ディオスの世界

第28話 異質な人達


―――――――――――――――――――――

ガン、ガン、ガン、ガン、ガン……

玄関を叩く音がする。


先ほど、明を送り出した後、仮眠をとっていたにも関わらず、大きな音に起こされる。

昨日も遅くまで執筆をしていた。

仮眠を軽くとった後、一気に今日は書き上げたい原稿があったのだ。


アタマを振り、玄関へと向かう。

新聞の集金であろうか?

まったく、アイツらはこちらの都合なんて関係なく、踏み込んでくる。

扉を開け、二、三言葉を交わしたら、「ハイ、サヨウナラ」。

そんなことのために、玄関に向かう必要が私にはあるのだろうか?


「は~い」

扉を開ける。

すると、扉を大きな手のひらが掴む。

「鈴木。久しぶりだな。

 おい、大丈夫か? ……おめぇ、痩せすぎだろ……!?」

そこには、見覚えがない男が立っていた。


……誰、だったろうか……?

どこかで会ったことがあるようにも思える。

日に焼け、逞しい身体。

鼻をそむけたくなるほどの、臭気。

煙草だけではない。

なにか腐ったようなニオイがする。

その男は、不織布マスクをおもむろに外すと、顔を近づけ、がなり立てる。


「オイ!

 一体、なんの冗談だよ!

 俺のことがわからねぇって、ことなのかよ!

 ずっと一緒に仕事をしてきた、佐藤だろ! 佐藤!

 お前のことが心配で、休みを使って見に来てやったんだろ!」

……佐藤……? 聞き覚えのあるような、無いような……。

私の中に、なにかの違和感がある。


佐藤というその男の手には、コンビニ袋が下げられている。

その中には、チューハイや発泡酒、酒のツマミなどが覗く。

「ここをたまり場に使おうとしているのではないか?」

そんな考えが、アタマをよぎる。

コイツを上がらせちゃ、ダメだ……。


「おう、冗談もそれくらいにして、一杯やろうぜ。

 お前の近況も聞かなきゃ、なんねぇしな」

佐藤という男が、部屋に無理やりに入ってこようとする。

私は、全力で佐藤の太い肩を抑える。

「おいおい、冗談はよしてくれ。

 俺たちの仲じゃあねぇか。

 今日は久しぶりに、おめぇと話がしたかったんだよ~」

佐藤はその歩を進める。

こんな筋肉ゴリラのような男を私のような華奢な身体が止められるはずもない。


私は、ついに懇願する。

「スミマセン! なにかしたのなら、謝ります。

 だけど、うちにはお金がないんです。

 私は、しがない作家なんです。

 妻も今、働きに出ていますし、お腹にも子どもだって……」

佐藤という男からチカラが抜ける。

私は、恐々とその男の顔を見上げる。

その目が開き、その顔に徐々に笑みが広がっていく。


「マジか!?

 鈴木、てめぇ、やりやがったな!!

 クッソぉ! 先を越されたよ!

 俺だって、そんな野暮じゃねぇ。

 コイツはココに置いていくぜ! しっかりとやれよ、相棒!」

佐藤という男は右腕で私のアタマを抱き寄せ、左手でアタマをぐしゃぐしゃと掻く。

満面の笑みをその顔に讃えながら。

最後に私の胸をその右拳で「ドンっ」と突くと、コンビニの袋を上がり框の上にドンと置く。


「じゃあな、また来るわ。

 あんじょうやれや。

 今度来る時には、お前の書いた本、俺にもしっかりと読ませろよ!」

そう言うと佐藤という男は、鼻歌を歌いながら、うちの玄関を後にした。


一体、なんだったのだろうか?

まるで台風が駆け抜けていったような男だった。

なにはともあれ、私の家を壊すものではなかったらしい。


だが……、あの男の煙草のニオイ……。

不思議と懐かしい気がした。


コンビニ袋が、どこからか吹いてくる風にカサカサと悲鳴を上げ続けていた。

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