第80話 逸話は聖剣の始まり




──罪派シンぱ




 有り体に言えば邪教の集まりだ。奴らはギルシンシリーズでも恒例の敵組織として、度々主人公の前に立ち塞がって来る。

 ある時は本編のボス、ある時は本筋に関わらない敵として──ある意味四騎死メメントモリ並みに皆勤賞な出番を貰っている。


 ちなみに俺が転生した『ギルティ・シン外伝 悲嘆の贖罪者スケープゴート』では、本編とサブ、両方に出番が与えられていた。

 主な出番と言えば、やはりインヴィー教国編だろう。

 罪派の跋扈により上層部を掌握された〈海の乙女シーレーン〉が、主人公らを殺そうと立ちはだかってくるのだ。


 その犠牲者こそ本編では魔王軍幹部の一人だった〈悋気のセパル〉──なので、俺達が先んじてボコボコにしてやった結果がこちらとなっております。どんなもんだい。

 罪派上層部はあらかた捕えられ、罪派教皇ウェスパシアヌスや聖堂騎士団長フォカロルも全員仲良く牢屋送りとなった。


 だがしかし!

 宗教が七つあるのなら、罪派も七つある!


 何を言いたいのかと言えば、要は『悲嘆の贖罪者』では七つの罪派に関するストーリーが存在するってことだ。

 〈傲慢〉、〈憤怒〉、〈暴食〉、〈強欲〉、〈色欲〉、〈怠惰〉、〈嫉妬〉──七つの大罪を崇める罪派が関わるサブストーリーは、作中に登場するキャラクターの深掘りには避けては通れぬ道なのである。


 たとえばディア教罪派とのサブストーリーでは、本編で断片的にしか語られなかったレイエルやアニエル、そしてベルゴについて。

 一方インヴィー教罪派の場合、魔王軍幹部にまで凋落してしまったセパルの壮絶な過去や苦悩を知り、彼女を手に掛けたプレイヤーの精神を削っていく心折設計となっている。


 人の心がねえ開発会社がよぉ……でも大好き。


 とまあ、このような感じで罪派は人物掘り下げサブストーリー要員と化していた本編であったが──。


「スーリア教の罪派ねぇ~」


 ギルドマスターから話を聞いた後、俺達は王都のあちこちを巡っていた。

 理由はただ一つ、スーリア教国へと旅立つ準備を整える為だ。


 食料や日用品……ディア教国から王都へ帰還する間、向こうで買い足した諸々はすでになくなっていた。

 これが冒険。消耗品なんてあっという間に消えていく。だから金が必要なんだよなぁ。


「ライアー、何か心当たりでもあるの?」

「いんや」

「そっかぁ……」


 そして俺達は今、王都でも最も大きなランドリー店に訪れていた。

 ……えっ? ランドリー店とはなんぞやって?

 ランドリー店はランドリー店だ。我らの洗濯熊ランドリーラクーンさんが、界面活性剤を含んだ分泌液を手から滲ませつつ、洗濯物をゴシゴシ手洗いしてくれるお店である。

 『白さこそ誇り』という謳い文句通り、水だけでは落ちない頑固な汚れも綺麗さっぱり消えることから、主婦や冒険者の心強い味方として多くの支持層を獲得している。


 それがランドリーラクーンの働くランドリー店『Albatio』だ。

 ちなみに一洗い銅貨10枚である。高く感じるようなら他の人とまとめて頼むといい。洗濯物を一緒に洗っていい間柄ならな。


 ランドリーラクーンさんが洗濯物を一生懸命洗ってくれている間、俺達は店の外に備え付けられていたベンチに腰かけていた。


「居なくなった冒険者の人達、無事だといいね……」

「そうだなぁ」


 アータンの心配する声に相槌を打つ。

 深刻になり過ぎず、それでいて茶化しているとは思われぬ程度の声色となると難しい。


 しかし、そんな俺の意図をくみ取ってくれたのか、こちらに振り向いてくれたアータンはフッと笑みを零した。


「……でも、ライアーが行くなら大丈夫だよね!」

「当たり前よ。いつも三人で罪派を潰しに行った時、『あいつが一番弱そうだ!』とか『雑魚から先に片付けるぞ!』とか言われてブチ切れちゃった俺が行くんだ。返り討ちならお手の物よ」

