第3話 ヘル・ウルフ討伐(2)

【ソーエン視点】


 本当なら――本当に、弟子は連れてくるべきじゃなかったんだ。


 この戦場は災害級だ。魔狼ヘル・ウルフの群れ、数万体。しかもそのボス個体には、魔力吸収の体質。俺様の蒼き焔の魔力をも喰らっている可能性がある。


 ……だが。


「誰が何と言おうと…弟子は、役に立っている…!」


 刃をムッキーに向けたまま、苛立ちを押し殺す。言葉の端にこそ刺を感じさせてはいても、この心は褒めている。それが俺様式の、最高級の賛辞だ。


「え、えっ? まさか、師匠の魔力まで喰われて……?」


 アオバとムッキーが同時に青ざめる。だが、俺様は笑う。


「ふはははは! 犬コロ風情が! いいぜ、かかってきやがれ!」


 挑発だ。俺様の焔を吸った雑兵たちが、蒼き毛並みを輝かせながら吠える。だが、二番煎じの焔など、俺様に通じるはずがない。


 魔力を練る。蒼き火の粉が宙を舞い、蝶のように煌めく。腕にだけ焔を纏わせ、肉弾戦の準備だ。


「アオバよ、その瞳に焼き付けておけ。これが蒼き焔の力の真髄だ!」


 片手の刀で敵を斬る、裂く、穿つ! 骨ごと断ち切る剣技、血の雨を降らせる焔剣――それが、“蒼鬼”と呼ばれ、故郷で恐れられた俺様の真の姿よ。


 今はもう、和国を拠点とする流浪の剣士。弟子は――俺と同じ蒼き髪、蒼き瞳、蒼き焔の魔力を持つ、運命の邂逅で出会った最高の弟子だ。


「かつて蒼鬼と呼ばれた俺様の剣、味わうがいいぜ。犬コロ共!」


 一振りごとに命が散る。刀に滴る血を拭う暇もなく、次から次へと湧いてくるヘル・ウルフたち。俺とアオバの焔を喰らったせいか、蒼い毛並みになり、蒼き焔を吐き出してくる。だが――それは、俺様の足元にも及ばぬ雑焔。


「はははは! ひれ伏せ、二番煎じども!」


「師匠、いつもよりテンション高いですね…」


「お前の師匠、戦闘狂か?」


 ムッキーとアオバの会話が耳に入ってくるが、脳には届かない。俺様は今、戦闘マシーンに回帰している。切る、斬る、KILL。魔力の蝶が闇夜を照らし、焔が軌跡となって空を裂く。


「闘いは数じゃねぇ。質だ。それが、俺様流だ!」


「流石師匠です!」


「いやいやいや! そんな闘い方、ソーエンさんしか無理だから!!」


 だが、褒め言葉は受け取る。弟子の言葉は俺様を燃やす焔の燃料だ。


 そして、朝日が昇る。


 最後の一体――蒼き焔を纏ったボス個体の首を真っ二つに裂き、戦いは終幕を迎えた。


「SSS級依頼か…? 他愛ないな。」


「違う違う!! これはランク外の災厄級ですってば! しかも6500万ジェルで済む戦いじゃねえ!」


 チャキン。


「弟子もいたぞ?」


「あ、あの! 師匠、ムッキーさん悪くないですから!」


「なら……仕方ないな。」


「ちょ、すぐ刃向けるなよ!? ほんと怖いから! 刃が本気だから!」


「すまん。弟子を悪く言われると、ついな。」


「それ、完全に親バカなんだよなぁ…」


「師匠、ムッキーさんいじめるの、もう禁止だよ?」


「……む、了解。」


 こうして路銀は稼げた。だが――ムッキーはその後、提案してきた。


「あのな! 二人とも若いんだから、流浪の旅ばかりじゃなく! ギルドか学園に所属してみないか!? 断言する! そっちの方が稼げるぞ!!」


「ムッキーさん、張り切りすぎじゃない?」


「学園、ギルド…か。俺様とアオバで歩んできた道だ。和国に、蒼き焔の剣士としての噂が広まっているくらいにはな…」


 二人はその夜、宿に泊まることにした。


 そして――次なる進路を選ぶため、互いの夢と焔を語り合う時間が、静かに始まった。


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