菱家を陥れようとする行為ばかりで、菱家内では死に値する、というのだ。

「長年菱家を裏切り、それを改めようともしない。そのような人間は菱家に残しておくと災いの種になるとは思わないか?」

 すると、突然上官氏から人間のものとはとても思えないほどの高らかな笑い声が聞こえた。

「裏切る? はっ。菱藍雲。思い上がりもいい加減にするべきね。私は菱家に忠誠を誓ったことなどただの一度もない! 私はずっと上官家の人間よ。菱家に嫁いできたのも、全ては上官家のため。だから、あなたの言う裏切り、という行為はただの一度もしたことがない!」

「黙れ!」

「何よ! そんなに私を殺したくなったのなら早く殺せばいい! あなたとの縁談が決まって以来、この日が来ることくらいわかっていた! それとも、自分が縁談を申し込んだ相手を殺すのが惜しくなったの?」

「うるさい!」

「やっぱりね。でないと、私を今日まで生かすはずがないもの。それなら、あなたがわざわざ手を動かす必要はないわ。すでに、何度も手を動かしてくれたことだし。この件は私が自分で終わらせることにする」

 上官氏は言うや否や、菱藍雲が刀を持つ手を後ろに引くよりも早く、その刃先に自らの首を当てた。

 次の瞬間に、彼女は力を一切失ってしまったが。

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