18話目 悪夢の中で

地下空間、4人の妖魔と1人のルーンフォークがそこにはいた。見張り砦に元々あった地下室を拡張し、寝室や非常用脱出口を築いてあり、それなりに広い空間となっている。ルーンフォークの少女は穏やかな寝息を立てており、血だらけの服をレプティが脱がせて綺麗な服へと着替えさせている。一方で、深くフードを被り笑顔の仮面を付けたフッドのインテゲルは壁に寄りかかり、座ったまま微妙に船を漕いでいる。どうやら疲労が限界に達しているらしい。そのため、カイ、レプティ、ローグの3人が膝を突き合わせて議論をしていた。


「プリマが冒険者を引き連れて攻め込んできた......ねぇ?」


「少なくとモ、俺に狂乱バニッシュは唱えて来やがッタゼ?」


「下から戦闘音とローグの悲鳴が聞こえたから何かと思ってレプティと屋上から精霊飛行ウイングフライヤーで降りてここに避難したけど.....まさかプリマとは、やるねぇ。」


「何ガ やるねェダ。」


「カイ、プリマと同行している冒険者の目的って探れる?」


「朝飯前ってね。操、第六階位の糸-人形、ザズ・ジスト・ニ・トカ-アネール支配、強化--律動サイタラ・ディッグ--マルトディーラ。───リモート・ドール。」


暗い部屋の隅に置かれていた、埃をかぶった古びた30cmほどの人形がムクリと動き出す。その姿はまるで悪夢から引きずり出されたかのように不気味で、関節がギシギシと軋んでいるかのようであったが、魔法が完全にかかったのか子供と遜色ない動きをする。


同時にカイの身体がバタンと音を立てて床に倒れた。そして人形がカイの声で話し始めた。


「よし、ちゃんと視覚と聴覚は写せているね。今のファミリアはカラスだから屋内に入れるのも不自然だしこの姿で近づいてみるよ。」


「お~う、頼むわァ。動きを見てモ、熟練冒険者って感じじゃぁ無かっッたガ、

意外に勘が良い奴らダ。バレねェ様にナ。」


「ふ~ん、期待の新米冒険者って感じかしら。多分前にプリマが羊牧場を防衛した子だとは思うけど。」


「その辺も探ってくるよ。僕の身体守っておいてね~~。」


人形がそう言い残し、1階の光の中へと消えていった。






そうして30分ほどたったのち、カイの身体がビクンと跳ね大声を上げる。


「ギャアアアアアアアアアア!?!?!?」


「うわっ、びっくりした。どうしたの?」


「痛タタタ。ファミリアがやられて人形も壊された。」


「あら~、背中に穴が空いて血が出ちゃってるじゃない。インテゲル......は起きなさそうだしローグ、ポーションを使ってあげなさい。」


「ケケケ、だから勘がいいって言っタロ?ほれ背中向けろ、ポーションかけるぞ。」


「あぁ~~、痛みが引いていくぅう。やっぱり即効性って大事だねぇ。」


レプティが冷静に指示を出し、ローグは笑いながら近づき、ポーションを取り出した。野伏レンジャーに通じてるローグは、ポーションをいかに効率的に使えるかを知っており、最大限の回復でカイの傷を治す。痛みが引き傷が治ったカイは力の抜けた声で息を吐き出し、再び横たわる。


「喋れるのなら、情報回してもらえる?」


レプティが情報を急かすと、カイは慌てて声を張り上げた。


「あ、そうだそうだ! 多分直ぐに冒険者が地下室にリべリスを救出しに来るよ!」


「「なんだって??」」






その後、2階,3階,屋上と順々に何があったかを伝えるカイだが、その内容にレプティとローグは驚愕した。


「ハァ?ここが、上位蛮族が周囲の蛮族を引き寄せて街を襲撃するための補給基地ダァ?」


「うん、妖魔の拠点にしては綺麗すぎるしアルムとローグが強いからって。あと、消耗品アイテムも結構取られちゃった。イフリートの髭とかポーションはともかく魔符や5点以上の魔晶石は痛いね。」


「私の3ヶ月の努力の結晶の【禁忌の王】骸骨の模型を最強生物って.....わかってるじゃない。」


「どっちかというと、えぇ....なにこれぇって反応が多かった気がするけど。それと、レプティの手記も情報があるかもとギルドに提出するみたい。」


「それただのポエム集なんだけど!? そんなのギルドに提出でもされようものなら私一生の恥よ!?!?」


「そんなものよりもやばいのがあってさ。」

「そんなことよりも!?」


「3階で作ってた妖魔を誘き寄せる薬の原薬が取られたのが問題だよ! 本来はあれを100倍に希釈して使うものなのにもしも不用意に開けたら.....。」


「ここら一帯の妖魔がこゾって押し寄せる訳カ。」


「何でもっと厳重に保管しなかったのよ!?」


「こんなこと予想できるわけないじゃん!!」


「それはそう!!!」





「デ? 結局何でリベリスを狙ってるンダ?」


「インテゲルがリべリスを担いで入るところを見られたみたい。プリマの世話してる子供だからって。」


「アルムやローグに出会った上で覚悟を決めて進んでいるなら中々肝の据わった子達ね。」


「俺ラは邪神に供物を捧げる信者カヨ。」



レプティが顎に手を当てながら考え込む。

「───それ、いいわね。」


「あン?何ガ?」


「黒幕を作り上げましょう。実際には存在しない、架空の邪教徒ってやつを。

そいつに全部責任吹っ掛けて冒険者には頑張ってリベリスを連れだして貰いこの砦の事件は終わったって錯覚させるの。」


「はは~~ん、都合の良いシナリオを作ってしまうわけね。いいじゃん面白そう。」


「こノ砦はもう来る意味なイナって思わせるノカ。だガ、手記と薬はどうするんダヨ。」


「邪教徒がリべリスとその二つの交換だって言えばいいわ。で、適当に戦闘して冒険者が勝つまでに、薬と手記は確保すればいい話よ。」


「マ、妖魔の交渉は無駄なのハ冒険者なら知ってるしナァ。邪教徒ならいけるかモナ。」


「じゃぁ、邪教徒の役は僕かな?変装魔法で僕らが黒幕になりきれば、冒険者たちは勘違いしてくれるさ。適当な戦闘も即席不死者インスタント・アンデッドでどうにかなりそうだし。」


「ただ、ローグとアルムはどうしようかしら。明らかに変な強者ってのはばれてるし。」


「黒幕ではなくなっちゃうかもだけど、ドレイク辺りから騙して奪ったとか?

幸い、金属鎧を全身に着て露出が少ないし、ハイゴブリンとかの設定ならいけそう。強さも大体同じだし。」


「あんなカスで考える脳もない糞つまらないゴミクズのドグサレスカタン野郎と同じにすンナ。俺ァ嫌ダゾ。」


「流れるように罵倒するわね。まぁ、ハイゴブリンはドレイクの言うことしか聞かないし、その技術をまねようとしたでいいんじゃない?」


「なら、何かマジックアイテムで操るとかの設定にして弱点を生み出せるね。よし、それでいこう。冒険者もそろそろ降りてくるはずだからね。」


「私はいい感じに祭壇を作っておくわ。ローグは地下室の鍵を閉めて時間稼ぎして来て。あ、魔法の施錠はしないでね、冒険者が来れなくなるかもだから。」


「気が乗らネェ.....。ハァ、プリマめ面倒事を持って来やガッテ。」


「面倒事とハプニングをいかに楽しむのかが、幸せに生きるコツよローグ。」



「にひひ、あの矢は痛かったし、悪感バッド・イメージ転音リプレイス・サウンドで驚かせちゃおう。不死者アンデッドの登場も凝ったやつにして~~♪」


「ほら、あんな感じで。」


「へぃへィ。」






妖魔たちの計画は動き出し、〔架空黒幕敗北大作戦〕という筋書きは、次第に具体性を帯びて形をなしていた。作業を始めて10分後、最後の計画を確認し合う為、レプティは手を叩き二人を呼ぶ。


「よし、では最後に私達と冒険者の目標、考えを確認しましょう。」


魔法の準備を終えたカイとゾンビ作成の素材を地面に埋め終わったローグは頷き、簡単に目標をまとめる。


「冒険者の目標はリベリスの救出と、この砦の情報を持ち帰る事みたいだね。

返り血浴びて眠っているリベリスが、インテゲルに担がれてこの砦に入る所を目撃。その後、アルムやローグ、ある程度綺麗にしてた部屋やアイテムが充実した倉庫、僕の実験室の薬品の効果を知ったことで上位蛮族が街に攻め込む補給基地って思われてるって感じかな。」


「だナァ、俺らは、冒険者ギルドにこの砦が危険と思わせ無イ・手記と薬品の回収

カ。冒険者ギルドにここが危険と共有されれバ、引切り無しに冒険者が来るしこの砦を放棄せざるえねェしナァ。」


「私達が作り出す黒幕の策略シナリオは、邪教徒がドレイクを罠などで殺害し、ハイゴブリンの製造方法を入手。更に手ごまを増やす為、薬で蛮族を引き寄せ更に実験を重ね大群を作り街に攻め込むって感じね。」


「冒険者にはローグが強すぎるから、ハイゴブリンは適当な水晶で操って、壊れると暴走するって弱点を加えよう。ゾンビ2体なら苦戦しつつ矢で水晶も壊してくれるでしょ。そしてハイゴブリンに邪教徒は殺され、暴走。その隙にリベリスを連れて脱出して貰えばいい感じじゃない?」


「そうすれば、薬と手記は戦闘前にリベリスと交換する感じにしましょう。それでやられればいい感じに邪教徒が単独犯で自業自得で死ぬってなり、事件は終わるんじゃないかしら。」


「その間、レプティとインテゲルは僕の秘伝魔法、風景同化カメレオンで隠れて貰うよ。『遺、第一階位の幻ペルダー・ヴァルド・ラ・ガズ変化・幻惑ーー同化フォーシェイフ・モルガナーーメズラ。』──これで気づかれないはず。重さ、物音、臭いは変化しないし、激しく動くと術が解けるから気を付けてね。」


そうカイが呪文を唱えると、レプティとインテゲルは体色を変え周囲に同化するカメレオンのごとく他人から見えなくなる。そして、先ほどまでレプティが居た個所から声がする。


「これ便利よね~。真言魔法ソーサラー透過コンシール・セルフと違って他人に使えるもの。」


「ふふん、今の人々では失われた魔法さ。さて、僕も邪教徒に変装して、冒険者に張り切って敗北しようか!!!」


「何でテンション高ェんだコイツ.....。」


「さて、これでいきましょう。冒険者たちが来るのも、もう時間の問題よ。」


カイは不敵な笑みを浮かべ、最後の呪文の準備に取り掛かる。その背後で、レプティが祭壇に水晶とリベリスを運び、ローグは加湿器を入れる。不気味な模様を描く石板が闇の中に浮かび上がり、そこに置かれた道具が黒い光を帯びて鈍く輝いていた。


その時、ガチャリという音と共に砦の地下室へと冒険者たちが足を踏み入れた。












「ここが地下室……空気が湿っぽくて、何か嫌な感じがするわね。」


暗い空間に足を踏み入れた冒険者たちは、無意識に武器を握る手に力を込めた。湿気を含んだ空気が肌にまとわりつき、獣の腸の中の様な不快感が身を包む。


奥へと進むと、地下室はやはり不自然なほど整然としていることに気付く。壁際にはそれなりに寝心地が良さそうな布団が整然と並び、安い宿の寝室を思わせる雰囲気がある。布で簡易的に仕切られた区画もいくつかあり、生活感さえ漂っている。だが、そうした物理的な整然さとは裏腹に、空気が重く淀み、得体の知れない嫌悪感が全身を覆うようだった。


「何だこの雰囲気の悪さ……親父の部屋の前の廊下みてぇな感じだ。」


「どれだけ最悪だったんスかペプシの父親は。」


ペプシが呟き、サーマルも軽口を叩いてみるがこの不安感は何も変わらない。湿り気を含んだ重い空気に加え、見えない何かが心に直接圧力をかけてくるようだ。


さらに奥へと進むと、その違和感は一層濃くなった。壁に刻まれた古びた紋様が、不気味な模様を浮かび上がらせ、影がまるで生き物のように蠢いている。どこからともなく低く唸るような音が聞こえ、その音が冒険者たちの心にじわじわと恐怖を染み込ませていく。


『なぜ裏切った……。』


『なぜ、冒険者と共に行動している……。』


『返せ……返せ……。』


『痛かったぞ……。』


どうやら妖魔語のようで、声の意味が唯一理解できたプリマは、全身が硬直した。その言葉の一つ一つが、彼女の胸に冷たい針のように突き刺さる。声の主の姿は見えないが、その存在感が地下室全体を覆っているかのようだった。


「プリマ、大丈夫?」


レベッカが声をかけたが、プリマはまるで応答しない。代わりに、その顔は蒼白になり、つま先立ちして崖の先に立っているような不安定さが全身から滲み出ていた。


心の中に広がる影が、雨雲のように大きく膨らんでいく。質量を持たないはずの感情が、肉体に影響を及ぼし始めていた。冷たい汗が額を伝い、指先が震え、足元の感覚が遠のいていく。


「……もう駄目……怖い……。」


彼女の声が震える中、暗闇の奥から新たな存在感が姿を現した。それは赤黒い悪趣味で豪華な法衣を羽織り、喰種グールのような生気のない白い肌の邪教徒であった。邪教徒の隣には、全身を金属鎧で覆ったゴブリンが立っていた。見るからに異様な威圧感を放つそのゴブリンは、重斧ヘビーアックスと大盾を手にして冒険者たちを睨みつけている。プリマがいなければ全滅していたであろう強敵だったその存在を目の当たりにし、冒険者たちの中に走る緊張が一層強まる


『よく来たな、冒険者たちよ……。』


その声は小人グラスランナー兎人タビットのような少し高い声であった。

だが、見た目に会わない高い声が一層不気味であり、まるで地下室全体がその声で満たされたかのようだった。

冒険者たちは一斉に武器を構えた。その視線の先、邪教徒の装束を纏った存在が微動だにせず彼らを睨みつけていた。だが、その場に立つだけで、彼らの恐怖心は否応なしに膨れ上がっていく。


「誰?誰ですこの人? ねぇ、怖いですぅッ!!」


「プリマさん、落ち着いて下さい! あの大盾ゴブリンが居る以上あなたが頼りです。」


『まぁ、落ち着け冒険者。私は寛大ゆえ、そなたらがこの砦から奪った手記と薄紅色の液体の入った小瓶を渡し、以後この砦の事を公言しないのであれば無事に返してやろう。』


「そんな言葉を信じるとでも思ってんスか?」


「狂人の戯言なんて信用出来るわけねぇだろが!」


男子2人が威勢よく答えたが、その声には若干の揺らぎがあった。



『この条件を飲むのであれば、あの娘も渡してやる。』


邪教徒はゆっくりと祭壇を指差した。その祭壇は赤黒い液体をぶちまけたかのような色で染まり、その上には綺麗な服に身を包んだ一人の少女が横たわっていた。彼女は意識がないようで、全く動かない。


「くっ、リベリスちゃん……!」


冒険者たちの中に緊張が走る。その場の誰もが次の行動を躊躇っている中、邪教徒の不気味な笑みが一層濃くなった。


『これ以上ない提案だろう!何を迷っているのかね? いいだろう3分だけ待ってやろう!!』


邪教徒が上機嫌に変な舞をする中、サーマルはレベッカに目配せをするが、レベッカはプリマの顔をちらりと見て苦々しい顔をする。ペプシも二人のその様子に拳を強く握り、奥歯を噛んだ。


