第79話 指名は依頼の始まり
×月×日
王都を目指してアッシドを発って数日経った。
皆で選んだ馬車の乗り心地はとっても良くて、休憩中だとついつい眠っちゃいそうになる。
皆は『ゆっくり休んでいい』と言ってくれるけど、もしもの時は私も動かなくちゃいけないと思うと、うかうか居眠りをするわけにもいかない。
そうだ、最近はベルゴさんやアスさんから魔法使いとしての立ち回りを教えてもらっている。今まで〈
隙間時間に今まで使えなかった魔法も練習して、少しでも皆の役に立たなくっちゃ。
……でも、あの揺れ具合が気持ちいいんだよなぁ。
×月□日
アッシドを発って数日経った。
道中、いろんな魔物と遭遇したりもしたなぁ……。
陸生なのか海生なのかはっきりすべきだと思った。
あと、穿いていた下着が破れた。
寿命だったのかな……町に着いたら新しいのを買わなくちゃ。
×月△日
街道沿いの町に到着した。
そこまで大きい町ではないけれども、しっかりギルドも存在していて、これまで倒した魔物の素材を買い取ってもらった。
買い取りしてくれたおじさんが驚いていたけれど、結構危険だったり貴重だったりする魔物の素材も混じっていたらしい。
私はあまり実感していなかったけれども、そう言えば普段ライアーやベルゴさんと居るから、相手がどのぐらい強いのかとか気にしなかったや。
なので思いつきでライアーに聞いてみたところ、今まで私と二人でこなしてきた討伐依頼は大体銀等級が受けるものだったらしい。
私聞いてないんだけど?
ちなみに、そんなことを聞いていたら下着を買うのをすっかり忘れていた。
あれからまた一枚破けたし、新しいのを補充したかったんだけどなぁ……。
今更戻ろうとも言えないし、残りの枚数でなんとかやりくりしよう……。
×月▽日
アスさんから妹さんについて話を聞いた。
ヴァザリアちゃんという名前らしく、実は二人の血は繋がっていないらしい。
孤児院で出会い、そのまま兄妹のように仲睦まじく暮らしてきたとのことだ。
アスさんは『血は繋がっていなくとも大事な妹です!』と言っていたけれど、それにベルゴさんがうんうん頷いていたのが印象深い。
私もお姉ちゃんと血が繋がっていなかったら……と思ったけれど、やっぱりお姉ちゃんはお姉ちゃんだ。
血の繋がりなんて、家族には関係ない。
そう言うとアスさんは嬉しそうにはにかんでいた。
そうだ、私はヴァザリアちゃんじゃないけれど、妹不足のアスさんに甘えちゃおうっと。ライアーも『そうしてやれ』って言ってたし間違いないよね?
……でも、下着を貸して欲しいとは言えない。
あれからまた数枚破れた。残りは1枚だ。
慎重に取り扱わなくちゃ。
×月◇日
メモ
王都 着いたら買う
──この後の文字は書き殴られていて読めない。
***
風が吹いたら何故かアータンに裏拳食らった。
風が吹けば桶屋が儲かるとは言うが、裏拳を食らうのはどこだよ。SMクラブか?
今はベルゴに慰められながら、『Butter-Fly』で一杯引っ掛けている真っ最中だ。
しきりに『年頃の女の子だ……許してやれ』と言われるんだけど、俺何かしちゃいました? その内容を教えてくれ。猛省するから。
ちなみにアスは、どこかへ去っていったアータンに付き添い不在である。
なんだよ……俺が居ちゃいけない理由でもあるのかよ……!
