第134話 錬金は心の始まり
俺は元男子高校生・ライアー。
幼馴染とか同級生とかではない仲間達と獄卒島に流れ着いて、金づくめの怪しげな魔物と対峙した。
俺はその魔物をヴァニタスで倒し、大罪化を止めたら……。
体が縮んだ子供が出てきた!
たった一つの真実見抜く!
見た目は鎧、頭脳はオタク!
その名は、迷探偵ライアー!
「ペ~ペッペ~ペペ~♪ ペ~ペッペ~ペペ~♪」
「何その鼻歌?」
「夏に爆破する曲」
船に揺られてブ~ラブラ。
数日間、荒波にモミモミ揉みしだかれた俺達一行は、本来獄卒島を経由せずに来る予定だった月島に到着していた。
「ありがとうな、ビュート。お蔭様で助かったわ」
「礼ならいいよ。いつものことさ」
「むむ、心外だな。俺は一度たりとも理由なく呼びつけたことはない。呼ぶ時は本当に困ってる」
「だからだよ」
「ありぇりぇ?」
要は『心配させないで』という意味だろう。ごめんね。
だがしかし、俺は勇者ライアー!
人に感謝を伝えることをめげぬ! 挫けぬ! 諦めぬ!
「こうなったらやむなし……いけ! アータン!」
「ありがとうございました! ご飯、美味しかったです!」
「うおっ、なんて眩しい笑顔……!?」
見よ、この百万ゴールドの笑顔を。
ビュートに美味しい料理をたくさんご馳走してもらい、アータンからも魔力の輝きが迸っている。上質な食事は上質な魔力にも繋がる。これはギルシン検定にも出てくる常識だ。
「本当に世話になった、ビュート殿。頂いたハーブやスパイス、有難く使わせてもらおう」
「衣服や化粧品なんかもいただいちゃって……なんだか申し訳ないです」
続けてベルゴとアスも礼を告げる。
旅は物入りだからと、船を降りるにあたってビュートが資材を寄越してくれたのだ。中には王都でも手に入れられない調味料も得られて、俺も内心ウハウハである。
「構いません。お礼ならうちの店の宣伝でも頼みます」
「王都の『Butter-Fly』って店、美味しいって評判よォ~! え~、嘘ォ~!?」
「フンッ」
「があああ」
「なんて綺麗なアームロック」
早速宣伝してみたらビュートにアームロックを喰らった。解せぬ。
ついでにアームロックも解けぬ。
「皆さん。大変でしょうけど、今後も“これ”の相手頑張ってください」
「ビュート君? ビュート君」
あまりにもあんまりな言い方に、俺の強化ガラスのハートも粉々よ。
「人を“これ”呼ばわりはあんまりだろ。なあ、皆!?」
『……』
「皆?」
誰も味方が居ねぇ。
全員下を向いていやがる。チクショウめ。
「だったら俺が下に潜り込んでやんよ」
「何故そこでオレを選ぶのだ!?」
「……両側の女子二人にやるのは駄目だろ」
「確かに」
「え?」
地面に寝そべりながら見上げる俺に、ベルゴが賛同してくれた。
傍でアスが何か言いたげな顔を向けてくるが知ったこっちゃない。自分の胸と股間に聞いてみな。
「──失礼いたします」
いつのもアホなやり取りに差し込まれる声。
聞き慣れぬ声色に反応する者全員が、船のタラップを渡ってくる小さな人影に目を向ける。
「ここは一体どこなのでしょう?」
「あ、起きてたんだ。マイン、ここはね──」
「あの方はどなたですか? あの建物はなんですか? あの食べ物はなんですか?」
「ちょ、ちょ、ちょ!? ストップ!」
「承りました。休眠状態に入ります……ぐー」
「言葉の綾!」
降りてくるなり寝始める眠り姫。
白銀の髪に漆黒の肌。
そして、今は閉じられている瞼の奥には玻璃の瞳を収めている。
「起きて! 起ーきーて! ……本当に寝ちゃった」
「まだまだ寝坊助さんだな」
「どうしよぉ……」
「ったく、しゃーねー──なァン!?」
「ライアー!?」
アータンのヘルプに応じ、少女をおぶる。それが俺の運の尽きよ。
背中におぶった少女の重みで、俺は不本意な海老反りブリッジを決めた。