「違う意味で不安になってきたよ」


 淡々とアータンは答えた。


 そんな……何が不安だって言うんだ。

 俺はただ拳でわからせてきただけなのに。


「……」


 一方その頃、アスは俯いていた。

 視線の先では現在進行形で、ランドリーラクーンさんがゴシゴシとパンティーとブラジャーを洗っている。


 なんて真っ白な下着なんだ……。


「……下着一緒に洗われるの、そんなに嫌だったか?」

「えっ!? いや、違いますけど!?」

「っていうか、アスさんブラジャー着けてたんだ……」

「違うんです、アータンちゃん!」


 アータンの視線を浴びるアスは、釈明の為に洗われていたブラジャーをひったくった。


 あぁ、洗濯物を奪われてランドリーラクーンさんが悲しい声を上げている……。

 『アラ~』と泣いているよ。


「見てください、この刺繍を! これはですね、〈硬化魔法〉の魔法陣を描いた紋様なんです!」

「えっと、つまり……?」

「魔力を流すだけで〈硬化魔法〉が発動してくれる優れもの! 実質胸当てというわけなんですよ!」


 しかも軽い! とアスはブラジャーを掲げながら声高々に叫ぶ。


 やめい。

 ランドリー店に来ている主婦の方々と、一緒に来ているお子さん達から変な視線を向けられるやろがい。特に男児。彼らの性癖がベキベキに折れ曲がっていく音が聞こえてくる。


「へぇ~、そういう防具もあるんだ~」

「だからね、アータンちゃん。わたしは理由もなくブラジャーを着けているわけではないんですよ。おわかりいただけましたか?」

「私のよりサイズが大きい……」

「あれ!? 気にするところそっち!?」


 どうやら釈明のつもりが地雷を踏んだらしい。あるいは墓穴か。

 ズーンと落ち込むアータンは、プンスコ怒りつつアスのブラジャーをひったくったかと思えば、ランドリーラクーンさんの前に置かれる洗濯桶の中へと放り込んだ。


 『私のブラジャー!!?』というアスの悲鳴などお構いなしの強肩を発揮していた。水飛沫が上がれば、共に舞い上がった泡が俺の鉄仮面に降りかかる。ランドリーラクーンの顔にも降りかかる。『アラー!?』と悲鳴も上がる。