呷るエールも心なしか塩っ辛かった──。
さて、前述した通り俺達は無事に王都ペトロへと辿り着いた。ミレニアム王国のお膝元である。
「やっぱ飯は『Butter-Fly』に限るなぁ~」
「おかえりなさい、ライアーさぁ~ん」
「おっ、フレティ! 景気はどうだ?」
「ここはいつでもほどほどに繁盛してますよ~。そうだ、エールの付け合わせに最近仕入れたカース・マルツゥなんかどうですかぁ~?」
「おっ、いいね。バーローに差し入れてやってくれ」
俺からの奢りだ、と付け足せば、フレティは厨房へと戻っていった。
すまねえな、バーロー……流石に俺でもウジ入りチーズは守備範囲外なんだ。多分美味しいとは思うから許してくれ。
「ただいま~」
「あっ」
「! ライアー……」
少しすればアスと共に帰って来るアータンの姿が見えた。
得も言われぬ表情を湛える彼女は、やや腰を低くしたまま俺の前へと赴き、静かに頭を下げてくる。
「……さっきは裏拳してごめん」
「うん、気にしてない」
「あの時はやむにやまれぬ事情があって……」
「そう言われるとめっちゃ気になるけど気にしない」
「ありがとう……」
初めてだよ。裏拳を謝罪されたの。
しかも、裏拳せざるを得ない事情って何ぞ?
なんかもう色々と面白くなってきたので、裏拳の件、略して裏件についてはこれ以上詮索はしないこととする。機を見て詮索してもいいけれど。
さて、四人揃ったところで酒盛り……と行きたいところではあるが、ふと気になる点があり注文の手が止まった。
「なんだか人が少ねぇな」
「だね」
ベルゴとアスはともかく、俺とアータンは以前訪れた記憶がある。
だからこそ、この妙に閑散とした光景が気になって仕方なかった。
「そうか? よそのギルドならこれぐらいだったろうに」
「わかってねえな。普段の『Butter-Fly』ならこの三倍は繁盛してるぜ?」
「そんなにですか!?」
ベルゴの質問に対する返答に、アスが大いに驚いた。
どうだ、ビックリしただろう。
しかし、現在の店内はと言えばポツポツと空いたテーブルが見受けられる。
いつもならテーブルが空いてないからと、空席に案内されて他の冒険者と交流を図れる出会いの場でもあるのだが……。
「何かあったのか? んマッスタぁ~~~~~~い!!!」
「公共の場だよ?」
「すみません」
アータンに謝る間、だんだんと足音が近づいてくる。
そこには今日もダンディな髪と髭を生やした『Butter-Fly』のマスター・ピュルサン──。
「呼ばれて来たぞ」
「おお、マスター。なんだって今日はこんなに人が……」
ではない。
現れたるは厳めしい顔に厳めしい装いをした、いかにもお役人って風貌の男だった。眼光は鋭い。それこそ鷹の如き鋭利で獰猛な捕食者の瞳だ。こんなきっちりした装いでなければ、高位の冒険者か騎士でもやっていておかしくなさそうな威厳を纏っている。
「……」
「……」
「チェンジで」
「ダメだ」
「イヤだぁーーーッ!!!」
すぐさまチェンジを伝えて逃げ出そうとするも、やって来たマスターは俺の首根っこを掴んで離さない。
来たのはたしかにマスターだった。
しかし、マスターはマスターでも店主的な意味の方ではない。ピュルサンの方はこちらを見ながら呑気にグラスを拭いていやがる。
「ねえ、ライアー。その人誰?」
「ギルドマスター……」
「えっ!!? ……ライアー、間違って変なことしちゃったなら一緒に謝ってあげるから」
「泣いていい?」
まさかまさかの俺個人のやらかしだと思われ、ライアー君は涙を流してしまいましたとさ。ちゃんちゃん。
だが、ギルドマスターはそんな現実逃避さえも許してはくれないらしい。
掴んだ首根っこを引き寄せ、俺と真正面で向かい合う。マジで恋する5秒前ぐらいの距離感だ。
「よぉ、ライアー。久しぶりだな」
「ヘ、ヘヘヘッ。これはこれはギルドマスター様……あっしに何の御用でして?」
「ちょっと面貸してもらおうか」
貸したらもぎ取られそうなんだが? ──などと言った暁には、本当に鉄仮面ごと首をもぎ取られそうなので、お口にチャックしておく。
このギルドマスター、もうすぐ老境へ差し掛かろうというのに現役冒険者並みに筋肉モリモリなのである。
その年でその筋肉はもう変態だろ。
「ちなみに断ったら?」
「俺の頼みを断った冒険者が数日後に魔物の餌になってたことはあるな……」
「ヒヒ~ン」
俺はまだ死にたくないのだ。
助けてなのだ。
そして向こうで爆笑してるバーロー。あいつは後でタコ殴りなのだ。
「泣かないで、ライアー」
「話ぐらい聞いてやったらどうだ」
「そうですよ~」
「てめえら……」
他人事だと思って外野からあれこれ言いやがって。
この強面ムキムキ爺さんとタイマン張らなきゃいけないのは俺だぜ? 胃薬だって安かないんだぞ、おぉん?
