第28話 都会に行くコト


 学校の行事で、どこかに行く時のクラスでの『班決め』。


 僕はこれがすごく苦手だ……。


 何故なら、毎年どこかに行く授業の時に、僕に仲の良い人がいないせいでグループに入れなくて、結局最後先生に促されてどこかに入れられるから……。

 

 僕もそうしたくてそうしてるわけじゃないのに、クラスの子からは何か僕が悪いみたいな感じで見られて、すごく居心地が悪くなる。

 僕だって、仲の良い人だけでどこかに行きたいのを邪魔したいわけじゃないし、もう少し自由だったらなと思ってるのに……。

 だから時々、ペアを組まずに先生と一緒に巡れる時の方が嬉しいし、僕的にはそっちの方が色々知れて楽しい。


 だけど、今年はそうもいかない。だって林間学校だから。


 来年の修学旅行前に、外での団体行動を学ぶ為の授業だって、9月の二学期が始まった時にも言われてるし、部屋も班で一部屋を使うらしいし。


 でも、この班を決める時間はやっぱり嫌で、また一人だけになってしまうんじゃないかと思ってしまう。

 また誰か、どこかの班に入れさせてもらえないか聞かないといけないかも知れない……。


 そう想像しただけでお腹が急に痛くなってくる。


 なんて思いながら、林間学校の説明を聞く。


「えーなので、今から決める四人班は三日間を共にする仲間になります。一緒に課題を解決して助け合い、目標をクリアする為のグループです。ですから、思い出もそうですが、しっかりと自分の欠点を補える人同士でペアを組みましょう! では説明は以上なので、皆さん今から20分で班を作ってください!」


 先生の説明が終わり、タイマーが押されると、クラスのみんなが一斉に立ち上がって、グループを作っていく。


 みんな初めから決めてたかのように、あっという間に何組かの四人グループが出来上がる。


(うわぁ、もうみんなグループになってる……。どうしよう、僕まだ誰にも声かけれてない……)


 そうしてふと灘さんの方を見ると、灘さんはクラスのみんなに席を囲まれていた。


「ねぇ、なこちゃん一緒に班になろ!」


「一緒に班になろうぜ! 絶対楽しいから!」


「私と、可奈ちゃんと一緒に行かない??」


 みんなそれぞれに灘さんに話しかけていて、遠くから見ても灘さんは困ってるように見えた。

 そしてふと、灘さんの声が聞こえてくる。


「あ、ごめんねみんな。わたしもう決めちゃってるから、一緒になれないんだ。だから今回は他の子にあたってほしいかな」


 そう言うと、灘さんは立ち上がって、同じく囲まれていた相田さんの席に向かって、何かを話してるみたいだった。


 そして相田さんが頷くと、次にこっちに向かってきて、僕の席に来た。

 そして前屈みになって、小声で話してくる。


「えっと、マコトくん同じ班だからよろしくね」


 え、どうして? と状況が飲み込めないまま、座ってる僕の前で立つ灘さんを見上げる。


「じゃあ、そういうことで!」


 そう言うと、机の前にある班のメンバーを記入する紙を持って、灘さんは席に戻り、紙に一緒に行く人の名前を書いて、提出してしまった。


(灘さんもう提出しちゃったけど、僕と灘さんと相田さんとあと一人誰なんだろう……)


 四人グループのあと一人が分からないまま、タイマーが鳴って、班決めの時間が終わってしまった。


「はい、ではこれで班決めの時間は終わりです! 一応全員まとまったみたいですが、一旦先生達で大丈夫そうか確認するので、明日また班を発表します! では残りの時間で行く場所や巡る場所の説明を簡単にするので、皆さんよく聞いてくださいね? では早速ーー」


 そうしてよく分からないまま、先生の説明が始まった。

 だけど、心の中で無事に終わってよかったとホッとしていた。


ーーーーーー


 そして授業が終わり、掃除が終わり、ホームルームが終わると、もう放課後になってしまった。


 なので、いつも通り校舎の玄関で灘さんを待っていると、何故か上機嫌な灘さんがやってきた。


「あ、マコトくん待っててくれてありがとう! いやぁ、班どうやって決めるんだろうって思ってたけど、自由で良かった! あたしマコトくんとるみちゃんと行けたらいいなぁってずっと思ってたからさ!」


「う、うん、その、僕も嬉しかった、かな……」


「ならよかった! 林間学校行くの楽しみだなぁ〜〜」


 ニコニコしながらそう話す灘さんから思わず少し目を逸らしながら、頷く。


「じゃあ行こっか!」


 そして僕と灘さんは靴を履いて、校舎を出た。


ーーーーーー


 校舎の正門を出て、しばらく歩くと、急に灘さんが手をパチンと叩いた。

 僕が目を丸くしてなんだろうと思っていると、灘さんの口角がニヤリと上がった。

 

「それはそれとして!」


「う、うん。な、なに……?」


「今から都会に行くよマコトくん!! そして都会を歩くよ!!」


「ええええ、そんなに急に!?」


 灘さんから出てきた単語に思わず驚いてしまい、歩くのを止めてしまう。


 え、都会ってどこなんだろう……? 駅前、じゃないよね? 


「そう! 急にというか、学校帰りに行くから良いんだよ! なんかこう、ダメなコトって感じするし!」


「そ、そうだけど、どこまで行くつもりなの??」


「それは、ひ・み・つ!」


「えぇ…………」


 そうすると決めた灘さんを止めれないことは知っているので、僕は仕方なくついて行くことにした。


 うぅ……なんだかいつもより心配だ。


ーーーーーー


 駅に着くと、僕は灘さんについて行く形で改札を通った。

 灘さんは迷わず普段帰りに降りるホームとは反対側のホームの階段を降りて行くので、僕も一緒に階段を降りた。

 そして降りると、電車の発車時刻と時計が目に入って、そこには15時03分の文字があった。


「お、今14時58分だからちょうどこの電車乗ればいけそうだね!」


「う、うん、そうだけど、こっち側って東京だよね?」


「ふふん、もちろんそうだよ! 都会は都会でも大都会に行くの!」


「ええええ……でも帰る時間大丈夫?? 遅くならない??」


「大丈夫大丈夫! 帰る時間も間に合うように計算してるし! あ、電車来たよ。乗ろ!」


 本当に大丈夫かなぁ。


 そう思いながら僕は灘さんと電車に乗った。


ーーーーーー


 30分ほど揺られると、聞いたことあるような名前の駅に着いた。


『池袋〜〜池袋〜〜」


 あ、いつも行きの電車で終点の駅になってるところだ。


 そう思った途端に、急に不安よりもワクワクが増えてくる。

 でも、ガラス越しにものすごい人の数がホームに見える。


「さあ行くよ、マコトくん」


 そんな中、はぐれないようにする為か、灘さんが一言と一緒に手を差し出してくる。


 なので、僕もそれを握って、二人で手を繋いで電車を降りた。


 ーーーーーー


 ホームに降りても、手を繋ぎながら歩いてることに少しドキドキしながら、灘さんに問いかけてみる。


「それで、今からどこに行くの??」


「まーだ秘密だよ! でもそうね、とりあえずコインロッカーにランドセルを入れて、それから地上に出てビル見よ!」


 そうして僕たちは地下通路にあるコインロッカーにランドセルを入れて、それから出口に向かった。

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