 怖いね、嫉妬は。


「それはそれとしてさ」

「軽く流さないでください!」

「どうしたよ。罪派についてなんか気になることでもあったか?」


 先の妙な表情を思い出しつつ問いかけてみる。

 するとアスは弾かれるようにこちらを向いてきた。表情は驚きを隠せていなかった。


「……どうして、そう思うんですか?」

「辛気臭ぇ面してたからだ」

「それだけで?」


 それだけでとは言うが、罪派の悪行を聞けばそうもいくまい。


「奴らは目的の為ならどんなことだってやる。それぐらいは知ってるだろ?」

「……はい」

「何の罪もない子供が魔宴サバトの生贄にされたなんてのはよくある話だ。犠牲になった人間は掃いて捨てるほど居る」


 だから俺は……、罪派を倒して回った。


──救われぬ路傍の悲劇。

──その陰に罪派あり。


 『悲嘆の贖罪者』は“取り返しのつかぬ罪”をテーマにした作品だ。

 事実、作品の要所にて様々な悲劇が垣間見えていた。主要キャラの親しい人間が死ぬのは勿論のこと、サブストーリーでさえ罪派や悪魔によって悲劇を被った人々が大勢いる。


 そして、全員が何かしらの負い目を背負っていた。

 しかし、その負い目の払拭はついぞ叶うことはなかった──といった内容がザラにある。うーん、人の心がない。


 そういった事件にも多く関わっている勢力こそ罪派だ。

 放っておくとロクなことをしない。じゃあできる限り駆除しようやとなったのが、ギルドマスターが言及していた5年前からである。


 罪派は魔王軍と関わっていることもあるし、実質魔王軍戦力みたいなもんよ。削っといて損はないよね。

 というわけで、駆け出しの頃は金策に使わせていただいておりました。

 お金も稼げるし、未然に事件も防げる。一石二鳥とはこのことよね。


 つまり何が言いたいのかと言えば──罪派の犠牲者なんてどこに居てもおかしくはないということだ。


「お前は──」

「っ……」

「いや、やっぱいいや」

「え……?」


 途中まで口にしたところで、俺は質問をやめる。

 アスが拍子抜けした面を晒しているが、むしろそれが見たかった。


 辛気臭い面より、よっぽどいい。


「悪かったな、変なこと訊こうとして」


 むやみやたらと身の上話を聞き出そうとするなんて邪推だ。要らない同情なんて掛けられたら不快に思う人間だって居るだろう。


「お前が一緒に罪派と戦ってくれるならそれでいいんだ」

「ライアーさん……」

「頼りにしてるぜ、アス」


 おどけたように言ってやれば、アスの表情も柔らかくなる。

 隣で少し居心地が悪そうにしていたアータンも、そっとアスの体に身を委ねるように寄りかかった。彼女なりの信頼の証だろう。


「皆さん……ありがとうございます」


 俺達の気遣いに感謝するように、アスは深々と頭を下げた。


 話すタイミングなんてものは自分で決めればいい。

 だから俺達に必要なのは話そうと思えるだけの信頼を築くこと。


 ……はぁ。無駄に設定とか知っている分、首を突っ込もうとしてしまうところが俺の悪い癖だ。これは反省会行きだな。


「……にしても、ベルゴ遅いな」


 俺は店前の大通りを見遣った。

 主要な大通りには様々な露店が立ち並んでいるわけであるが、そこには当然グルメもあるわけで、


「クレープ買いに行ったんですよね?」

「何味買ってきてくれるかな!」

「楽しみですね!」

「うん!」


 アータンもはしゃいでいる通り、ベルゴは現在クレープを買いに行っている。ランドリー店に来る途中に見つけて、厳正なるジャンケンの結果、敗者が買ってくることに決定されたのだ。