「ぐぎぎ……!? せ、背中の子を……早く……!」
「背中の子を守る為に首の骨を犠牲にするとは……ライアー。やっぱりキミは勇者だ」
「言葉よりも力が欲しい時がある! たとえば今!」
──少女回収中。
「し、死ぬかと思った……」
「油断は禁物だ。特にゴーレムや──
「……ホムンクルス、ね」
ビュートの口より告げられし魔物、ホムンクルス。
その用語は、主に錬金術関係でよく耳にするだろう。要は錬金術で作られた人間のことだ。
「ホムン……クルス」
「失われし古代魔法、〈
「にわかには信じ難いですが、この子が……」
全員、自然とホムンクルスの少女へ視線を向ける。
「ぐー……すぴー……」
そして、ゆっくりと視線を逸らした。現実から目を背けるように、だ。
「威厳もクソもないな……こいつ」
「まあ人間も広義の意味なら魔物だし、人間だって全員人造みたいなものさ」
「広義が広すぎて海だな」
見習いたい包容力だ。
確かに人間全員、人間と人間がガッチャンコして作られている。そういう意味では人類皆人造人間だろう。Q.E.D。
「で、今後はその子を連れて聖都に向かうつもりかい?」
「ああ。アイベルの足取りを追いたいしな」
その為にも、以前見せられた映像──この子の記憶は重要になってくる。
対峙するアイベルやヴァザリア、エルと呼ばれていた鉄仮面。
そして、今眠っている少女と瓜二つの人物も全員気になっていることだろう。既に聖都に向かうことは俺達の中で既定路線となっていた。
「そうか、コルディアに……気を付けろよ、ライアー」
「心配すんなって! 俺様を誰だと思っちゃってんの~?」
「急に人を荒波に囲まれている島に呼びつける奴」
「その節は誠に申し訳ございませんでした」
ぐうの音も出ねえ。ぐう。
「……まあ、本当に危ない時は呼んでくれ。助けは行くさ」
「本当?」
「リーンが」
俺は、深々と頭を下げた。
自分でも惚れ惚れするお辞儀だ。周りから感嘆の息が漏れてくる音が聞こえて来るぜ。
「──努々、心に留めておきます」
「リーンさん怖いの?」
「ガオヒヒィン……」
「トラウマなんだね」
アータンの問いに、俺は頷いた。
あの荒療治、俺にとってはトラウマだ。トラウマ過ぎて、俺はトラウマになってしまった。そんな俺に向けられる視線は半分憐れみ、半分呆れといったところだろうか。
しかし、そんな俺を見かねたビュートが、二隻目の助け舟を送ってくれる。
「半分冗談だ。危なくなったらいつでも呼んでくれ」
「ああ、そのつもりだ。……え、半分?」
「ボクとリーン、近い方が助けに行く」
『それじゃあよろしく』と現場に戻っていくビュート。
成程……50%の確率で
「……疼くぜ」
「古傷が?」
「言わないで」
俺はさめざめと泣きながら、ビュート達と別れた。
その間、アータンが俺の背中を撫でながら『怖くないよー』と宥めてくれた。俺は注射される前の子供か。
「ぐー……すぴー……」
これから目指すはアヴァリー教国聖都コルディア。
さてさて、この眠り姫が本物勇者一行とどのような関係なのか。
それは本人達に聞きゃ話が早いって訳で、俺達は歩を進めるのであった。
***
「──と思ったところで自己紹介よォ!!」
「誰に向けて言ってるの?」
「君と私と貴方とあたし」
「自分に向けて二回言うんだ」
的確なツッコミをありがとう、アータン。
「自己紹介をご希望ですか?」
コルディアを目指す馬車の中より、ロリロリな声が聞こえてくる。
何を隠そう、ケミカルクラーケンより救い出したあの少女のことだ。というのも、今日に至るまで彼女とはロクに自己紹介も出来ていないのである。
「そうそう。船の上は、波に揺られていい寝心地だったろう?」
「記憶にございません」
「政治家みたいなことを言いはりおる」
「政治家とはなんですか?」
「政治家ってのはだな──政治家? 政治……政治?」
政治って……なんなんだ?(哲学)