なんていう風に三人にガンを飛ばしていたら、神妙な面持ちだったギルドマスターも奴らを順々に見つめていった。
「……連れか?」
「今のな。いいパーティーだろ?」
「たしかにいい面構えだ」
ギルドマスターは獰猛な笑みを湛え、そう言った。
それから彼は三人に向けて言い放った。
「なあ、あんたらにも話があるんだが……」
「「「え?」」」
「ギルドマスターご指名の依頼ってのに興味はないかい?」
***
ライアー一行は場所を移していた。
そこはギルドマスターの執務室。一介の冒険者であれば一生見ることすら叶わぬ場所である。部屋の両隣に並ぶ本棚の中には、これでもかと分厚い書物が収められているが、勝手に中身を見ようものならお縄になるだろう。
「よく来てくれたな」
「無理やり連れてこられたようなもんですけどね」
「よく来てくれたな」
三度目はない。
言外にそう訴えるギルドマスターに、ライアーは再びお口にきついチャックを閉めた。しかし、カタカタと震える鉄仮面の接合部は中々鳴り止まない。
最終的にアータンに手で押さえられたところで、彼の鉄仮面はようやく止まった。
「──単刀直入に訊きますが、ご指名の依頼というのは?」
早速ライアーが質問を投げかければ、一気に視線が彼の下へと集まった。
仲間である三人の目はこう言っていた。
──ちゃんと敬語使えるんだ。
甚だ失礼な感想であるが、それまでの言動を省みれば自業自得でもある。結果とは積み重ねなのだ。
それは人間の関係も例外ではない。
「俺からの依頼というのは他でもない。行方不明になっている冒険者……その調査を頼みたい」
「へぇ」
ギルドマスターの言葉に、ライアーはどうとも受け取りがたい声を漏らした。
ある意味では続きの催促。
当のギルドマスターもそう受け取ったからか、更に踏み込んだ内容を語り始めた。
「お前が耳にしているかは知らんが、ここ最近依頼に出た冒険者が帰ってこないケースが多くてな」
「冒険者が依頼に失敗して帰らぬ人に……ってわけじゃないと?」
「ああ」
ギルドマスターは応接用のテーブル上に、いくつかの依頼文を並べる。
話の流れから、それらが行方不明となった冒険者が受けた依頼であることは、全員が何となく理解した。
「依頼文自体は特に問題はない……だが目的地を見て欲しい」
「……どれもスーリア教国の地名だな」
「ああ、そうだ。彼らはスーリア教国に行ったっきり、帰って来なくなった」
厳かな声色も、次第に重さが増していく。
いや、鬱屈としていくと言った方が正しいだろうか。
それほどまでに今回の一件は、ギルドにとって重大な事件だった。
「行方不明になった冒険者は数十名にも及ぶ。駆け出しの新人からベテランまで……」
「そりゃあ穏やかじゃない」
「帰ってこないパーティーの中には、〈
「……マジか」
「ああ」
──有名なパーティーなのだろうか?
