第37話 上官双晶の「謀反」

 蒼碧貞によると、あと三日もしないうちに上官双晶が形だけの謀反を起こすらしい。何でも、菱藍雲に早いところ大事を起こさせるつもりなのだそうだ。

「母上、上官家の『謀反』は、どれくらいの期間で行われる予定なのですか?」

 百里景砂が眉根をひそめながら尋ねると、蒼碧貞もまたそっくりな表情になる。

「そうね。当主から聞いた範囲内からの推測になるけど、たぶん一日で上官当主の騒動は終わると思う。あまりに長引いても上官家が困るだけだから。そして、もし上官家の蔵が困窮するような状況になれば、いい思いをするのは菱家だけでもあるからね」

「なるほど。でも、突然上官家が謀反を起こしたところで、その急な変化を菱家は信じるでしょうか? 菱家どころか、雲渓大陸の全ての人間が、百里家と上官家は特に蜜月な関係を持っていると知っています。昨日までは何の動きもなかったのに、今日になって突然百里家と上官家の関係に亀裂が入ると聞いて、信じる人間がいますか?」

「もちろん、いるわけがない。だから、そのために当主は上官当主を辰砂領に呼んだのよ。上官当主が氷晶区に戻るころには、おそらく雲渓大陸中で噂になっているはずよ。上官当主は辰砂領に滞在している間に、百里当主と反目することになった、と」

 百里景砂はどうにも信じることはできなかったが、雲渓大陸の噂は蒼碧貞の言う通りになった。上官双晶が氷晶区に戻るか戻らないかのうちに、雲渓大陸の全ての民は百里家と上官家の間に一体何があったのかという話題でもちきりになったのだ。

 噂というものがどれほど恐ろしいのかを百里景砂は知っている。それは、事の真偽がいかなるものであれ、一旦噂として広まりそれを信じる者がいた瞬間に、噂話というのは真実になるのだ。

 そして蒼碧貞の言う通り、あれからちょうど三日目に上官双晶は事を起こした。その「反乱軍」は一人の民をも傷つけることはなく、徐々に辰砂領に接近してきたという。

 その時、百里景砂は普段と何も変わることなく琴を演奏し続けていた。特定の曲を演奏するわけでもなく、ただ心のままに。そしてその音は、病でも持っているかのように不安定な音律を形成していた。

「景砂」

 と、百里玄武がいやに落ち着いた様子で部屋に入ってくるのが見えたとき、百里景砂はようやく動かしていた手を止めた。

「父上。てっきり、今日は来られないのかと思っていました。どうしたのですか?」

「うん、確かに用はあるね。でも、様子を見に来たというのもあながち間違いじゃないんだ。さっき近くを通り過ぎたときに、いつになく乱れている音が聞こえてきたから。どうかしたのかい?」

「いや、何でもありません。ただ、落ち着くことができないだけですから」

「そうか。最近、百里家の外もあまり落ち着いているようではないからね。景砂が落ち着いていられないのも仕方がないと言えば仕方のないことなのかもしれない」

「ところで、父上の用というのは一体何なのですか?」

 すると、百里玄武はようやくそれを思い出したかのように、「ああ」とうなった。

「もうすぐ、百里家である儀式を行おうと思うんだ」

 その言葉を聞いた瞬間、百里景砂の胸には不穏な予感だけがよぎっていった。

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