暗澹たる一日
日の光が嫌いだ。
何故人間は昼に動く、
窓の外から声が聞こえる。
静かにしてくれ、
何故、外ではしゃぐ、
そんなに声を上げなくてもいいだろうに
陰気な部屋にこのままいると気分迄沈んでしまう
その為に外に出た。
何かを食べようと思った。時刻はとうに昼を過ぎている
公園の隣を歩く、子供達がはしゃいでいる。
普段は何も感じないが、今日だけは違った。煩わしいかった
耳を塞いでさっさと公園から離れる
道を曲がった時、人とすれ違う。
前を見る。至る所に人が居る。
落胆する。人が居るだけで嫌になる。
俺は早歩きになる。
飯を食う、只の栄養補給、それ以外何も求めていない
すべきことを為したので、家に帰る。
そして横になると寝ようと思った。
これ以上陽の光を見たくなかった。カーテンの隙間を丁寧に埋め、
タオルで目を覆い、更に服で頭を覆って目を閉じた、
昼の世界に未練は無く、さっさと時間が過ぎて欲しかった
目を覚ますと部屋の中は真っ暗だった。
時計を確認する。夜時になっていた。
カーテンをずらし、窓の外を見る。
階下を街灯に照らさせた人が歩いている。
その活動的では無い単調な歩みに親しみを感じる
気分が晴れやかになる。
少しばかり階下の道を観察した後、外に出る事にした
人が居ない事が理想だったが、多くは望まない
明らかに人が減っており、左右の建物群の窓から光が漏れている
ここからこの先、時が過ぎれば過ぎる程、人の数は減っていき、
そして完全なる無人の時が訪れる。
心が高鳴る。
このままずっと外にいて無人の瞬間を待とうかとも考えたが、
それではあまりにも時間がかかると考え、散歩をしようと思った
適当に歩き、適当に家路につく、それでいいと思った。
公園の隣を歩く、誰もいない、
街灯に照らされたベンチがあった。それに座ってみようと思いついた
座って、背を伸ばした。ベンチを照らしている街灯がこっちを見ていた。
実に心地がよい、そして姿勢を戻し前を見た。
するとふと、白い花が明かりに照らされていた。
まるで専用のスポットライト照らされているようで、
遠くにあっても瑞々しい白色を輝かせていた。
その花の元へ向かう
名も知らない、百合のような一つの花、
明るい世界では誰も立ち止まらない、
夜になって急に姿を現した白い花
昼、あんなにも、せわしく首を動かしているのに、一体あの連中は何をみているのだろうか、それとも見た上で無視をしているのだろうか
勿体ない事だ・・・
鼻を近づけ、匂いを嗅ぐ、僅かに甘い香りがした。
正味、期待を裏切られたがそれでよかった。
少しばかり離れてみる。その前に辺りを見たが誰もいない
そして一枚絵の鑑賞をしようと認識を変え、街灯に照らされた白い花を見る
匂いが足りない故、やってみようと思いついた行動だ
それは正解だった。
優しい灯の包まれた儚く白い花がそこに在った
その中心の花に目を奪われた。雨が降った覚えは無いが雫を花弁に滴らせているように思えた。いやそこには雫があった。見えない物事が、確かにそこにあった
暫しの間、その光景を愉しんだのち、再び歩き出した。
空を見る、星々がそこにはあったが狭いと感じた。左右の民家が幅を聞かせていた。故に街を出てみようと思った。
人は居ないが家はある。外に出てきていないだけましだが、それでも人の気配を感じさせる。
つくづく、人が嫌いなんだろうと思った、いや、しかし本当はそうではない
静かに居る分にはいい、騒々しいのが嫌なのだ。そしてその顕著な例が人なのだ
騒々しくあってもいい、しかしそれが永遠に続くと考える。いや実際に人の数だけ続いているのが今の世界だ。
空想する。
人には電源ボタンがあって、それは或る時を境にオフになる。それが睡眠になれば、そうなれば、世界にはもっと静寂が支配するのだろう
しかし、そんなものはないし、
もし、そうなれば、楽しめるこの状況も例外と言う訳ともいかない。
そしてさっき迄見ていた白い花は誰にも気づかれないまま、枯れ果て土に還る
それでもいいんじゃないかと思った。
そうなれば今、生きにくいと感じている人の何割かは救われるんじゃないか
所詮は空想だ、背中を触った所でそんな突起はない
そう無駄に考えている内に、街の外に出た。
地に立って見上げる。故郷の田舎でないにはしろ、夜空が広がっていた。
家を出てから、そんなに時間は経ってないはずだが、辺りには誰も居なかった
これだ、これ、そう静かに呟いた。
夜の時分、こんな僻地来る奴なんて、よほどの酔狂か、それとも日夜を知らない痴れ者ぐらいだろう
ふと、もし見られた場合、どっちとして見られるんだろうと考える、
でもその考えは即座に消えた
なんせ、どっちでも構わない、今誰も居ない此処に居るのは確かなのだから
更に先に進む、そこには川がある。
汽水域の為、遠くの暗闇を見ると外国と繋がっている大港の明かりが見えた
海までそう遠くはない
岸辺に近づき、川を見る。
川幅は広く、その水面にはめいいっぱいの建物の灯を揺蕩らせている
川に触れようとは思わない、下流域の川はどんな川も穢れている
その代わりに空を見た。
航空機があった。無音で過ぎ去るそれは遥か高い空にいってしまったんだろう
川辺にある適当な大きな石に腰かける
そして、再び夜空を見た
星々が点々と煌めいている。その全てが恒星だというのだから信じられない
星座やなんかは分からない。どうつなげてればそう見えるのか全く分からない
昔の偉人はこれらを観測して、この一目で見渡す事が出来ない広大な光景を
球として、そして回っているとして、そして太陽を中心として回っていると解明したのだ。
一体、どうやってか、凡人の脳ではスケールが違い過ぎる
川面に視線を戻し、そして海の方を見る。そこには僅かに丸く海に食われた貿易船であろう、大きな船があった
確かにこの大地は丸いらしい、それを確認すると再び見上げた
でも、観測にするとしても、何かを考えるにしても、今だけは都合がいい
なんせ、何も邪魔なものがない、静寂そのものが辺りを包み込んでいる
今も何処かで誰かが、この空を見ているのだろう。
この静寂に包まれた、世界の果ての果て、その暗闇の謎を求めて・・・
考え、観測して、さらに考え、そして再び、静寂な夜空を見上げている
そんな人物とこんな夜に会話できれば、
人生と言うものが少しばかりマシにはなるのだろうか
いや、そんな事はない、一瞬の間、目が奪われて空想に浸ってしまった
そんな事は・・・ないな
そう呟き、空を見上げる
何でもない、静かな星空
多少の知識があって、余計に美しく見える星空
それでいい、それでいいんだ
そして、川のさざなみの音に身体を浸せ、適当な時を見繕い、家に帰るという結末に至った。
これがとある時の休日の一日
陽日が嫌いな夜が好きな者、しがない些細な冒険譚・・・
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