第59話 爆発は爆誕の始まり
(そんな、ライアー……!)
大悪魔を前に膝を突く勇者の姿に、囚われの少女は怯えた表情を浮かべる。
可能ならば今すぐ助力したい。
しかし、アータンは目の前で繰り広げられた戦いを見て、最初の一歩を踏み出せずに居た。
(ああも一方的にやられるなんて……?!)
彼の強さは知っている。
〈幻惑魔法〉や罪魔法を用い、魔物や悪魔を掌と舌の上で弄ぶ、おおよそ勇者とは呼び難い戦法を取る剣士。
だが、罪化をすれば
だからこそ、為す術もなく崩れ落ちた瞬間、彼女の胸には絶望が湧き上がってきた。
「ク、ソッ……!」
「暗殺者、だったかぁ……? 誰が雇った刺客かは知らんがぁ……とんだ肩透かしだぁ……」
「舐めんな!」
クツクツと笑うネビロスへ向け、立ち上がるライアーが斬りかかる。
その瞬間、ネビロスは右手に持っていた杖を掲げた。
爪先に炎が灯る。青い、異様な炎だった。
ポツリと爪先から蝋か、あるいは脂のような液体が滴り落ちる。
「ぐっ!?」
すると果敢に切りかかったライアーは硬直し、その場から動かなくなった。
それを見て喉を鳴らすネビロスは、ゆっくりと身動きの取れない刺客へと歩み寄る。
「どうしたぁ……? おれを殺すんじゃなかったかぁ……?」
「このっ……!」
「何人も居たよぉ……おまえのようにぃ……おれを殺しに来た刺客はぁ……」
おもむろにライアーの胸元へ手を翳すネビロス。
掌から黒い瞬きがあった。
何かを壊すことしかできぬ、破壊の光だった。
──〈
掠れる声が闇に響けば、遅れて轟音が周囲を揺らした。
「がぁ!?」
「フ、フフ、フ……まだ生きてるのかぁ……? 随分頑丈だなぁ……? 今までの刺客はぁ……おれが一撃食らわせたらもう死に体だったのになぁ……どうしてだぁ?」
「て、めぇ……!」
〈闇魔法〉で吹き飛ばされても尚、ライアーは辛うじて意識を保っていた。
その事実に感心するような言葉を漏らすネビロスだが、そこに相手を称賛する意図などありはしない。ただただ事実を端的に述べているだけのこと。
「それともぉ……この女がそんなに大事かぁ?」
「!?」
「フ、フフ、フ……そりゃあそうだよなぁ……“大罪”ともなれば人間共にとっちゃ希望の光だもんなぁ……」
最初から〈罪〉を見透かしていたような発言に、ライアーとアータンは瞠目した。
二人の表情を見たネビロスは、愉快と言わんばかりに笑みを深くする。
「だが残念だったなぁ……おまえらにとっては希望の光もぉ……おれにとっちゃあすでにいくらでも手に入る“駒”なんだよぉ……」
「だからレイエルを送って来やがったのか……!?」
「……なんだぁ。知っていたのかぁ」
ほの暗い部屋にやる気のない拍手が響く。主はネビロスだ。まるで手傷を負っても立ち上がるライアーを称賛するような所作だ。
その姿に敬意を評するように、とでも言わんばかりだった。
「──おまえらは何を以て死霊術を完成と見るぅ?」
「……なんだと?」
「愚鈍めがぁ」
返答に窮した様子に指を差し、ネビロスは眼前の
「死霊術は死を超越した魔法であり外法ぉ……死という終焉すらも捻じ曲げる神の御業だぁ……」
「ハッ、そいつは大層なこって。自分が神とでも言う気かぁ?」
「逆に訊くが何故なれないと思うぅ?」
一瞬の躊躇いもなく、大悪魔は聞き返した。
「人間は疑うことを知らなぃ……先人の知恵だ教えだと吹き込まれたものを盲目的に信じるぅ。だから救世主として崇める“大罪”が敵に回らないと思い込むぅ……」
「──まさか!」
「……フ、フ」
ネビロスは覚束ない足取りで壁際まで向かう。
壁際にはずらりと並ぶ無数の甲冑があった。王族や貴族の館にでもあるインテリアにも見える代物だが、ネビロスが枯れ枝のような指でバイザーを上げれば中身が覗いた。
「そいつは……!?」
「“大罪”の器──正確に言えば〈怠惰〉の容れ物だぁ」
「……レイエル!」
「その通りだぁ」
かつてディア教国の聖堂騎士団長として聖騎士の称号を授かり、ベルゴの親友として聞いていた男の顔がそこにはあった。
ネビロスは愉快げに、次々と壁際に並ぶ甲冑のバイザーを上げていく。
