19話目 乱戦 混戦 超激戦
その瞬間、彼女を中心に眩い光の波が広りゾンビたちが瞬く間に灰となって消えていく。その光景に、邪教徒とハイゴブリンの表情が固まった。
その隙を見逃す冒険者ではなかった。ぺプシが祭壇に走り手記と小瓶、水晶を懐に素早くしまう。それに気が付いた
僅かな隙を見逃さす、瞬時に行動できた冒険者はすぐさま出口に向けて走り出した。
『うわっ....まじか。ローg.....行けゴブリン!!
「動くんじゃぁねぇぜ邪教徒ども!!! この水晶が割られたくなければなぁ!!!」
「.....アン?」
「.....えぇ?」
「テメェは、この水晶でこのゴブリンを操っているんだってなぁ!!
リベリスを渡す時、こいつはテメェを憎んでいるってわかったぜ。もしここで俺が水晶を割れば危険なのは俺とお前どっちだろうなぁ!!!」
(うへェ、なるほどナァ。確かニそう見えるダろうシ、よく見てラァ。)
(.....自分で作った設定に殺されるぅうう!!)
2人は冒険者の行動を前に後手に回り動けなくなってしまった。
カイは内心白目を剥き、ローグに至っては感心してしまったほどだ。
「ナイスよペプシ!! こっちに早く!!!」
「牽制攻撃は任せるッス!!」
「悪りぃ、助かる。このまま逃げるぞ!!」
『|ᚱᛟ-ᚵᚢᛋᚪᚾ....ᛋᛖᚾᚾᚾᛟᚢᚺᚪᛏᛟᚴᚢᚴᚪᚱᚪᚾᛖ!!《ローグさん....後で助けるから!!》』
(アイツ、もしかしテ、邪教徒がカイだって気が付いて無イ? マジで何があッタ?)
『えぇ.....?あぁ.......えっとぉ......
その瞬間、退路に急ぐ冒険者の目の前に、空気が凍りつくような気配が広がった。何もないはずの空間から、周囲の色が変わり始めゆっくりと現れたのは一人の女性。その姿に、全員が足を止めざるを得なかった。
白い蛇が絡まるようにのたうつ髪。赤い瞳が燭台の炎のように燃え上がり、見る者の心に恐怖を植え付ける。肌は大理石を思わせるほど滑らかで白く、死の冷たささえも感じさせる美しさを持つ。その身に纏う装いは、ところどころ擦り切れたゆったりとした貫頭衣の形式で、動きやすさを第一としている服のようだった。
そして、手に握られた武器――鮮血そのもののような赤く禍々しい大鎌が、鈍い光を放ちながらゆっくりと地面を擦る音を響かせる。
『
その声は冷たく低く、しかしどこか陶酔的な響きを帯びていた。冒険者たちの背筋に冷たい汗が流れる。目の前に現れたのは、この場の支配者――メドゥーサだった。
(|ᛁᚤᚪᛟᛗᚪᛖᚾᛟᚴᛟᛏᛟᛒᚪᛏᚢᚢᛄᛁᛏᛖᚾᚪᛁᛣᛟ《いや、妖魔語も魔法文明語も通じないんだよ》)
(
「くそ、囲まれたかッ。」
「邪教徒とハイゴブリンは俺が水晶で抑える。レベッカいけるか!?」
「やるしか無いでしょッ!!!」
レベッカが
しかし、メドゥーサは一歩も動かず、その場で静かに構え続けた。レベッカの
「なっ…!」
レベッカが驚愕しつつ、さらに三撃、四撃と連続で斬撃を放つが、メドゥーサはそのすべてを難なく避け続けた。その赤い瞳がわずかに笑うかのように輝き、冷たく見下す。
「|ꖇꖓꔎꔒꖁꖓꕎꕤꔐꕌ꘍ꕎꕚꔻꕇꕌꕿꖁꕪꕯꔒꕎ《その程度の技では、私には届かないわ》」
メドゥーサは一転して攻撃に転じた。髪の蛇がうごめき、その口から紫色の毒の霧が放たれる。
「くっ…毒だッ!下がれ!」
サーマルが叫ぶも、毒の霧は瞬く間に周囲を覆い尽くす。「ヴェノムブレス」の呪詛だ。レベッカはすぐさま後退するが、視界がぼやけ、呼吸が苦しくなっていく。視界端に、運がよいのかプリマの近くには霧は届かずにいるところをみて少し安心するが事態は悪い事に変わりない。
さらに、メドゥーサは静かに手を上げると、一本の指でレベッカを指さした。次の瞬間、レベッカの腕に鋭い痛みが走り、小さなひっかき傷のような痕が浮かび上がる。その傷からは黒い霧のようなものが立ち上り、彼女の力をじわじわと奪っていく。「ブラッドブランデッド」――呪いによる攻撃だ。
(殺さないように手加減するの難しいのよねぇ....。鎌もアビスカースの影響で人族には使いずらいし。少しずつ削って内側に押し込んで仕切り直しかしら。)
メドゥーサが冷笑を浮かべる。
レベッカが果敢に斬りかかっても、サーマルが援護を挟んでも、メドゥーサは大鎌を振るう事せず、軽やかにかわし続ける。毒の霧と呪いによる傷が徐々に冒険者たちを追い詰めていく。
冒険者たちの一縷の希望を覆すような、この絶望的な状況――彼女の舞うような戦闘スタイルと、容赦のない魔法の連携が、彼らの心に深い恐怖を刻んでいった。
『クハハハハァ、どうだ私のハイメドゥーサは!!さあ、小瓶と手記を返すのだ!!───あと水晶もだ!! 逃げられると思うなよ冒険者、私は妖魔を統べるものだぞ!!!』』
「クソッ、そうか2階にいたメドゥーサかッ.....!!」
「ってことは、リベリスを連れ去ったフッドもいるかもしれねぇぜ。」
「プリマさんッ、もし、あのフッドも、これだけ強ければ全滅です!!!
