第21話 禁足命令
上官景砂の言葉を少しの間だけかみしめるような表情を見せた後で、菱珪玉は言った。
「君は勘違いしているよ」
「そうですか?」
「うん。だって、私は誰に対しても同じように接しているだけだから」
菱珪玉は小声で言いながら、顔から一切の表情を消した。
菱珪玉と別れ、上官景砂は自室に戻った。特にすることもなかったおかげで、届いたばかりの書物に読みふけっていた。
その時、不意に部屋の扉が開いたかと思うと、厳粛な面持ちをした上官双晶が入ってきた。
「上官当主? どうかしたのですか?」
上官景砂は書物から目を離し、上官双晶へ腰を曲げた。しかし、彼はなぜか上官景砂に目を向けることなく、ただ一言静かに告げただけだった。
「景砂。君はこの上官家で、自分だけが規則に縛られないのをいいことに、好き勝手行動してしまった。そのおかげで、上官家の子弟からたくさんの苦情が来ている。ゆえに、ひと月の間、君を禁足にすることにした」
「私が好き勝手に行動した、と言うのは具体的にどういうことなのでしょう?」
「菱珪玉に言う必要のないことを言った、と言うようなことだ」
「言う必要のないこととは?」
上官景砂は質問をした瞬間に気が付いた。上官家と菱家は対立関係にあるのだから、上官家の養女という名目で上官家に居候している上官景砂が、菱家の公子と距離が近くなるほどに話すなど、そもそも起きてはならないのだ。でないと、万一上官景砂が菱珪玉と通じて上官家に害をもたらしたら? その暁には、上官景砂どころか上官家全ての者の命が危うくなることすらあり得るのだ!
「景砂。君にもその理由が分かったようだから、私はあえて多くを語らないことにする。だが、一言だけ警告しておくよ。菱家のいかなる人間とも距離を縮めない方がいい」
「しかし、菱公子は清廉な方です」
「うん。それくらい、私も知っている。珪玉は菱家の中でも珍しいくらいに素晴らしい子だ。しかし、それでも彼は菱家の公子。今後も今と同じような人物でいるとも限らない」
「しかし、今後彼の人柄が必ず変わる、という保証もない」
「景砂」
不意に上官双晶の声がまるで氷のような冷たさを帯びていく。
「何です?」
「君は、菱珪玉に想いを寄せているのかい?」
しかし、その場で上官景砂にはその答えを口にすることができなかった。結局のところ、彼女自身にも自分の心の中に一体誰がいるのか、果たしてそのような人物が本当に存在しているのかすら微塵もわからなかったのだ。
だが上官双晶はそれ以上問い詰めることはなく、それでいて彼が下した決定を覆すこともなかった。上官景砂は何の前触れもなく、上官家で禁足となったのだ。
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