「俺って……政治のこと何も知れてやれてないんだな」
「彼女の気持ちに気づけずフラれた彼氏ですか」
「なあアス。政治ってなんなんだ?」
「それは……こう、国を治めるあれこれを……」
「国を治めるとはどういうことですか?」
「え?」
少女の質問にアスが固まる。
政治に限らず、なんとなくふんわり知っている言葉というものは返答に詰まるものだ。見ろ、アスのこの顔。
「政治……セイジ……」
「アス君壊れちゃった」
「せいじ……不潔です!」
「汚職的な意味で?」
駄目だ。
この性職者からの回答は全部不潔に繋げられてしまう。正確な答えを期待するだけ無駄だ。
しかしだ。
「不潔とはなんですか? 汚職とはなんですか?」
「
まるで小さな子供みたいだぜ。
実際それくらいの子供の見た目してるけども。だがこのままではいつまで経っても話が進まない。
「すまん。その回答は後回しだ。先に自己紹介を頼む」
「承りました」
お人形のように整った容姿の少女は、馬車の中からペコリと丁寧なお辞儀をしてみせる。
「ワタシの名前は……──」
『……ごくり』
「ワタシの名前は……分かりません」
『……はぁ』
「申し訳ございません」
溜め息を吐く俺達に少女は再び頭を下げる。
ただ俺達は、彼女が自身の名前を思い出せないことに呆れた訳ではない。
「やっぱり思い出せないか……」
「最初に起きた時、具合悪そうだったもんね」
「だが、その時は『マイン』と聞こえたな」
「近しい名前だとは思うんですけれど……」
獄卒島から出航した当初、ビュートに言われた通り魔力を注入し、再起動を図った時のことを覚えているだろうか。
あの時、この少女はぶつ切り気味に『マイン』と名乗っていた。
再び目を覚ました今となっては本人も思い出せないとのことだが、自分で名乗っていた以上、ニアミスではあるはずだ。
「じゃあ、暫定『マイン』ってことで」
「命令を確認。自機の識別名を『マイン』に設定」
「よし。じゃあ俺の言葉の後に自分の名前を言うんだ。『私のもの』を意味する代名詞は」
「マイン」
「『地雷』を意味する名詞は」
「マイン」
「Beautiful……」
「マイン」
「あ、これは大丈夫。今のはただの賞賛だから」
「マイン」
「あっ、俺余計なことした感じ!?」
「マイン」
ヤベェ。
俺のボケたがりのせいで、マインが壊れた機械みたいにバグった挙動をし始めた。かくして、俺の台詞の後全てに自己紹介を挟む悲しき存在が誕生してしまった。
違っ……俺はこんなつもりじゃ……!
「命令。停止。要求」
「承りました。『ライアーの言葉の後に自己紹介をする』の命令を停止致します」
「直った……良かった……!」
「余計なことをするからですよ」
「フンッ、正論はやめてもらおうか。傷つく」
「──『ライアーは正論を言われると傷つく』。学習しました」
「修正。『
「修正致します。『大体の人は正論を言われると傷つく』
「よし」
「よしじゃないが」
ベルゴがなんか言っている。
でも間違いじゃないから訂正してやらない。
という訳で、『マイン』と名乗ることになったこの少女だが、絶賛なぜなぜ期である。
戦闘での衝撃か、大罪化による影響か。
どちらにせよ記憶の欠損──要は記憶喪失染みた状態になってしまっていることは、俺達も既に把握済みだ。
全てが未知の真っ新な状態とホムンクルスの習性……プログラミング?
それもあってか、マインは知らぬ物を見聞きするや、それが何なのか知りたがる。要はなぜなぜ期だ。
「マイン。じゃあ、この三人が誰か憶えているか?」
「記憶領域の知識に照会……確認が取れました」
「なら小手調べだ。あのピンク髪はだーれだ?」
「『ライアーの仲間のアータンの仲間のベルゴの仲間のアス』です」
「よし」
「よしじゃありませんが!?」
どうした。マインは一言一句間違えず記憶してくれているぞ?