「....皆さん!!! 1階に上がるのは無理です。緊急脱出口を使いましょう!!!!───
サーマルが周囲を警戒しながら、矢筒を再確認し、ペプシが苦々しげに呟く。
しかし、プリマが冷静な声で言い放ち、邪教徒とハイゴブリンに神の奇跡を斯う。
『プリマ!? っく、そうはいくか!! レプティ!その
『ハ? 俺h───ギャアアアアアアアアアアアアアア!?!?!?』
『|ꔀꔀꔀꔀꔀꔀꔀꔀꔀꔀ!?"ꖗꕚꔸꕿꖒꕜꔒꖊꖕꖜ!?《ええええええええええ!? 二人とも大丈夫!?》』
ハイゴブリンは狂乱状態に陥り理性を失う凶暴化状態になったが、精神力が高いのか邪教徒には通じなかったようだ。そして、今度こそ槍を生み出し攻撃をしようとした瞬間、横槍を入れるものが居た。メドゥーサと同じく何もないはずの空間から、周囲の色が変わり始め人影が現れる。それは不気味な笑顔を被りフードで顔を隠した魔物......フッドだ。
「『
「魔動機文明語!? もしかして
「
その手に掴まれた鉤縄を、フッドは一瞬の一瞬のうちに大きく振りかぶった。 体全体を使って大きな弧を描くように、空気を切り裂く響きを伴い縄の先端が見えないほどの速さで回転を始める。
鉤縄は空中で唸りを上げ、鮮やかな光の軌跡を描き遠心力により勢いを付けた鉤縄が
「アッ.........。」
『
「え? 邪教徒が.....え?どういうことです??」
寝起きで状況が把握できてないインテゲルと同じく状況を勘違いしていたプリマが困惑の声をあげる。そして状況を把握する為レプティに声を掛けようとした───その瞬間、
「GAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!」
「何だ仲間割れか!?」
「|ᚱᛟ-ᚵᚢ? ᚾᚪᚾᛁᚵᚪᛞᛟᚢᚾᚪᛏᛏᛖᛁᚱᚢ?《ローグ? 何がどうなっている?》『
「GAGYAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」
その剛力から繰り出される大盾という鉄の塊の暴力がインテゲルを襲う。回避の術のない彼女は頭に攻撃をくらい倒れるが、背を地面に接した体制でその喉元にに反撃の弾丸を放つ。
「グッ───馬鹿力め、だが近距離でも銃は撃てるんだよッ!!! 発射ァッ!!!!!」
ローグの着ている金属鎧は物理的な防御は高く正に鉄壁と呼べる。しかし、魔動機文明時代に蛮族を地表から消した時代の象徴である銃はそんな装甲をものともせずローグの
「GOGYAAAAAAAAAAAAAA!!!!」
ローグは大盾を勢い良く振りかぶり、その鉄塊をもってかつてのディアボロカットのように頭を潰しにかかる。しかし、大盾を振りかぶる大きな隙を見逃すインテゲルではない。もう一度
そんな一瞬の攻防を好機とばかりに冒険者は壁に手を当て、何かを押し込むと、重々しい音とともに隠し扉が開いた。暗闇が広がるその先は風があり、外に続く長い通路のようだ。
「早く中に!時間が無いっス!!」
サーマルの声に急かされ、冒険者たちは次々とプリマとリベリスを先頭に、サーマル、ペプシの順に隠し扉の向こうへ飛び込み、レベッカも仲間に続こうと走る。
───その直後、廊下を震わせるような絶叫と共に足音が迫り、レプティが冒険者に迫る。
「|だあああああもう!何がどうなってるのよッ!!《ꕜꕉꕉꕉꕉꕉꖒꖕ꘎꘎ꕯꔒꕭꖁꖕꕯꔎꖩꖓꖎ꘎꘎꘎꘎!!》」
言葉は分からないが聞くものを恐怖させる恐ろしい咆哮とともにメドゥーサの髪の蛇がレベッカに喰らいつこうとする。ドワーフは四肢の短くこうした疾走する場面ではどうしても不利になってしまう。もし、レベッカ一人であったらこのまま追いつかれていただろう。───しかし、彼女には心強い仲間がいる。
レベッカの目の前、隠し扉の向こうには2階の倉庫で手に入れた杖───イフリートの髭を構えたサーマルとペプシの姿があった。メドゥーサの顔にも動揺が走る。
