第19話 百里家、上官家、菱家、蒼家のあれこれ
菱珪玉は少しの間考えると、特段迷いもなさそうに首を縦に振った。
「そうだね。もし、私が世子でなくなれるなら、願ったりかなったりだ。正直、今の菱家は私の手には負えないと思う」
「どうして?」
「菱家はもう後戻りできないところまで来てしまったからだよ。もう、雲渓大陸の天下を取ろうとする野心を隠すこともできなくなっているし、その野心の実現のために行動をひっこめることもできない状態にまで来てしまっている。でないと、百里家、上官家、それから蒼家の三家が協力して菱家を襲撃するなんてことはしないはずだよ」
「どうして、そう思うのですか?」
すると、菱珪玉はまっすぐに上官景砂の目を見つめながら言った。
「菱家の兵力を牽制するためさ。雲渓大陸の中で、兵力に関しては残念ながら菱家が最も優れていると言われているんだ。だけど、そのほかの百里家、上官家、蒼家は正直兵力が優れているとはいいがたい。だから、この三家が菱家に兵力で立ち向かうには、三家が協力するしかない。だから、昔からこの三家では協力関係が根強かったんだ。そして今回、それがある程度余裕のあるところまで到達したんだろう。三家が協力して菱家を襲撃することで、菱家の兵力を多少は削げると考えて取られた結果が襲撃だったんじゃないかな」
「……それで、菱家の兵力は実際に多少は削げるものなのですか」
菱珪玉は苦笑しながら首を横に振る。
「いや。さっきも言ったけど、菱家はもう後戻りができないところまで来ているんだ。つまり、いくら三家が協力したところで、菱家の兵力には何の影響すらもない状態になってしまっているってことだ」
言い終わると、彼は嘆くように細く長い息を吐いた。その時、上官景砂の目には、彼はただ普通の人になることだけを望んでいるように見えた。
「……菱公子は難しい立場にいるのですね」
「どうしてそう思うんだい?」
「だって、菱公子は菱家の方向性に反対しているように見えるから。その、内心ではですが」
すると、菱珪玉はおかしそうにしばらくの間笑い転げていた。
「それね、信じる人って景砂さんくらいだよ。普通、他の人は私に何の野心もないといったところで、信じないから」
「どうして?」
「だって、私の姓は菱だから」
聞き覚えのあるその言葉に、上官景砂の胸がきりきりと痛む。だが、そのどうしようもない痛みを抑える方法なんて、今の彼女には一切なかった。
「自らの姓で人格を判断されていると、いつから気付き始めたのですか?」
「確か、初めて百里家に行ったときじゃなかったかな。琴の鑑賞会の時。あの時、私はまだ七歳だったけど、ほとんどの人が私を避けて、しかも私のいるところで少し離れたところから菱家のことを悪く言っているのが聞こえたときに悟ったよ。菱家は、他の家の人とは相容れない存在なんだって」
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