04
「もー雨ばっかりで憂鬱だよ……」
「こればかりは仕方がないな」
六月なら降って当然どころかここで降ってくれないと七月にも響くから困るぐらいだ、暑いうえに雨ばかりなのは正直うざいからこれでいい。
「でもさーなんで雪を抱きしめるとこんなに落ち着くんだろうね?」
「家族だからではないか?」
もう五年目に入ったところだからそうであってくれないと寂しい。
「ううん、多分それ以外のなにかがあるんだよ!」
「そうか」
まあ、悪い理由ではなければなんでもよかった。
くっつきたいならくっついておけばいいからそこでも気にする必要はない。
ただなんというか……少し気恥ずかしい感じがするのは何故だろうか。
「雪好きー」
「はいはい。それより二人が来ないな」
「もーいい加減すぎー……はいいとして、確かに来ないね」
「見にいくか」
友達に捕まっているとかなら戻ってくればいい――と考えていた私だったが。
「なっ、もしかしてあれって告白……とか?」
「そうかもしれないな」
ただ二人で集まって盛り上がっているようには私にも見えない。
とはいえ、前にも言ったようにこの姉妹は受け入れていないだけで告白は何回もされているから違和感もない。
別に男子が乱暴を働こうとしているわけでもないから去ろう。
「みんな青春しているなー」
「だな」
先輩は教室で突っ伏していただけだったからとりあえず話しかけてみることにしたらただ眠たかっただけみたいで付いてくるらしかったから任せておいた。
「なにも言わずにいかないでごめんなさい」
「気にしなくていいよ、集まらなければならないなんてルールはないんだからね」
「またなにかあったんですか?」
暑いとかじめじめしていて気になるとかそういう理由からなら全く問題はない。
「ああ……少し、ね」
「私達にできることならしますよ」
「それなら……奏子さんともっと仲良くなりたいの」
そうきたか。
本人の言葉をそのまま信じるなら敵視もされていないみたいだから協力しても特に影響はないか。
姉妹、家族の域を超えて姉が妹のことを好きだと知っているのに、なんてこともないしな。
「え、意外、雪って言うかと思った」
「無駄に振られたくないから余計なことは言わないでくれ」
「ええ、いまは奏子さんと仲良くなりたいわね」
あの男子からのそれが告白だとして、受け入れていなかったら連れていけばいい。
問題は素直に吐いてくれるかどうかだが、
「告白されましたけど断りました」
ここについては自然と来てくれた本人がすぐに吐いてくれたから大変なことにはならなかった。
「二回ぐらいしか話したことがありませんでしたからね」
「そうか」
「それで雪さんは朱美先輩となにをしていたんですか?」
「ああ、それは本人が話してくれるだろう」
が、私の後ろから出てこようとしないので変な時間になった。
このままだと暗くなるまでこんなことを繰り返しそうだったから許可を貰ってから言わせてもらう。
「え、雪さんではなくていいんですか?」
「え、ええ」
「わかりました」
きた、これで安心できるようになれば不安な表情になってこちらも影響を受けて不安に、なんてこともなくなるからりがたい。
「朱美さん積極的だね」
「蘭子もなにかあるならちゃんと言っておいた方がいいぞ」
後から妹が気になっていたとか先輩が気に入っていたとか言われても困るからな。
それに本人達がいないところだったらどれだけ吐こうが迷惑にはならないから動くのなら早い方がいい。
大事な情報をぺらぺら吐いたりするような人間ではない、更に言えば教えられても言えるような人間がいないから安心してくれていい。
「特にないかな、あ、雪に相手はしてもらいたいけど」
「二人もいってしまったから帰るか」
「うん、帰ろう」
雨のことを思い出したのか微妙そうな状態に戻ったからアイスを買い渡すことでなんとかする。
姉は、というか誰でもそうだが笑ってくれていた方がこちらとしても嬉しいから少しでもいい方に働いてくれればいいな。
「はいあーん」
いや、これは流石に小恥ずかしいからやめておいた。
そうしたらせっかくアイスで上がっていた? テンションも落ちて逆効果になってしまった。
妹もそうだが姉も難しい、先輩を少しは見習ってもらいたいところだ。
拗ねたのか面倒くさくなったのかそれ以上うざ絡みはしてこないで部屋に戻ってくれたから今日は一人でご飯を作ることにした。