その中にはどれも似たような顔が並んでいた。
どれも、どれも、どれもどれもどれも──ベアティを救出に向かった際、遭遇したレイエルの顔と瓜二つだった。
「やっぱりお前がレイエルを……!」
「フ、フフ、フ……人間ってのは本当に愚図で鈍間だぁ。おれたちの真意にも気づけずぅ……誇りだ責任だと叫びぃ……無価値な命の為に死ぬぅ……」
──本当に馬鹿な人間だったよぉ。
闇の中でもくっきりと聞こえた罵りの言葉に、ライアーが憤怒に震えた。
杖にしていた剣を構え、その切っ先を眼前の悪魔へと向ける。
研ぎ澄まされた殺意と共に魔力が放たれる。
周囲の燭台に灯る炎は怯えたように揺れた。
しかし、当の殺気の矛先にあるネビロスは、微塵も怯えたりしていない。
彼は語った。
「レイエルもそうだったよぉ。死ぬ間際まで『団長の責務だ』や『聖騎士としての誇りが』なんだと煩かったなぁ……」
懐かしむように。
「だから確かめたんだよぉ。団長の責務? なら部下の死体を向かわせたらどうなるぅ? 聖騎士としての誇りぃ? あえて外道にのみ勝ち筋を残したらどうなるぅ?」
楽しむように。
「いやぁ……傑作だったよぉ。血反吐を吐いて部下の死体は切り刻めたってのにぃ、人質にとった見ず知らずの生きた他人は斬れなかったんだぁ。フ、フフ、フ……見捨てさえすれば勝機はあったかもしれないのになぁ」
この間、ライアーは無言を貫いていた。
しかし、口に出さずとも極限まで高まった怒りは爆発する。直後、飛天を用いてネビロスとの間合いを詰めてみせた。
だが、やはりネビロスが杖を掲げた瞬間、彼の動きはそれから動かなくなる。
どれだけ怒りを燃やしても。
どれだけ憎悪を膨らませても。
それ以上、体が前に進むことはなかった。
「ちっ!」
「あぁ、話が脱線したなぁ……つい楽しくってよぉ……」
「外道って言葉はお前の為にあるらしいな」
「フ、フフ、フ……誉め言葉と受け取ろう」
『そうさ』とネビロスは続ける。
「
その答えが、まさに今眼前の並べられる光景だった。
無数に作られたレイエルの器。
“大罪”を降霊する為だけに用意された空虚な肉の塊。
「おまえらは知らんだろうが魂と器には相性があるぅ。当然元の肉体が最も相性がいいがぁ……そうでなくとも正解に近づけることができるぅ」
「だから差し向けた容れ物もレイエルに寄せたってわけか。けど、その体はどこから持ってきた?」
「わざわざ言う必要があるかぁ?」
「……外道が」
「言っただろぉ。死霊術は魔法にして外法ぉ……倫理とか道徳とかぁ……そんなくだらんものの為に停滞してるおまえらとは立っている次元が違うんだよぉ……!」
髑髏のような顔面が醜悪に歪んだ。
こいつは悪魔だ。誰もが思った。
己が好奇の為に、容易く倫理を踏みにじる外道の怪物。
生者の肉体を弄り、死者の魂すらも弄ぶ。
これこそ人類が死を切望する六体の天敵が一。
「この──〈
蒼褪めたように塗りたくられた唇が、歪な三日月を描いた。
今すぐにでもその顔面を殴り飛ばしたい衝動にライアーは駆られる。
けれども、いつになっても体は動かない。
きっかけがあるとすれば、やはりネビロスが掲げた杖だろう。
「その杖……罪器か……!」
「半分正解だぁ……『栄光の手』を知っているかぁ?」
おどろおどろしい色合いの左手を括りつけられた杖からは、鼻を突くような異臭を放っていた。
「罪人の左手を乾燥させ、酢漬けにした呪物だぁ……おれのはそいつが罪器と化しているぅ……」
「魔道具が罪器に……!?」
「『シニスター』──おまえには過ぎた絞縄だぁ」
「うっ!?」
歩み寄るネビロスが突き出した杖──シニスターが、ライアーの首根っこを掴む。
抵抗しようとするも、硬直した体ではそれさえも叶わない。
万力の如き握力でみるみるうちに気道は絞られる。
「あ、がっ……!」
「冥途の土産とは言ったもんだぁ……知ったからにはおまえは殺すぅ……」
「ぐぅ……!?」
「どうせいずれは誰もが知ることだがぁ……一足先にあの世に言いふらしてきてくれよぉ」
──もうすぐ地上が地獄になるってなぁ。
囁くような死の宣告が、仄暗い闇に木霊する。
(ライアー!)