そうピンと来ていない三人であったが、すかさず『王都で有名な金等級パーティーだ』とライアーから補足が入る。
「そんな強い冒険者まで……?!」
「穏やかではないな……金等級冒険者と言えば、聖堂騎士団なら高位騎士と同格だぞ」
「スーリア教国で……」
三人が見せる反応は各々違う。
だが、誰もが金等級という冒険者の中でも上澄みの強者が、未だに帰らぬ事実にただならぬ雰囲気を感じ取っていたことはたしかだった。
「……」
ライアーは無言で三人を見渡した後、その視線をギルドマスターへと戻す。
「……で、なんで俺にご指名で? ちなみに俺は銀等級。世間じゃあ銀は金より良いなんて言いますけれども、結局金の方が格上なんですよ。いやぁ~、世知辛い」
「御託はよせ。お前に頼む案件と言ったらあれしかないだろう」
「あれとは?」
「
老いた眼光が青く閃く。
いよいよ濁り始めたはずの光彩であるが、ともすると、全盛期以上に力強い光を宿した瞳がそこにはあった。
その眼光に射貫かれ、ライアーはやれやれと首を振る。
「……やっぱり」
「予想はしていただろう」
「まあ、ご指名受けた時から」
「あ、あの……」
「ん?」
話は進んでいたが、付いていけるのはあくまで当事者だけだ。
「話が見えてこないんですが……」
恐る恐るアータンは挙手する。
迂闊なことを言えば首を捻られかねない重圧の中、怖がりながらも発言しようとする胆力が備わったのは、これまでの冒険の甲斐があってこそ。
ライアーは微笑ましそうに目を細めるが、緊張し過ぎたアータンの眼中に彼の表情は入っていない。アウト・オブ・アータンである。
「そうか……君達は聞いていないんだな」
「えっと、なんのことでしょうか?」
「……5年前、ここのギルドにとある冒険者がやって来た」
「へ……?」
突如、妙な語り口でギルドマスターは話し始める。
しかし、先の話題同様にそもそもの根底が見えてこない。アータンは困惑したまま、けれども、ギルドマスターの語りに耳を傾けるしかなかった。
「そいつは妙な鉄仮面を被っていてな。二人の黒騎士を連れてこう言ったんだ。『罪派を捕えてきた。懸賞金が欲しい』、とな」
「鉄仮面……黒騎士……あっ!」
「それから彼らはどんどん罪派を捕え、ギルドにそいつらの身柄を引き渡した。罪派と言えば、邪教を信じ、邪法に手を染めた狂信者共の集まりだ。懸賞金が貰えるったって、普通の冒険者なら実入りが少ないから手を出さん」
「……まさか」
「だがそいつらは罪派を倒した。倒し続けた。いつしか、インヴィー教国で教団を掌握していた罪派が告発・打破されたという知らせが王都まで届いた」
アータンの視線は隣へと向く。
そこには鉄仮面の剣士──否、勇者が沈黙を保っていた。目元は見えない。故に彼の感情を窺い知ることはできなかった。
「表向きの罪派打破立役者は〈
再びギルドマスターの鋭い眼光が閃いた。
光を浴びたのは目の前の男。
「罪派狩り……邪教の死神……またの名を──〈
「……」
「そう……お前のことだよ、ライアー」
力強く言い切ったギルドマスター。
心なしか強い信頼も現れている口調に、彼の言葉が偽りでないと直感した面々は、互いに見つめ合った。
「罪派狩り……だと……?」
「じゃあ、リーンさんとビュートさんも?」
「それがライアーさんですって……?」
「……え? 俺らそんな風に呼ばれてたの?」
「「「自覚なし!!?」」」
ケロッと言い放ったライアーに、三人は揃って声を上げた。
本人はと言えば本当に自覚がなかったらしく、両手で顔を仰いで『ヤダわぁ~、恥ずかしい~』と照れている。
「そういう風に呼んでるなら教えてくださいよぉ~。なになになに? 本当にそう呼ばれてるの? ギルド内で? キャ~、恥ずかしい~!」
「いや、俺を含めて上の連中が勝手に呼んでるだけだ」
「それはそれで恥ずかしいんですけどぉ~!」
一気に空気が弛緩した。
なんだ、この空気は。
まるで一部の界隈にしか伝わらない単語を初めて聞いた時のような疎外感。当事者以外を襲う感覚は、まさにそれに近しかった。
だがしかし、弛緩した空気を締め上げるのも、またギルドマスターの役目。