私は地味にこの時間が好きだ、なんというか内側が静かになって落ち着く。
なにが起きても驚かずに、は無理でも冷静に対応をできる可能性が上がるならいいことだろう。
母が急に帰ってきたときはそれでも少しぎこちなくなったが……。
「はぁ……」
どうも上手くできない。
最初は母が原因だったのにずっと微妙なのは私のせいでしかない。
いちいち気にしている母からすれば尚更そんな私を見て悪い状態になるわけで、自ら原因を作って苦しんでいるアホがここにいる。
「ぷふ、今日は雪のせいで微妙だったけどさっきの顔を見たら完全に直ったよ」
「蘭子、どうすればいい?」
「奏子にも言えることだけど顔に出すのをやめることだね、あとは積極的に話しかけること!」
「どちらも難しいな」
できるのなら苦労はしていない。
だが、聞いておきながらどちらもなしと一蹴するのは自分勝手すぎるから話しかける方を選ぶことにした。
積極的には無理でも自分から挨拶をするとかちびちび話しておけばまあこれまでとは違うだろう。
「遅くなってしまったな」
委員会が長引いた。
予定もない状態でならそれでもいいが妹と約束をしている状態だったから少し微妙だ。
「すまない、待たせてしまったな」
「いえ、来てくれただけで十分ですから」
「菊石先輩はいないのだな」
「はい、今日は約束をしていませんからね、そもそも誘われていても雪さんを誘っていた状態なので断るしかありませんでした」
怒っているわけではないみたいだが謝罪だけで終わらせるのも微妙だから妹にもアイスを食べてもらうことにした。
「なんか逆にごめんなさいって気持ちになりますね」
「まあ、そこは気にしなくていい。それで今日はどうしたのだ?」
実はまだ二人きりになるのを警戒している自分がいる。
心の底から信じてやれないことが本当に情けない、義理とはいえ姉なのになにをしているのか。
そして母に対してもそうであるように私がずっとこの調子なら相手がいい方に変わらなくたってなにもおかしくはないのだ。
「私は雪さんと仲良くなりたいです」
「そうか、それは嬉しいな」
これだってなあ……攻撃されたり直前のあれがなければ本当に嬉しくて両手を上げていたところなのだが。
でも、姉妹以外に友達的な存在がいないのはこういうところからきているのだと客観視できるのはいいことだ。
はっきりとした問題を抱えているのにそれに全く気付かずにぐいぐいと踏み込むような人間ではなくてよかったと思う。
「お姉ちゃんにはっきり言った方がいいと伝えたみたいなので」
「ああ、確かに言ったな、我慢はよくないからな。あとはあれだ、後から〇〇が好きだったとか言われても困るから先に出してもらいたかったのだ」
こういうことに関してみんな味方でいることは不可能だからせめて中途半端なことをしないようにという考えからきている。
「ああ、朱美先輩のことが影響しているんですね?」
「そうだ」
細かく説明しなくていいのは楽だ。
ただ妹は今回もわかりやすく表情に出してから「あの後、朱美先輩と二人で会話をしていましたがあれって本当なんですかね?」と聞いてきた。
……妹の言葉を信じきれていない私が言うのもなんだが本人がそう言っているのだからそうだろう。
「それはそうだろう、仲良くしたくないのに仲良くなりたいなんて言わないだろう?」
「私よりも雪さんに言うべきだと思いますけどね」
「確かに話を聞いたりしたがそれとこれとは別の話だろう」
気にしなくていいのに単純に魅力がなかったみたいになってくるからこれぐらいにしてほしい。
「アイス、ありがとうございました」
「ああ」
「私はちょっとこのまま朱美先輩のお家にいってきます」
「わかった、あんまり遅くならないようにな」
「大丈夫です、あ、ご飯の方はお任せすることになってしまいますが……」
気にしなくていいと言ったら「ありがとうございます」といい笑みを浮かべて答えて歩いていった。
「あれ、蘭――」
知らない女子と一緒に歩いていたからやっぱりやめて家へ。
空気が読める人間だからなと誰に言っているのかとツッコまれそうなことをしつつ今日もご飯作りを済ませておいた。
「ただいまー」
「おかえり」
「雪、私告白をされて受け入れた」
「そ、そうか」
おいおい……って、ただ単に私が知らないだけで前々から友達だったのだろう。
それに人を好きになれるのはいいことだし告白をされるのも姉にとっては普通でいいことなのだから自分のことのように喜んでおけばいいのに私ときたら……。