 しかし、それも数十分前の出来事だ。

 クレープ四枚買うのにどれだけ時間掛かってんだ。ここは都内の有名店かっての……そう言えば都内だわ(王都)。


「お~い」


「あ、来ましたね」

「もう! 遅いよ~!」

「お父さ~~~ん! アタシたち待ちくたびれちゃったんだけどぉ~!?」


「これで実際女は一人なのがややこしいな」


 わざわざライ子にまで変化して文句を垂れたら、俺達を一瞥するベルゴがそう告げた。


「んで? クレープは無事に買えたのか?」

「ああ、しっかり選んできたぞ。ほら、アータン。お食べ」

「やったぁ!」


 真っ先にクレープを受け取ったアータンが幼児のようにはしゃぐ。アータンが嬉しそうで俺も嬉しいよ。


「何クレープかな? 楽しみ!」

「ああ、栄養を考えて野菜がたっぷり入っているのを選んだぞ。ソースもピリ辛で美味しいらしい」

「え」

「? どうした、遠慮せずたくさん食べなさい。ほら、」




「このバカチンがぁ!!!」




「ぬふぅう゛!!?」


 アータンが言葉と目の光を失ったところで、俺はベルゴのスネを蹴り飛ばした。

 ベルゴが痛みに悶絶して膝を折るが、その状態でもクレープを手放しはしなかった。流石だな、元騎士団長。そこは褒めてやる。


 それはそれとしてだ。


「ベルゴぉ!!! おまっ……お前ぇーッ!!!」

「なんだと言うのだ!!? いきなり蹴りおってからに!!」

「アータンの顔をごらんなさいよぉ!!! 『今朝飼ってたハムスターが死にました』みたいな顔になっちゃったでしょおがッ!!!」

「なっ……どうしたと言うのだ!!? 一体誰にやられた!!?」

「お前だよぉ!!!」


 惣菜クレープて。

 残念だよ、ベルゴ……今こそ女子力を発揮するべきだったと言うのに。


「クレープと言ったらもっと、こう……あるだろう!!? ホイップクリームとかチョコソースが掛かった甘い感じのが!!」

「だが昼食ならこっちの方が」

「Q.甘~い甘~いアップルパイを食べられると思っていたら全然甘くないパイが出てきた時の子供の気持ちを答えよ」

「……世の中甘くないな、と」

「ならば貴様も味わえぇい!」

「スマン゛ゥッ!!?」


 微妙に察して小ボケを挟んできたベルゴのスネを今一度繰り出す。


 わかってくれたなら何よりだ。

 しかしアータンの顔は晴れない。どんよりどよどよ曇り空だ。今にでも雨が降ってきそうな空模様を見て、苦痛に悶えていたベルゴもこれはイカンと立ち上がり弁明する。


「す、すまんアータン……オレはてっきり」

「ううん、気にしないでベルゴさん。これはこれで美味しいと思うから」

「アータン……っ!」


 そうは言っているもののアータンの浮かべる笑みは偽物だった。

 取り繕われるは空虚な笑み。それを前に良心が凄まじい痛みに苛まれたのか、ベルゴは凄絶な表情を湛えていた。


「クッ……今すぐ買い直してくる!」

「待て、ベルゴ」

「なんだ!? オレは今すぐアータンの為にクレープを買いに行かなくては……!」

「本当にそれでいいのか?」

「なに……!?」


 どういう意味だと言わんばかりの視線が俺に突き刺さるが、実に単純な話だ。


「アータンの健康を気遣いながら、アータンのスイーツ欲を満たす──それなら惣菜クレープを食ってからでいいだろうが!」

「! た、たしかに……」

「……別に、ベルゴが買ってきたのが駄目ってわけじゃあねえんだ。そうだよな?」


 俺がそう問いかければアータンは『うん』と頷いた。

 アータンだって理解しているのだ。甘~い甘~いクレープだけを食べるのも駄目なんだってことぐらい。


「では……ではどうするというのだ!?」

「これ食ってからでいいだろ」

「それもそうだな」


 そして始まるクレープパーティー。期待していたものとは少々内容が違うものの、これはこれで美味なグルメである。

 本命の甘いクレープは食後の楽しみとして取っておこう。


「「「「美味しい~」」」」


 洗濯が終わるまでの間、四人でクレープを貪る。

 笑えるやらかしも、ある意味では冒険の醍醐味だ。




 ***




「そうか、スーリア教国に行きやがるのか!」


 クレープを食った翌日。

 俺達が訪れていた場所は、王都の路地裏に構える贋作レプリカばかりの武具店『Adulter』だ。

 店主シムローは俺の罪器の元となった剣を打ってくれた鍛冶師。なので王都に来た際は、武器の手入れをシムローに任せている。


 昨日の買い出しやらを済ませる途中、あらかじめ武器を預けていたのだ。今日はそれの受け取りに来た。


「親父はスーリア教国行ったことがあるのか?」

「いんや。だがあっちの方はが多いって話だろぉ~?」


 そう言ってシムローは親指と人差し指で作った輪っかに、もう片方の手の人差し指を──あらヤダ、下品だわ。全身にモザイク掛けてあげなきゃ。

 鼻の下を伸ばして語るシムローは、『あそこは男にとって夢の場所なんだ……』と遠い目をして語っていた。


「別にそういう理由で行くんじゃねえっての」

「ガハハハハ! わぁってるっての! なぁ~、アータンちゃ~ん!?」

「ふぇ!? なんで急に私!?」

「……あり、違ったか? それじゃあその指輪はなんでい?」

「こ、これはライアーから……た、ただの貰い物です!」


 アータンは左手の薬指に嵌めた罪冠具を大事そうに抱え込む。

 うんうん、そうだわな。わざわざリーンが用意してくれた純金製の罪冠具だ。そりゃあ大事な物だろうに。


「っんとに、てめぇらは……」


 だと言うのに、シムローはなぜか冷めた目で睨みつけてくる──俺を。

 なんで?


「ま、そこんところはオレの関わるところじゃあねえな。若い男女でよろしくやっとけ」

「親父と違ってな」

「殺すぞ」


 殺すぞ宣言からの金槌の一閃が眼前を横切る。

 こ、怖ぇ……!