首を絞められる勇者を見て、少女は助力を決意する。
が、やはり体は動かない。
恐らくはネビロスの罪器による効力だとは察せたが、今更気付いたところで事態は好転しなかった。
「じゃあな、間抜け」
鈍い音が鳴った。
人体から鳴ってはならない、命の根幹をへし折る音だ。
次の瞬間、ライアーの首は力なく倒れ、それからピクリとも動かなくなった。
「ん゛ぅーーー!!?」
「フ、フフ、フ……よぉく見たかぁ……?」
「ああ、良く見えたよ」
「おまえを助けに来た人間が犬死した様を──」
そこまで口走り、ネビロスは振り返った。
「……あぁ……?」
「あ? ようやく終わった?」
「……」
そこで初めてネビロスの顔が歪に歪んだ。
少女が寝転がる台座に優雅に腰掛ける、謎の鉄仮面の姿を見て。
「……なぜ」
「栄光の手は死蝋に炎を灯し、自分に害を為す敵の身動きを取れなくさせる魔道具。種さえ割れりゃ対処は簡単だ」
「いったい、」
「範囲は炎に照らされた場所。なら、遮蔽物に隠れりゃいいだけの話よなぁ」
「いつから、」
「あ~あ、もうちょっと俺の幻影を嬲ってくれりゃあ色々やる時間があったのになぁ~」
「どこまで知って──」
「全部さ」
直後、部屋中に金属がぶつかる騒音が轟いた。
床には無数の兜が転がる。
ただの兜ならば、ネビロスはまだ平静を取り繕えただろう。
しかし、こと部屋に並ぶ甲冑の兜──レイエルの頭が収められた兜が転がれば、大悪魔も動揺を隠せなかった。
「なんッ……」
「強力ユニット無限残機で人様絶望させようったってそうはいかねえぞ。そういう悪い仕様は運営様のメスが入るって知らなかったかぁ?」
「ネズミがぁ……」
「ハァイ、ジョ~ジィ~。俺はネズミじゃねえ、ゴキブリだよぉ~ん。俺が一人居たら三十人居ると思えぇ~? アッヒャッヒャッヒャ!」
そう言って偽物の勇者は高らかな笑い声を上げる。
部屋中に響き渡る哄笑に、レイエルの容れ物をダメにされたネビロスは、無言でシニスターを──栄光の手を元にした罪器を掲げる。
しかし、どこからともなく飛んできた水が杖に掛かり、灯りかけた炎は消されてしまう。
「なにぃ……?」
「ナ~イス♪」
瞠目するネビロスの一方で、ライアーはいつの間にか緊縛から解放されていたアータンと細やかなハイタッチを交わす。
少女は杖を構え、その先端から水を滴らせていた。
そう、〈
「……おまえらぁ……」
──一から十までか。
自分が嵌められたことに気付いたネビロスは、その眼孔を一層暗くする。
深まる闇に宿っていたのは、ありありと浮かぶ憤怒の色。
燃え盛る激情を瞳に湛える大悪魔は、小刻みに震えながら枯れ枝のような指を鳴らした
次の瞬間、部屋の天井に吊るされていた二つの棺桶の鎖が解かれる。
「ゲッ」
『そこにあったのか』と呟く間もなく、棺桶から解き放たれた二つの人影が地面に降り立った。
一人は〈灰かぶり〉の鎧を纏った銀髪の騎士。
一人はディア教の修道服を纏った金髪の聖女。
どちらも見目麗しく、どちらも荘厳な雰囲気を携えた人間。
しかし、蒼褪めた顔色からはまるで生気を感じ取れなかった。
死人はゆらりと立ち上がり、忍び込んだ害虫へと焦点を合わせた。
「レイエルに……アニエルか」
「あの人達が……!?」
ディア教の聖騎士と聖女。
そして──ベルゴの幼馴染。
本来死んでいるはずの人間は、文字通り魔の手先と化し、ライアーとアータンを排除しようと動き始めていた。
「おまえらがどんな目的で潜り込んだかは知らんがぁ……楽に死ねると思うなよぉ……?」
いつにも増して震えた声のネビロス。
彼女はカタカタと歯と歯がかち合う不快な音色を響かせながら、血走った瞳で二人の侵入者を指さす。