ただ仮に俺が目次を編纂する立場の人間だったとして、見出しを今みたいにする人間が居たら引っ叩く。至極当然である。
けど、俺も予想外だったんだよ。
鉄板ネタをそっくりそのまま受け止められるなんてさぁ。いや、一回獄卒島の族長でやらかしてたわ。
スマン、俺の学習能力の低さが原因だわ。
「修正! 修正! 修正修正修正ィー!」
「承りました。『アータン』、『ベルゴ』、『アス』ですね」
なんとか音声認証による修正を加えることには成功。
これでいちいち誰かを呼ぶ時、誰が誰の仲間かを説明しなくて済む。
「ところでマイン。お前がホムンクルスってのは本当か?」
「ホムンクルスとはなんですか?」
「説明しよう!」
かくかくしかじかオタクのトーク。
推定ホムンクルスのマインに対し、ホムンクルスについての知識を入力する。するとだ。
「──確認。錬金術にて製造された生命をホムンクルスと定義するのであれば、ワタシはそれに該当致します」
『おお!』
「ワタシの肉体は〈
なんかとんでもないこと言い出したぞ、この子。
「周囲の物質て……え、なんでもいい感じ?」
「はい。〈錬金魔法〉は元素に干渉する魔法です。周囲が真空でさえなければ、元素を組み替えて再生可能です」
「……マジか」
俺が戦慄していたら、アータンが『ねえねえ』と服の裾を引っ張ってきた。
「今の説明ピンとこなかったんだけど……具体的にどこが凄いの?」
「魔力が足りればお肉作り放題」
「お肉が!?」
これにはアータンもびっくら仰天だ。
実際、俺だって内心〈錬金魔法〉の詳細に驚愕している。
錬金術と聞いたら、その場にある物質なりなんなりを作り替えたり、組み替えたりするイメージがあると思う。
でも〈錬金魔法〉は違う。
全ての物質は元素──原子から成る。その原子に干渉できるってんだから、理論上はどんな物質でも作りたい放題って訳だ。
「でも、まだ信じられねえな。マイン、こいつをお前に渡す」
「これは何ですか?」
「大豆だ」
マインには船でビュートより授けられた大豆(+α)を授ける。
「そいつを……ごにょごにょ」
「……承りました。では」
ヌン! と大豆を両手で覆ったマインが、何かを施す。
すると、瞬く間に芳醇な香りが辺りに漂ってきた。
「こ、この芳しい香りは……!」
「ねえ、ライアー。何作ってもらったの?」
「ペロッ。こ、これは……醤油!」
「発酵してるッ!?」
マインの掌から滴り落ちる褐色の液体。
光に透かせば赤色に輝くそれは、紛れもなく醤油だった。日本人の心、醤油だった。
「完璧だ、マイン。お前を心から歓迎しよう」
「ありがとうございます」
「待って!? 決め手が醤油で本当にいいの!?」
「料理の一幕みたいな台詞だな」
「隠し味の議論みたいですね」
淡々としたベルゴとアスの会話も聞こえてくるが、俺の心はもうすでにマインを迎え入れると決まっている。
だって醤油よ?
そりゃあ迎え入れるでしょ。
「心強い仲間が加わったな」
「う、うーん……なんか綽然としないんだけど」
「──仲間とはなんですか?」
「おっ、質問来たな。仲間ってのはな……心を共にする関係のことを言うんだぜ」
「心とはなんですか?」
しまった、二段構えだった。
キメ顔決めたの恥ずかしい。
「心かぁ……説明するとなると難しいな」
だって、どう答えたってクサい回答になりそうじゃん?
『トントン(胸を叩く)……ここだぜ』的なボケも、まだまだ情緒がエケチェンなマインには通じないだろう。
でも、実体験を伴った答えならしてやれそうだ。
「心はな──自分を動かしてくれる、目には見えない歯車だ」
でなければ、今、ここに俺は居ない。
アータンも、ベルゴも、アスも。
全員が全員、俺が動かなければ運命に殺されていた人物ばかりだ。
だからこそ、救いたくて。
だからこそ、動かずには居られなかった。
そうさせたのは他でもない、俺の心だ。
「目には見えない……それは実在するのですか?」
「さあな」
「断言できない? つまり、嘘と?」
「さあな」
断言なんか、できやしない。
「嘘かも本当かも分からないから、あると信じる人間が居る」
「……」
「心ってのは、そういうもんだよ」
パチクリとウインクを送り、俺は顔を前に向ける。
「……ッキュア~~~!」
「ライアーは何をしているのですか?」
「マイン。あれはな、羞恥心に悶えているのだ」
「羞恥心」
回答する為とは言え、歯が浮く台詞を吐いてしまった自分に見悶えている俺を、ベルゴが解説している。
そうさ……これも心だよ!
「恥ずかし~! アス! 俺のこの羞恥心をどうにかして頂戴!」
「え? あ、はい。いつもので?」
「それでいい!」
「では失礼して……不潔ですッ!」
「ッ
「あれは何をしているのですか?」
「強いて言えば……ご乱心だな」
「ご乱心」
「あれもまた心だ」
ケツを蹴られて泣き叫ぶ俺を見て、マインが再び解説を受けている。
「心とは、色々あるのですね」
「あれは学ばなくていいと思うよ」
アータンが虚無の表情で、マインにそう告げる。
誰が学習教材には不適切だって?
そんなこともないもん! ──と思うこの心は反骨心だ。よく覚えとけ。
「もう一発行きますか?」
「……今回は、行く!」
「不潔です!」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!?」
そしてこれは冒険心。
時には不必要な心だ。肝とお尻に銘じておくんだな。
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