「けど、スーリア教国と言ったらやっぱあれだ。聖剣だよ」

「聖剣って……聖剣か?」

「そう! だ!」


 俺達二人にしかわかっていない会話に、横で聞いていたアータンが小首を傾げる。


「ねえライアー。あの聖剣ってなに?」

「よくぞ聞いてくれましたね」

「あっ」


 しまった! とやらかしてしまった表情を浮かべるアータンだが、もう遅い。


「スーリア教国の聖剣と言えば『断罪の聖剣』と『浄罪の聖剣』! この二振りだ!」

「断罪と……浄罪?」

「そう! 〈色欲の勇者〉デウスが振るっていたとされる伝説の剣! 片や罪深き魂を焼き、片や罪深き魂を赦す力を持っていたとされている……」


 ギルティ・シンも長寿シリーズの一角。

 数多ある武器の中にはシリーズ恒例となっている武器が存在している。


 ギルシンにおいて、それは『断罪の聖剣』と『浄罪の聖剣』の二つ。

 いわゆる勇者の剣ポジションの武器であるが、第一作『色欲のエデン』から最新作『悲嘆の贖罪者』まで皆勤記録を伸ばしている。

 その性能は最強の名をほしいままとし、ギルシンの好きな武器ランキングでは常にこれら二つで1位争いをしているくらいだ。


 『断罪』と『浄罪』──その名が示す通り、これらは罪使いに対して極めて特攻な性能を有している武器だ。


 断罪の聖剣は、相手が罪深ければ罪深いほどに攻撃力を増すキラー効果持ち。

 浄罪の聖剣は、逆に相手の罪を浄化することで相手の全能力を下降させる。


 時には罪使いを裁き、時には罪使いを救う。

 そういった立ち位置から、ナンバリングによっては物語のキーアイテムとして度々登場する。


 そんな二つの聖剣が!

 なんと!

 今回に限り!?


「でも今展示されてるのって贋作だろ?」

「バッキャロウ! 贋作でもカッコよけりゃいいんだよぉ!」

「たしかにぃ~」


 二つの聖剣の誕生したスーリア教国。

 その聖都に構える大聖堂には『断罪』と『浄罪』、両方の聖剣が一般公開されているわけだが、残念なことにこれは祭事用の贋作となっている。

 しょうがないよね。本物の聖剣が誕生したのは少なくとも千年、ひょっとすると一万年以上も前に打たれた代物だ。朽ちてなくなっていて当然だ。


 やはりそこはゲームと現実の違いか……一ファンとして誠に残念である。


「ま、贋作でもそれなりに見れたもんだろ。土産話としてじっくり堪能させてもらうよ」

「おう! 帰ってきたらゆっくり聞かせろや」


 しかし、贋作でもカッコイイものはカッコいい。

 その辺り俺と親父は同士だ。再び王都に帰還した時は、贋作の話に華を咲かせることになるだろう。そう思うと今からスーリア教国に行くのが楽しみになってきた。


 今回の一件を解決したら絶対に見に行こう。

 そう決意した時だった。


「けどなぁ……てめえなんだこの剣の状態はぁ~ッ!? あれからまだ半年も経ってねえだろうが! どんな使い方したらこんな刃毀れすんだぁ!?」


 ヤッベ。

 剣の状態についてキレられた。


 ご存じの通り、フィクトゥスとイリテュムはドゥウスにて存分に活躍してもらった。

 しかし、レイエル相手に鍔迫り合いを演じたのがイケなかったのだろう。この前、『さぁて、手入れするか~』なんて鞘から抜いた時、色々と察したよね。


「るっせぇ~~~! ただちょっと聖騎士とガチンコでやり合ったらこうなっちゃっただけなんです誠に申し訳ございませんでした」

「聖騎士とやり合ったんなら仕方ねえなぁ!」

「寛大なお心に感謝いたしまする~~~!」

「おうおう、感謝しやがれぇ!」


 許された。

 刃毀れの件については誠に申し訳なく思ってるよ、親父。でもね、マ~ジでレイエル強かったんだから。正直ポッキリ折られなかっただけ奇跡だもの。

 それを信じてか否か、シムローはそれ以上追及してこない。理解のある大人で助かるよ。


「けど、またすぐ折られちゃあ責任は持てねえぞ?」

「えっ……マジ? もう受注生産禁止?」

「違ぇ。お前ぇ用の武器作んにゃあ時間掛かるんだよ」

「ああ、そういう……」


 大人数雇っている工房ならともかく、シムローの店は個人経営だ。

 鍛造から装飾まで一人で行っていると思えば、そう短期間の間にホイホイ作れるものではない。採算度外視なら尚更だ。


「だから今ある武器を大事に使えよ?」


 それは当然だ。

 俺だって好き好んで武器を壊したいわけではないもの。


 ただ、赤い変態が悪かったり赤い死神が悪かったりするだけだ。


 許さん……許さんぞ、サンディーク。

 フィクトゥスの仇ぃー!


