第4章 カメの世界
第10話 今は存在せず、過去と未来の連続
「だからぁ、弘毅は神経質なんだと思うよ~。
誰もがそんなこと気にしていないんだから、放っておけばいいいんだよ~
楽しいイベントになると思うんだよ~!」
明からの、明け抜けた楽観的な言葉が聞こえる。
文化祭を一週間後に控えた放課後、私は明と二人、生徒会準備室で話をしていた。
文化祭に参加する一部の生徒たちが、意見書を上げてきたのだ。
その内容にため息が漏れる。
「女装又は、男装し、校内の清掃作業を一番行った者に、逆Mr. Missの称号」を与えるというモノであったのだ。
これにはため息しかでない……。
私たちの学校の生徒であれば、この問題はとてもセンシティブで、しかも扱いづらい問題だとわかっているだろうに。
それを敢えて持ち出す感覚にすら寒気を覚える。
もう少し社会的平衡感覚を持っていると思っていた私が、生徒たちを買いかぶっていたのかもしれない……。
「あ~。もう、面倒くさい! 弘毅はいつもそう!
生徒たちの可能性を自分が学んできた価値観で、断定するからだよ。
もう少し自由にさせてあげてもいいんじゃない!?」
生徒会書記の明が捲し立てる。
お前は、私と幼馴染で、同じ部活だけなのに、いつも私に突っかかる。
生徒会長は私だ。
お前は、書記にすぎない。
私の決定に対して意見をいうのは違うだろう。
「フン!! だから弘毅はいつまで経っても、子どみたいな考えなんだよ!
私のことだって、いつまでも子ども扱いして!!」
ショートボブの前髪が、そのムクれたほっぺにサラリとかかる。
こんなところに可愛いと感じてしまう私はちょっとおかしいのだろうか?
顔の割には大きな瞳。
それを覆い隠すような長めのショートボブ。
すこし丸い鼻が彼女の愛らしさを余計に引き立たせる。
更には、目をそむけたくなるような豊満な身体。
顔と身体のギャップから彼女を見つめる生徒は少なくない。
「で、そのお子ちゃまは、いつになったら私のいうコトを聞くんだ?
お前の推挙なら、それらの活動を認めてやってもいいが……」
私は、口の端をイヤらしく歪める。
もちろん、明がオモシロイ反応をしてくることを見越してだが……。
「ん、もう~!!
弘毅の意地悪~!!
ゼッタイに弘毅になんか、頼まないんだから~!!
私がどうにか軌道にのせてやる~!」
ムクレ顔をさらにムクレさせ、彼女は腕を組む。
ああ、可愛い……。
この時間こそが私の最上の時間だ。
もう少し、弄んでやろうか?
それとも、もう少し、からかってやろうか……。
私の深いところの感情が聳つ。
「もう! 弘毅なんて知らないんだから!!」
その言葉に刺激を受ける。
……この子は……、なんて可愛いのだろうか……。
生徒会室を出ていこうとする明に、後ろから柔らかく抱きつく。
腕を優しく、ゆうるりとその首元に回す。
できうる限り丁寧に、羽で触るかのように。
そして、丁寧に優しく耳元で囁く。
「ごめん……。怒っちゃった?
明のことは大事だし、できうる限り希望に沿うようにするよ……。
いつも、調整、ありがとうね……。
大好きだよ……」
明の体温が上がるのを両腕に感じる。
「弘毅のバカ……、わかっていて、そういうことするのはずるいよ……」
腕の中で明が振り向くのがわかる。
明の顔が少しずつ、私に近づき、その唇が重なる……。
―――――――――――――――――――――
「じゃ、ねえよ!! お前らがマスクをしていないのが一番問題なんだよ!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます