第3話
「それで、これからどうするの?」
翌日、昨日より多く二匹のバレットボアを買ってホクホクだった僕は、仕事を終えたその足でマチルダさんの元へ訪れていた。
僕を交えた三人で、たった一晩ですっかり元気になったアリアさんの今後について話す。
「私は、家に戻ろうと思っています」
「どうやって?」
「う、それは……」
彼女の現在は金も力もない貴族令嬢。
そんな彼女が自力で家に戻ろうとしても、途中で捕まって売られるのがオチだろう。
それを見たマチルダさんが、一つため息をつく。
「はぁ、仕方ない。私の伝でカスベル侯爵に迎えを寄越すよう伝えるよ」
「お父様とお知り合いだったのですか!?」
「いや、知り合いの知り合いってところかな。とりあえずそれでいいだろ?」
そのやり取りに、僕は思わず言葉を失う。
彼女の実力と今までの言動から貴族とのツテがあるのは薄々察していたが、侯爵に連絡が取れる程だとは思っていなかった。
もしかしたら、彼女は想像よりもすごい人なのかもしれない。
そして、今度は僕がふと疑問に思ったことを尋ねる。
「そもそも聞いてなかったんだけど、アリアさん。君はなんであんな所に?」
「ああ、それは……」
そう言って話し出すのはこの街に着くまでのこと。
曰く、この街へは王都へ寄る際の中継地点として訪れようとしていたとの事。
そして、この街に入る少し前に盗賊に襲われて護衛は全滅。命からがら街へと入り込んだものの行く宛てもなく路地裏で過ごしていたとの事。
「あちゃ、そりゃあ本当に死ぬ寸前だったねー。ライト君に拾って貰えてよかったねぇ」
「ええ、冒険者様と薬師様が救って下さらなかったら私の命はここにないです」
重ね重ね御礼を、と頭を下げるアリアさんに気にしないでと首を振る。
「あの、冒険者様。もし良かったらなんですが、私が家に戻る時に一緒に着いてきてくれませんか?」
少し、不安げに話す彼女に疑問が浮かぶ。
「んー、護衛をやるには些か実力不足だと思うんですが」
「ああ、違います!冒険者様に御礼を受け取って欲しいのです」
ふと、マチルダさんの方を見る。目が合うと、微笑みながら頷いていた。
「そういうことなら、是非とも」
そのやり取りを見終えたマチルダさんは、一つ手を叩く。
「よし!話もまとまったことだしご飯にしようか。今日は君も食べていきなよ?」
「ありがとうございます、頂きます」
その日の夕食は三人で囲んだ。
◇
三日後、仕事も終え宿で休息を取っていると、窓を叩く音が聞こえた。
そこには一匹の猫が手紙を咥えている。
「ああ、マチルダさんの使い魔か」
「ミャッ」
それは、マチルダさんが愛用する人工生命の使い魔。猫の……確か名前はニャッキ。
なんで彼女がそんなものを使役しているのかは知らない。女性は秘密が多いからね。
僕が窓を開けると、手紙だけ落としてぶっきらぼうに去っていく。
「可愛げのないヤツめ」
手紙の内容は簡潔だった。
約一週間後にカスベル伯爵が迎えの騎士を寄越すとの事、そして僕はそこに同行して欲しいとの事。
「しばらく働けないし、少し余裕があった方がいいかな」
その後、その日二回目の狩りに出かけた。
そんな日をしばらく繰り返すこと数日後。
懐に余裕ができ始めた僕は、ふと気になってマチルダさんのもとを訪ねた。
「おお、ライトくん。ちょうど良かった」
そう言って迎えてくれたのはマチルダさん。
そしてその傍らには男騎士が一人立っていた。
「あれ、一週間後って聞いてたんですけど早まったんですね」
あの手紙が来てから、まだ数日しか経っていない。
「ああ、それがね……」
「そこからは、私が説明しよう」
そう言って割り込むように話し出したのは立っていた騎士。
マチルダさんが話を遮られたことにムッとした表情になるが見えてないのか、気にしてないのか、話を続ける。
「私は、お嬢様を護衛していた隊の副隊長だ。お嬢様とはぐれて血眼になって探していたのだが、どうやらここで保護していると聞いてな。私がお嬢様を連れて戻ることになったのだ」
「って、ことらしいよ」
そう言って不貞腐れるマチルダさん。
高圧的なその態度には、いかにも貴族然としたものを感じる。
やっぱり着いていくのはやめようかとも思ったが、言ってしまったことを引っ込めるのは逆に失礼にあたるだろう。
すごく、面倒くさい。
「わ、わかりました。じゃあ出発は明日とかですか?」
「明日?何を言っている。こんな所にお嬢様を住まわせてはおけん。すぐに行くぞ」
そう言って荷物をまとめ始める騎士。
幸いこれといった持ち物は無いし、宿代も余裕ができた時に纏めて一ヶ月分は支払っている。
強いて言うならば不在時の宿代がもったいないが、貴族からの報酬を天秤にかけたらそちらに傾くだろう。
「わかりました、ついて行きます」
一部始終を見ていたマチルダさんは、ため息とともに肩を竦めていた。
店の裏手に回ると、既に馬車が用意されていた。
僕が来なかったらそのまま出発していたのかもしれない。
その見え透いた思想に腹が立つが、ぐっと飲み込む。
「あれ、アリアさんは?」
「お嬢様はもう既に中に乗っている。お前も早く乗れ」
てっきり「お前は歩け」くらいは言われると思っていた僕は肩透かしを食らう。
騎士に言われるがままに、渋々馬車に乗り込んだ。
「まあ、冒険者様お待ちしておりました!」
快く迎えてくれるのはアリアさん。
いや、この騎士の前ではアリア様と呼んだ方がいいのかもしれない。
「ええ、アリア様。この度はお世話になります」
チラリと騎士の方を見るが、特に怒った様子は無い。これが正解か。
「御者。早く出せ」
そう言いながら乗り込んできたのは騎士。
護衛は基本的に一緒に乗らずに歩くと思っていたのだが、そうでは無いらしい。
「おい、小僧。お前はどんな物語持ちだ?」
「え……?」
一般的に人の物語を尋ねるのはマナー違反とされている。それも初対面の人間ならば尚更。
「ガラガス!失礼ですよ!」
「お嬢様。私は貴女の安全のためにもコイツの力を知っておく必要があります」
それっぽい理屈をあげるが、答えになっていない。
そもそも同じ名を冠する物語でも人によってその詳細は異なるのだ。
例をあげるなら、剣士の物語を持つ人間にも長剣に適性を持つ人もいれば刀に適性を持つ人がいたりする。
だが、答えなければ収まりそうにないのも事実。
やっぱり、あまり口にしたくないが。
「……
すると、少し目を見開く騎士。
侮られるかと思ったがそんな様子でもない。
「むぅ、わかった。お前はそんな物語でなんで冒険者なんかやってるのだ?サーカスに入るという手もあるだろう」
どこか態度が軟化した騎士に少し違和感を覚える。
「なんででしょうかね、夢だったからですかね」
自分でも分かるほどにぶっきらぼうに応えるが、嘘をついている訳でもない。ただ、この瞬間は心の底から出た言葉だった。
「そうか、それは──」
──素晴らしい事だな。
そう言って騎士は黙りこくった。
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