「ったく、てめえの法螺話も大概ぶっ飛んでやがんなぁ……」

「だろ? まだまだネタは仕入れてるんだぜ?」

「それで折角作った武器を壊されちゃあ堪ったもんじゃねえっての」

「ごめん」


 素直に謝れば、シムローはバツの悪そうな顔で不精髭の生えた頬を掻く。


「最悪武器が壊れんのはいいんだよ。生きてりゃ新しいのを買わせてオレの懐が潤うだけだからよ。けど、用意するにゃあそれなりの時間が要るからなぁ」

「あ~、そういう」

「だから今あるのを大切にしろ」


 親父は腕のいい贋作師だが、良い贋作を生み出すにはそれなりの期間を要する。

 個人製作の上、数打ちと違って造形にこだわらなければならないのだから、それも当たり前と言えば当たり前の話だ。


 異世界に来て実感する物の大切さよ……。


「親父……俺、親父の武器大切にするよ……」

「おう! 末代まで聖剣として崇め奉りやがれぇ!」

「親父……俺が末代だったらどうする……?」

「そん時ぁてめえの墓にぶっ挿してやらぁ!」


 『尻の穴よぉく狙ってなぁ!』とシムローは叫ぶ。

 いやぁん……オハカ掘られちゃう。墓に入れられてまで、後ろの初めては失いたくない。末代にならないよう頑張ろうっと。


「にしても、急に大所帯になりやがったなぁ」


 不意にシムローが呟いた。

 彼の視線は、暇つぶしに店内を物色しているベルゴとアスの二人へと向いていた。以前、この店に来る時には居なかった面子だ。急に知らない顔が二人も増えたとなれば、傍から見ればそういう感想にもなるだろう。


「随分ガタイのいい男にめんこいシスターさんか」

「シスターじゃねえぞ」

「ん? そりゃあ一体どういうことだ?」

「そりゃあシモが付いて──」


「ライアーさん!!」


「っ痛ぁーーーッ!!?」


 流れで真実を告げようとすれば、赤面したアスの蹴りが尻へと振りぬかれた。

 鳴り響く破裂音。さながら楢炭が弾けたかの如く木霊する音からもお察しの威力だった。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! 尻が!! 尻がぁーッ!!?」

「ライアー!」

「アータン!! 俺の尻八つに裂けてない!!? ヤマタノオシリになってない!!?」

「多分大丈夫!」


 多分大丈夫らしいので、痛みを堪えて何とか立ち上がる。

 いやさぁ、たしかにこの前アウトライン超えたら蹴っていいっつったけどね。


 それにしたって想像を絶する痛みだわ。

 これ喰らってたら年越せないぞ?


「アス……今度から蹴る時は一声掛けてくれ……!!」

「逆に一声掛けたらいいんですね」

「報いは受け入れる──ただし、納得できない事由で蹴られた場合は俺も蹴り返す」

「断ち切れぬ復讐の連鎖!!?」


 そらそうよ。

 言うじゃん? 右の尻を叩かれた者は、左の尻も差し出せって。


「ま、まぁ、仲良くやってんならそれに越したこたぁねえなぁ」


 シムローは若干引きながらそう漏らした。

 仲良く、か。それについては問題ない。


「大丈夫だって。俺の冒険のポリシーは『全力で楽しむ』だからな!」

「……そうか。なら楽しんでこいや!」

「おうとも!」


 言われなくともそのつもりだ。

 人数は増えたが、その分きっと思い出は多くなる。


 冒険の書に書き込める内容だって、どんどん増えていくことだろう。


「土産話楽しみにしとけよ!」


 そう言って俺達はシムローの店『Adulter』を後にした。


 おかげさまで武器の状態は万全。

 これならどんな敵がやって来たって一刀両断よ。


 悪魔でも罪派でもドンとこいって感じだ。


「よし、準備済んだことだし……スーリア教国に向けて出発するぞ!」

『おぉー!』


 かくして俺達は王都ペトロを発った。


 目指すはスーリア教国。

 色欲と純潔が反目し合う、愛に生きる者達の聖地メッカだ。


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