第34話 百里家への帰還

 百里家まで、百里景砂と菱珪玉は三日三晩休むこともほとんどなしに馬を走らせていた。

 百里家のある辰砂領しんしゃりょうと菱家のある錘輝境すいききょうは共に雲渓大陸の北方にあり、百里家は菱家よりも東に隣接している。この両地の間には、大小さまざまな関所がある。

だが、特に錘輝境の中で、菱珪玉が百里景砂を連れ戻そうとしていることが菱藍雲に伝わるのを防ぐためにも、菱珪玉はただひたすら関所のない山道を選んでいた。そしてそのおかげで、百里家の関所にも突然菱珪玉らが現れるのも不自然だということで、辰砂領に到着しても関所のある道は使えなかったが。

「菱公子。百里家まではあとどれくらいかかりそうなの?」

上官景砂が尋ねたのは、食料がなくなる直前の昼間のことだった。辰砂領の山道は、山道と言えるほど木々で生い茂っているわけではなく、見るからに全て人の手入れが行き届いているかのように、木々が一定間隔で生えている。そのおかげで、日が照っているのに、百里景砂たちには日陰がほとんど用意されなかったのだ。

「あと少し。この道は、見覚えがある」

「何で見たの? 私もこの道を知らないというのに」

「この道は、私が人質として百里家に来てから、たまに外に出たときによく来ていた場所なんだ」

「と言うことは、ここから百里家までは歩いていくこともできるということ?」

「うん。歩いてもそれほどかからない。ここは確か、百里家の所有する林だったはずだ。儀式なんかに使うと聞いたことがある」

 菱珪玉がおそらくわずかにしか残っていない水を飲む。それを見ていると、百里景砂も喉の渇きを覚えてしまった。

(百里家まではもう少しなのだから、少しだけでも水を飲んでおくか)

 百里景砂が水を一口飲むと、菱珪玉はやっと馬にまたがった。

「じゃあ、そろそろ百里家へ向かおうか」

 菱珪玉の言っていた通り、その林から百里家まではあっという間だった。林を出てすぐに、百里家の門が見えたのだ。

 百里景砂は二人の護衛が守護している門まで歩いていく。すると当然、護衛たちは百里景砂を足止めした。

「おい、勝手にここへ入ってくるんじゃない」

「そうだ。ここをどこだと思っているんだ?」

 護衛たちの軽蔑したような目つきを見ながら、百里景砂は言う。

「百里家」

「そう。知っているのなら、入るんじゃない。わかったか」

「知っているからこそ入らなければならない。私は、自分の家に帰ってきただけだから」

「あ? あんた、百里家の人間なのか? だけど、最近もお前みたいな顔の人間がこの中に入っていくのを見たことは一度もないぞ!」

 護衛たちはかたくなに百里景砂を中に入れようとしない。

 そこで、百里景砂はあるものを取り外した。

「それなら、この玉佩のことは知っている?」

 それは、百里景砂が肌身離さず持ち歩いていた紅蓮の玉佩だった。そしてそれは、百里家の正統な娘であることを示すものだったのだ!

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