「レイエルぅ……アニエルぅ……やれ──!」
「ところでネビロスさぁ~ん! このお部屋にある物ってお高いんでしょお~?」
澱みない殺意を込めた命令を飛ばす寸前、状況に似合わぬ軽薄な声色の勇者がわざとらしいセリフを放つ。
「たとえばこの本とかそこの道具とか。壊れちゃったら困っちゃう感じぃ?」
「だったらぁ……──まさか!?」
「まさかまさかもそのまさかぁー!」
ギュゥン!! と。
刹那、眩い光がライアーの掌に現れる。
彼の魔力の色をした、鮮やかな紫色の光球。
それは部屋全体を妖しげに、それでいて暴力的な光で包み込む。
「最初に俺の目的に気付けなかったネビロスさんには、このライアー様から残念賞を差し上げまーす! 準備はいーかぁー?」
「レイエルぅ! アニエルぅ!」
「自戒も込めまして、貴方にはこんな言葉をお送りいたしまーす!」
「そいつを止め──」
「──なんでも自分の思い通りに行くと思ったら大間違いだぜ」
──〈
火も、水も、風も、土も。
氷も、雷も、光も、闇も。
何の属性も宿さぬ純粋な暴の光。
儀式の祭壇を中心に、破壊の奔流が広がっていく。
本は焼け、壺は砕け。
死体を繋ぎ合わせたレイエルの容れ物も、塵に還っていく。
しばらく衝撃と轟音は続いた。
それらがようやく終わった頃、元の部屋よりも大きく球状に抉られた部屋の中には、少し魔力で焼けたネビロス達が立ち尽くしていた。
「……あ~あ」
呆然と立ち尽くすネビロス。
「──奴の罪魔法は幻術の類。とすると考えられる〈
壊れたように呟き続けるネビロス。
「だが〈虚飾〉の罪魔法は幻影の生成だったはずだ。この場に奴らの死体が残っていないことからもそれは確実。しかしそうなってくると奴がおれに見せた幻影に説明がつかなくなる」
静謐な狂気を湛えた瞳はグルグルと回り続ける。
「一つの〈罪〉で二つの罪魔法。幻影の生成と実体化。だとすると奴は──」
「ネビロス様!? この騒ぎは──いぎゃあ!!?」
真っ先に駆け付けた一体の悪魔。
だが、その頭部はネビロスの貫手に貫かれ、頭蓋の中身をぐちゃぐちゃに掻き混ぜられる。
形容しがたいうめき声を漏らして悪魔は絶命した。
遅れて駆け付けた悪魔はそれを見て心の底から恐れ戦く。
恐れるが余り、その場から一歩踏み出すことができなかった。
しかし、
「……おまえらぁ」
「は、ははぁ!?」
「ここにネズミが忍び込んだぁ」
「ネズミ? 侵入者が!?」
「見つけ次第おれの下に連れてこぃ……早くしろぉ!!」
「っ──は!!」
激高するネビロスの命令に、悪魔達は弾かれるように動き出す。
「「──」」
「……どうしたぁ? なにおまえらは突っ立ってるぅ……?」
自分を見つめるレイエルとアニエルを見て、ネビロスの双眸は歪に歪んだ。
「あのネズミをおれの前に連れてこぃ。今すぐにだぁ」
二回。
鈍い音が木霊し、二人の姿が消えた。飛天による高速移動だ。一瞬の出来事だった。
「あ~あぁ……それにしても本当にどうしてくれるんだよぉ……」
それに目も触れず、ネビロスは頭を掻き毟る。
ガリガリ、ガリガリと。
頬に血が伝うまで掻き毟るネビロスは、ビチャビチャと辺りに血を振り撒きながら──いや、むしろ頭に上った血を抜くとでも言わんばかりに振り撒き続ける。
そうして数分経った頃、ようやく天を衝く怒髪が血に濡れて垂れ下がった。
「──顔は覚えたぞぉ」
冷徹な怒りを瞳に宿したネビロスは、脳裏に焼き付いたにやけ面を思い出す。
あの鉄仮面は二度と忘れまい。
ここまで屈辱を覚えさせられたのは、生まれて初めてだった。
「虚飾の……ライアー……!!!」
影も形も残さず消えた勇者を探し、ネビロスは動き出す。
