第27話 ダメから良くなるコト


 九月末のある朝、僕は朝から緊張していた。


 それは……テスト返しがあるからだった。


 朝、灘さんと登校して学校に来るまでお腹の痛さが止まらず、成績が悪かったらどうしようと震えていた。


 もちろん、今回のテストは灘さんにも相田さんにも教えて貰ったから、いつもより解けてる自信もある。


 それに、解いてる時も解けたことが嬉しくて、楽しく出来たし、きっと大丈夫な気がする。

 だけど、今までのテスト返しの記憶がどうしても蘇って、気分が悪くなる。

 そして今回は教えて貰ったと言う事実がさらに追い討ちをかけてくる……。


 そんなことを思っていたらあっという間に、テスト返しの時間になってしまった。


「では今からテストを返していくので、名前を呼ばれたら返事をして先生の元に来るように」


 教室から内田先生が入ってくると、いつもよりしっかりした雰囲気で先生が宣言をする。

 そして、みんなの名前が呼ばれていく。


「相田るみ……今回もよく出来てたぞ! 次、一ノ瀬かな……」


 僕は柳 真琴で、苗字が『や』だから、最後に配られる。

 出席番号の一番後ろだから、全員渡されるまでドキドキしていないといけない。


「灘 なこ……見事に一人だけ全問正解だ。よく頑張った! 西宮さくら……」


 灘さんは全問正解らしい……すごい。

 相田さんもよく出来てたって褒められてたし、やっぱり二人とも本当にすごいなぁ。

 でも余計緊張しちゃうなぁ、今回は初めて友達にテスト見せるし……。

 いつもはテストがダメでも僕しか見ないから、あんまり気にしなかったけど……。


 そう思っていると、あっという間に僕の番が来る。


「次、柳 マコト……凄いぞ! 先生はびっくりしてる! しっかりと自分で見るといい」


 受け取りに行くと、内田先生に満面の笑みでそう言われる。

 初めてのことに内心ドキドキしながら、僕はテスト用紙を両手で受け取って、席に着く。


 そして裏返しのテストをひっくり返す。


 すると、そこには95点や96点、100点、80点に75点の文字がある。

 左から数学、社会、国語、英語、理科。

 

 ええええ!! 何これ!!


 自分でも思わずびっくりしてしまう。

 そして目をこすってから、もう一回見てみる。


 夢じゃない……。


「え!!!! 凄い!! マコトくん本当にすごいじゃん!! おめでとう!!」


「ホントだ!! こんなことあるんだ!! すごいね!!」


 その事実に打ち震えていると、灘さんと相田さんがいつの間にか僕の席の周りに来ていた。

 二人とも自分のことのように喜んで、褒めてくれる。


「あ、ありがとう! 僕その、いつも30点とか、20点とか、高くても50点とかだから、なんか信じられなくて……。本当に二人とも教えてくれてありがとう……」


 そう言うと、二人ともにやけ顔になって、腕を組んで僕の方を見る。


「ふふん! わたしにかかればザッとこんなものよマコトくん!」


「そうそう! なんたって私達クラスの2トップだからね!」


 二人ともドヤ顔でそう言うと、腕を直して、苦笑する。


「なんて言うけど、これは全部マコトくんの頑張りだよ! ね? 言ったでしょ? 大丈夫だって!」


「そうそう! マコトくんがしっかりやったからこそだよ!」


 そうして二人が話しているからか、それを聞いた他のクラスメイトがみんな僕の席の周りに来て、テストの結果を覗き込んでくる。

 そして、みんな「すごい!」だとか、「おめでとう!!」と声をかけてくれる。

 

 今までこんなことなかったから、なんだか不思議な気分になる。


 そしてその中に湯川くんも居て、話しかけてくる。


「おおマコくんすごくね!? いつも低い点数仲間なのに……。初めてそんな高い点数取ったよね?? 本当にすごいと思う! 俺なんて国語65点で、数学50点、もう絶対に帰ったら母さんに叱られる……」


 なんて言って、涙目を浮かべている。

 でもいつも苦手な湯川くんに褒められるのが、なんかちょっと今は嬉しい。


「はいはい。雄太今日日直でしょ?? だから早く黒板消してきて!」


「おい、俺まだマコくんと話せてないんだって!」


 そうして二人が黒板の方に消えていく。


 そして、みんながそれを機にそれぞれの席に戻って行って、灘さんだけが最後残っていた。


「マコトくん、これでダメなコト続けられるね。ふふっ」


 それだけ言うと、自分の席に戻っていった。


 ーーーーーー


 昼休みになると、今日は珍しく内田先生に呼ばれた。


 何を言われるんだろう。土曜日に会ったこととかかな……。

 

 そう思っていると、先生が急に頭を撫でてくる。


「良くやったぞマコトくん! えらいぞ! 今回のテスト本当にしっかり解けてて、先生達みんなで驚いたんだぞ?? だからこれからも頑張って欲しいと思って声をかけたんだよ」


 撫でられてる状態で上を見ると、そこにはいつになく笑顔の内田先生の顔があって、思わず嬉しくなる。

 どうやらこの前の本屋さんのことじゃないみたいでよかった。


「あ、そういえば土曜日本屋で会ったけど、灘さんとはよく遊ぶのか?? 意外な組み合わせで先生びっくりした」


「最近遊ぶようになって、それでテストも教えて貰って……」


「なるほど! そうだったのか。なら納得だ。それに灘さんが一緒なら安心だな。じゃあ先生は職員室に用があるから行くな! てことで今回はすごかったぞ!」


 そう言って先生は廊下に歩いて行った。


 こんなに1日に褒められることがあるんだと、心がずっと踊っていた。


ーーーーーー


 そうして昼休みが終わり、5時間目が始まる。


 今日の授業は総合だったが、内容はあまり聞かされていない。


「では今から授業を始めますが、内容は今度行く林間学校についてとその班決めです! 説明の後、四人一組で班を決めてもらうので、皆さん自由にペアを組んで下さい!」


 僕がいつもあぶれてしまう嫌な時間が急に始まってしまった……。


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