「よかったな」
「うん、だけどこれからは帰る時間が遅くなるかもしれない」
「受け入れたのだからゆっくりすればいい、家事のことなら気にするな」
大した趣味もなければやることもないから任せておけばいい。
小さい頃から母が一人で家事なんてやり慣れているから心配をしているのならそれは余計だとしか言えない。
「今日は先に食べてもいいかな?」
「ああ」
姉の分だけ持っていったら残っていても微妙だから部屋にこもることにした。
自分が想像している以上に姉のことを気に入っていたらしい。
家族としてなのに「雪好きー」などと言われて期待してしまっていたのかもしれないと考えるとかなり恥ずかしい。
でも、自然と距離ができるから露骨に表に出して迷惑をかけてしまうことはないから救いはあった。
「雪さん入ってもいいですか?」
「ああ」
「わからなかったので直接聞いてきました、そうしたらまだ出会ったばかりなのに気になっていると言われてしまいまして」
「そうか、奏子的にどうなのだ?」
……妹が相手のときと露骨に違うのも本当に恥ずかしい。
「待ってください、先程と全く違いますがどうしたんですか?」
「それは蘭子に聞いてほしい」
「わかりました、それなら聞いてきます」
はは、行動力の塊だ。
ベッドに寝転んでいると「聞いてきました」とすぐに戻ってきてそれにも笑った。
「なるほど、そのことでショックを受けているんですね」
「ショックなんか受けるわけがない、何故ならいい話なのだからな」
というかこんなことで複雑な気持ちになっている時点で姉に失礼でどうあってもこうなることは避けられなかったと思う。
嬉しさや喜びよりも自分のことでいっぱいなら害でしかない。
だからこれでよかったのだ、そう考えると逆に落ち着けてきた。
「それならどうして嬉しそうな顔をしないんですか」
「自分の部屋でここには蘭子がいないからだろう」
「雪さん」
見下ろされたって同じだ。
「雪ー……って、姉妹でなに変なことをしているの?」
「違う、それよりどうかしたか?」
「あ、もうお風呂にも入ったから今日は寝るね」
「ああ、おやすみ」
まだ十九時にもなっていないのだが大丈夫なのだろうか。
それに付き合えたのならその日は会えなくても連絡を取り合いたいとかそういう風になるのではないのか?
恋をしたことが一回もなくてただただ影響を受けてしまっているだけなのだろうか。
「雪さんはやっぱりお姉ちゃんが好きなんですよ」
また急だな、この前の仕返しがしたいなら受けるしかないが。
「私はいいと思いますけどね」
「待て、それなら仲良くしたいと言ってきたのはおかしくないか?」
「だって相手の人に好きな人がいるのなら邪魔をするわけにもいかないですよね?」
もう付き合っているのに変なことを言う。
そうか、私以上に動揺しているのがさも問題ありませんとでも言いたげな顔をしている目の前の妹なのか。
はは、大事なときに隠そうとしてしまうのはこの妹も同じということだ。
「奏子が直さなければいけないところはそこだな」
「どうして足を掴むんですか?」
「本当は頭を撫でたいところだったが距離があるのでな」
普段はなにも言わず、相談を持ち掛けられたときだけ遠回しに答えるようにすればいいか。
一緒にいないからといって相手のところに連れていくとかそういうのは駄目だ。
「お、帰ってきたみたいだな、一階にいってご飯を食べよう――なんだ?」
「距離があったので近づいた結果です」
「後ろからは危ないからやめた方がいいな」
「それなら次は前からやりますね」
先輩の本当のところを聞いてどう答えたのか、その返答次第でこの行為はかなりグレーどころかアウトになるが。
「少し時間が経過したので言いますが私は嬉しかったです」
「そうか、そうだよな」
大人ならそううだ。
「はい、だってこれでお姉ちゃんのことを気にする必要がなくなりますから」
「え」
「まあ、言葉だけで終わらせてしまうと微妙なので今日わからなくてもいいですよ」
つまり……?
もう母のところにいってしまったから聞くことはできずに終わってしまった。
その結果、休まるはずのお風呂の時間も休まらなくて微妙だった。
だというのに私をこんな状態にしてくれた妹は一人楽しそうで質が悪いとしか言えなかった。
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