「まあ、とにかくだ。世の中には何につけても専門家が居る。中でも俺が知る限り罪派相手に安心して任せられる存在は、お前を措いて他に居ない」
「するってぇと、今回の一件には罪派が関わってると?」
「まず間違いなくな」
ギルドマスターは広げた依頼文とは別に積み上げられていた書類を取る。
それは報告書だった。
「こいつは依頼主の方を怪しんで調査に行かせた結果だが……確認する限り、依頼主本人は白だ」
「──つまり、依頼主が冒険者を罠に嵌めてるわけじゃなく、依頼を利用して罪派が冒険者を待ち受けてる可能性が高いと? しかも、地域単位で」
「理解が早いな」
とんとん拍子で話は進んでいく。
それ自体がライアー達の異名──〈断罪者〉に一定の信憑性を持たせていくのは、先ほど恥ずかしがっていた当人にとっては不本意な結果だろう。
「要するに、今回の冒険者失踪には罪派が関わっている可能性が大いに高いから、罪派に精通してる俺に事件の調査、もしくは黒幕をそのままぶっ飛ばしてこいと」
「そういうわけだ」
「報酬は?」
「金貨100枚」
「全額?」
「前金だ」
不意にギルドマスターは一つの袋を取り出し、応接机にそれを置いた。
ドンッ! と鈍い音と共に袋が傾けば、緩んだ口からジャラジャラと音を立てて黄金が溢れ出した。それは眩い金色の輝きを放つ硬貨。
正真正銘、金貨100枚であった。
「ぴぇ……」
思わずアータンは呼吸を忘れ、金貨を凝視した。
「調査内容によっては追加で100枚単位で上乗せする。裏次第じゃあ……まあ、500枚はくだらんだろうな」
惜しむ様子もなく言い切るギルドマスター。
その姿を前にアータンの頬には汗が伝った。金額に圧倒されたというのもある。金貨100枚はあくまで前金、結果次第でそれ以上など、孤児院育ちのアータンには考えられない世界の金額であった。
だが、それ以上に気圧された理由は別だ。
ここまでの金額を惜しみなく提示する。それすなわち、相手がそれだけ強大であることを示唆しているのと同義だ。
この場には四人の冒険者が居る。
一人は銀等級。言わずもがな、ライアーだ。
しかし、その他は冒険者としては駆け出しも駆け出し。銅や鉄ばかりのペーペーである。
ベルゴはまだいい。元騎士団長としての強さは、直に目に焼き付けている。彼については全くと言っていいほど心配していない。
問題は自分だ。
先日(知らぬ内に)銅等級へ昇格したとはいえ、冒険者歴一年未満の新参である。
そんな自分が金等級──聖堂騎士団なら高位騎士と同格の強者が行方不明となるような依頼に同行していいものだろうか?
そうこう考えている内に、甲高い口笛が執務室に鳴り響いた。
「太っ腹~。その話、受けますよ」
「助かる。それで?」
「ん?」
「誰と行く? あの二人は今一緒じゃないんだろう?」
「うっす。なんで、こいつらと行きますよ」
──ほら、来た。
身構えていたとはいえ、いざ本当に話が来るとなると緊張でお腹が痛くなる。
恐る恐る横を見てみれば、ベルゴは威風堂々と佇み、アスも落ち着き払った様子で椅子に座り込んでいた。
──動揺しているのは自分だけだった。
「一応訊くが大丈夫なのか? 見た限りお前以外低等級だろう?」
「ちっちっち」
当然の不安を口にするギルドマスターへ、ライアーは人差し指を軽快に振って見せる。
「エントリーナンバー1、ベルゥ~~~ゴォ~~~! 元聖堂騎士団長ぉ~~~!」
「なんだ、その紹介」
突如として始まった奇怪なメンバー紹介に、ベルゴは苦笑を浮かべる。
一方でギルドマスターは『道理で……』と納得した表情だった。
「エントリーナンバー2、アァ~~~スゥ~~~! スーリア教の宣教師ぃ~~~!」
「えっ、そこ売り込むポイントなんですか?」
宣教師が何の裏付けになるんだ……と思われるかもしれないが、魔物が跋扈する大陸を歩いて回るのだから、教団も一定の実力以上を持った人間にしか宣教師は任せない。
そのような事情を知っているからこそ、ギルドマスターは『なら安心だな』と納得の声を上げた。
「エントリーナンバー3、アァ~~~タァ~~~ン!」
(わ、私の番だ……!)