***
「……誰も居ねえな」
地下水路からこんにちは。
どうも、ライアーさんです。
この度、ベルゴとリーンと共に地下水路からやってきました。
ちなみにソドムとゴモラ、そしてペロは地下水路で待機中である。
それは何故か──主に二頭がデカ過ぎて扉から出られないのだ。
うん、薄々察していた。なので番犬は番犬らしく、元の場所でガオガオしていてくれ。
さて、色々あって地上に出た俺達だが、出てきた場所は元大聖堂の近く──人目に付かない物陰であった。
ここがシャックス達との合流場所。
そして、救出作戦の本格的なスタートだ。
見張りに見つからぬよう、罪魔法で姿を消し、細心の注意を払って合流場所を目指す。
すると、
「お、居た居た」
ものの数分でシャックスは見つかった。
忙しなさそうに貧乏ゆすりしてらぁ。
「どーも、シャックスさん。進捗どうですか?」
「うぉう!? な、なんだお前らかよ……ビビらせんな……」
「……ヘッ!」
「何得意そうにしてんだ、コラ」
「的確に目をッ!!」
驚いたシャックスを見て笑ったら、仕返しの目潰しが俺を襲った。
やめて。この世には守り切れぬ物もあるんだから。
「ぐっ……そ、それで進捗はどうだと聞いている……?」
「進捗もどうも、作戦通りあいつは引き渡したよ」
「ほほう。それから?」
「まだ何の連絡もねえが……うん?」
経過報告をするシャックス。
しかし、不意に彼の視線が何かを追った。
俺達もその視線を追うと、何やら向こう側からカサカサと草の根を掻き分けてやって来る音が聞こえてきた。
しばらく耳を澄ませていると、その音は俺達の目の前まで近づいてくる。
そして何かが俺の足元にゴツンとぶつかった途端、何もないはずの景色から一人の少女が転がり出るように生まれた。
「おぎゃあ!?」
アータン、爆誕。
爆誕アータンである!
彼女は握りしめるくすんだ赤色のマント。
そう、アータンは俺の罪器シムラクルムに包まっていた。
そんな彼女は俺達を見るや否や、にぱりと満面の笑みを咲かせる。
「ライアー! 皆!」
「おう、アータン。捕まった人達の居場所は分かったか?」
「……グッ!」
アータンはお手本のようなドヤ顔を浮かべ、サムズアップを決める。
よし──ミッションコンプリート。
救出への活路は切り拓かれた!
「偉いぞアータン! ご褒美にクッキーをお食べ!」
「えへへっ……ありがとう!」
「怖かったろうによく耐えた。よし、クッキーを食べなさい」
「わあ! ベルゴさん、ありがとうございます!」
「よしよし。たくさん撫でてやろう。クッキー食うか?」
「リーンさんも──待って。なんで皆揃ってクッキー持ってるの?」
「お前らクッキー貪りながら来たのか?」
怪訝な顔のシャックスが訊いてくる。
俺達が咄嗟に顔を逸らせば、『行楽じゃねえんだぞ!』と怒号が飛んでくる──かに思えたが、その直前にどこからともなく轟音が響き渡って来た。
「何の音だ!?」
「あっ……ライアー! そう言えば私の分身が……!」
「何かあったみたいだな。となると、俺の分身もか」
こりゃあ少し急いだ方がいいかもしれない。
「詳しい話は道すがらするとしようぜ。アータン、捕まった人達のところに案内してくれ」
「う、うん!」
無事に道のりを覚えて帰って来たアータンを先頭に、俺達の本格的な救出作戦が始まった。
しかし、爆音からも分かる通り猶予はない。
俺達は罪魔法で姿を消しつつ、人々が囚われた地下牢を目指す。
今頃ネビロスはカンカンだろうからな……ケケッ!
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