「「
瞬間火球がレベッカとレプティのいる箇所に着弾し、爆発を引き起こす。
創作物における爆発は往々にして過小に被害が描かれるものだが、現実の爆発はそうではない。生物が音速を超える空気の炸裂を間近でくらえば、引き起こされるのは逃れられぬ破壊なのだ。
外皮が硬かろうが、関係はない。衝撃は中の肉を弾けさせ、鼓膜や肺。内臓にもダメージが確実に入る。それが爆発というものである。
それが同時に2つも着弾したのであればレプティであってもひとたまりもない。
しかし、レベッカはドワーフ。つまり炎に愛されし種族である。炎の攻撃は一切通じないのだ。
「ありがとッ、助かった!!」
怯んだメドゥーサを背後に全速力で爆風と猛火の中を走り切り、おかげでレベッカは扉の中へと滑り込み仲間と合流した。メドゥーサも入ってこようとするが、着弾射程が長い
「よし、今は追撃の気配はねェッ!!!ずらかるぞ!!!!」
「ちょうど
「一応牽制として杖は持っておきましょう!!相手は知性が高いみたいだからハッタリに使えるはずだわ!!!」
「レベッカさん、申し訳ないですが回復は後で、今は通路を抜けましょう。」
冒険者は仲間と共に通路内を急いで進んでいく。通路は人がすれ違うのもギリギリな通路であるが、出来るだけ速足で冒険者は駆けていくのであった。
冒険者が過ぎ去った隠し扉の前でレプティは多少焦げ付いた服を払い、ため息をつく。
「はぁああああ.....やられた。イフリートの髭が取られたときにもっと対策を考えておきべきだったわね。」
しかし、これだけ住処が荒らされ自身が炎に晒されても、レプティは少し楽しそうであった。
なかなか連携の取れているパーティだ。メンバーの相性や性格も上手く共有し、各々の長所と短所を生かしている。殺す気は無いとは言え、ローグや自分の様な絶対勝てないという絶望的な実力差を示した上で、なお諦めずに最善策を模索し目的を完遂したのだ。確かにプリマのプリーストの力に大きく依存をしているであろう箇所はあった。しかし、プリマが動けない時はどうにかして仲間を生かそうとしていたし、プリマが切っ掛けを作ったとは言えそれを手にしたのは紛れもない彼女らの実力だ。
───まったく、これだからこの世は面白い。
「水晶の脅しと、
独り言を言いながら、先程の冒険者を思い返す。
それと良くも悪くも、全員自分の命を投げ捨てられる人材であった。射手が殿を務めるのに恐怖はあったが覚悟は決まっていた。戦士も近くにプリマとリベリスがいた為苦渋の決断で飲み込もうとしていたが、少し立ち位置が変われば彼女が殿を務めていただろう。拳闘士もそうだ、あのファイアボールを撃っている時、いつでもこちらに飛び掛かる用意があった。恐らく狭い通路の為、鎌が十二分には振るえず鎧もない相手なら至近戦闘の出来る自分が殿に適しているとでも思っていたのだろう。
それぞれ命を捨てる覚悟はあるが、命を背負う覚悟が無い......そんなところか。
それは射手が殿を務めると宣言をした時のそれぞれの表情から伝わった。
だが、それもきっと乗り越えれる人材だろうということはわかる。魔法文明時代、傭兵をしていた仲間と同じ顔つきをしているからだ。自分は仲間を庇い殿をしたことで今はメドゥーサとなってしまったのだが。
そうした経緯も踏まえレプティはあの冒険者を気に入ってしまったのだ。
「プリマが気に入るのも分かる子達ね.....。な~んか傭兵の頃を思い出すわ。あの時の皆にも似てたし、もしかしたら生まれ変わりだったり?────流石にないか。」
さて、とはいえ手記と小瓶は取り返さなくてはならない。
その為にもレプティは苦笑を浮かべつつ死屍累々な今の仲間を起こすのだった。
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