いよいよ自分の番が回り、妙に緊張するアータン。
ある意味でライアーが自分をどう思っているのか──それを対外向けの評価という形で聞けるいい機会だ。
だからこそ、アータンは怖がりながらも耳を傾けた。
そんな彼女を含めたこの場の全員に対し、ライアーはと言えば、
「──俺達ん中で最強」
「……へ?」
「以上、NEWライアーパーティーの紹介でしたぁ~~~!」
「……? ……。……!!?」
瞳孔ガン開きのまま、アータンをライアーに詰め寄る。
しかし彼はケタケタと笑ったままだ。今の言葉を訂正する素振り一つ見せない。
「ラ、ライアー!!?」
「どうしたんだ、アータン? お腹でもすいたか?」
「そんなわけないでしょ!!? なな、なんで今……!!?」
「ん~? だって事実だしなぁ……」
「どの辺が!!?」
自分が最強などと思った瞬間は一秒、否、一コンマたりとも存在しない。
だからこそアータンは狼狽する。
自分への過分な評価に対して。
何より、彼が自分を真っすぐと見つめたまま告げたことに対して。
(本気で言ってるの……!?)
「うむ……お前が言うのならそうなのだろうな」
「ギ、ギルドマスターさん!?」
「まあ、メンバーは初めから一任するつもりだ。もし他に必要なものがあれば俺に言え。ある程度融通しよう」
未だに現実を受け入れられぬアータンを余所に、ギルドマスターは話をまとめに入る。
「今回は冒険者ギルドの──延いては王国の面子に関わる問題だ」
わかるな? と厳めしい老人は四人を一瞥する。
「ギルドは国境を越えた組織。言うなれば、王国と七大教国の垣根を超えて結ばれる人と人の交流所。今はまだ行方不明者が王国の人間だけだが……」
「七大教国所属の人間から出たとなりゃあ最悪他国侵略の口実にもなりかねない、っと」
「こんなご時世、そんなことをしている暇なんかないと信じたいんだがな……」
苦虫を嚙み潰したような表情でギルドマスターは吐き捨てた。
最悪はないと信じたい。しかし、最悪がないと言い切れる確信がないとでも言わんばかりだった。
「安心してくれよ」
「ライアー……」
「その心配、俺が杞憂にしてやりますとも」
対して、ライアーは断言する。
宣言と、言い換えてもいい。
「犠牲になった冒険者も、わけのわからねえ罪派の思惑も──俺が全部嘘にしてやる」
まるでそれが義務であるかのように。
傍からすれば安心できない。だが、彼を知る者からすれば何よりも安心できる言葉に、これまで仏頂面だったギルドマスターの顔にもわずかな笑みが戻る。
「……頼んだぞ」
短くも万感の思いが込められた言葉を受け、ライアーは立ち上がる。
だが、立ち上がるのは彼だけではない。
魔法使いが、騎士が、僧侶も立ち上がる。
皆思いは同じだと言わんばかりに。
「よし……目指すはスーリア教国だ! 行くぞ!」
「うん!」
「ああ!」
「……はい!」
スーリア教国。
そこは伝説の始まり。
愛を信じる者の聖地。
原初の罪深き勇者が、魔王を打ち倒した始まりの土地。
彼らの愛に貴賤はなく、誰もが己の愛を求めて止まぬ。
故に──時に、愛憎も入り混じるのだ。
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