第36話 百里家での再会

 百里景砂は百里玄武に連れられて、百里家の書斎に入る。 

 そこには、数日のうちに憔悴した様子の上官双晶がいた。彼は百里景砂の姿を見るなり、その顔に血流が好転した。

「百里当主、この度は私の管理不足で、ご令嬢を上官家の外へと出させてしまいました。申し訳ありません」

「もういいんだ。こうして景砂も無事に戻ってきたことだし。景砂もきっと、気に留めていないはずだ。そうだろう?」

 百里玄武が隣にいる娘に目を向けながら言う。

 それまでどこか空虚だった百里景砂は慌てて両眼を養父に向けた。

 上官双晶は相変わらず忠誠心と慈愛に満ちた目をしている。

 静けさばかりが残る、装飾など何もない部屋の中で、百里景砂は考えながら言葉を紡いでみることにした。

「当然です。上官当主の行いは全て、私のためだとわかっていますから。ただ、上官家では当主に礼すらも伝える暇がありませんでした。それだけを悔やんでいるところです」

「それなら、言えばいい。上官双晶は私が動け、と言うまでは動かないから」

「百里当主。私はあなたの飼い犬か何かですか?」

「まさか。盟友に決まっているじゃないか。ただ、私も娘にはいい格好を見せたいだろう?」

 すると、上官双晶はようやく腹から笑った。その時、百里玄武の顔にもようやく安堵の色が浮かぶ。

「ははは。心中お察しします。とはいえ、私には息子しかいませんので、完全には推測することまではできませんが」

 百里玄武が上機嫌に笑う中、今度は百里景砂が口を開く。

「上官当主。上官家ではお世話になりました。ありがとうございました。この恩は必ずお返しします」


 書斎を出て、百里景砂は自分の住んでいた部屋に戻った。

 部屋は、しばらくの間誰も使っていないはずなのに、物は何一つ散らかってはおらず、埃すらも一つもない。調度品もかつてと全く同じ場所に置かれている。まるで、百里景砂が失踪している間も、いつかは彼女が帰ってくることがわかっていたかのようだ。

 百里景砂はそれだけを簡単に確認してから、真っ直ぐに寝台へと向かう。すぐにそこに横たわると、何も考える暇もなく彼女は眠りについた。

 珍しく夢も見ることないまま目を覚ます。すると、彼女の視線の先には、温順な目で自らを見る、百里玄武の正室である蒼碧貞そうへきていの姿があった。

「母上?」

 曖昧模糊な声で、百里景砂は呼びかける。

 すると、蒼碧貞はすぐさま百里景砂が横たわっている寝台に腰掛けた。

「景砂、今のうちに戻って来てくれてよかった。でないと、戻ってくる道中で命を落とす羽目になっていたかもしれなかったから」

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