「わかった。その提案を飲むわ。でも先にリベリスを渡して。でないと、この小瓶を叩き割り手記を引き破るわ。」


『ふむ、よいだろう。いけ、少女を丁寧に運ぶのだ。──行けと命じているのだ。』


「ᛏᛖᛗᛖᛖᛚᛖ.....」


邪教徒はそう言い、ゴブリンを無遠慮にべしべしと叩く。ゴブリンは額に青筋を張り、射殺さんとする程の眼力で邪教徒を睨むが、反発することなくリベリスを抱きかかえ冒険者の前まで運ぶ。そして、小瓶と手記をひったくるように奪うとズカズカと戻り祭壇に置いた。


「ローグさん、ごめん、ごめんなさい.....。」


プリマは錯乱しているのか目に涙を浮かべながら誰かに謝っている。何かしらの精神属性魔術にかかっていると思うほど地下に入ってから情緒がおかしくなっている。

───動悸、発汗、呼吸困難、喉のつまり、手の震え.....これは、心的外傷トラウマ


邪教徒は、そんなプリマの様子に対し、不可解な顔を一瞬だけすると、口元に薄く笑みを浮かべ、わざとらしく両手を広げて見せる。


『ぼk.....私はな、ドレイクを罠に嵌め、ゴブリンをハイゴブリンにする製作の技術を奪うことが出来たのだよ。あの薬でここらのゴブリンを誘き寄せ捕獲し、ハイゴブリンの集団を作って街に攻め込むのだニハハハハ!!』


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい.....」


『.....あぁ~......だがまだ完全とは言えずあの祭壇にある大きな水晶を媒介にいして操っているが、実験を重ねればあんな水晶もなく操ってみせよう!!クハハハハ!!!!』


「プリマさん....レベッカ、お前は筋力があるんだ、何かあったら2人を抱えてペプシと逃げろ。俺は時間稼ぎをする。」


「.....っ!! それって.....」


「何、俺一人で倒せるかもしれないしな。.......ペプシさん、3人を頼みます。」


(オイ、演技増長グレムリン。何かプリマおかしくネ?冒険者も全然向かって来ないどころか撤退の準備してルゾ? あと、あとで覚えとケヨ?)


(アッレ~~? おかしいな?屋上では攻め込む気満々のはずだったのに。)


(悪感バッド・イメージ転音リプレイス・サウンドが効き過ぎたんじゃねェのカ?)


(どっちも演出以上の効果はないはずだよ? 何か思い詰めてる??? こうなったらちょっと不自然だけどこのまま戦闘して負けよう!!)


『クハハハハ!お前らを逃がすと言ったな! あれは嘘だ!! さあ、ゾンビよ甦れ!!』


邪教徒の叫びと同時に、地面から黒い煙のような瘴気が漂い始めた。冒険者たちは足元に広がる異様な気配に気づき、警戒の色を強める。


「これって……!?」


サーマルが思わず声を上げる。その瞬間、瘴気の中心から地面がゴボゴボと不気味な音を立て、まるで腐った泥のように揺れ始めた。そして、泥の中から骨と腐肉が入り混じった腕が不気味に突き出てくる。


「ゾンビ……!」


レベッカが叫ぶのと同時に、地面を押しのけるようにして2体のゾンビが姿を現した。骨の見える手足、濁った眼球、口から滴り落ちる赤黒い液体。それらが不自然にギクシャクと動きながら、冒険者たちに向かって立ち上がる。


(Lv4と言えど"インテンス・コントロール"で大幅に強化して、"ダブル・インディケイト"で2体同時攻撃すればいい感じに疲労するでしょ。あとは、冒険者にあの安物の水晶を壊して貰ってローグにやられるふりをするだけだ!!)


「サーマルっ!!!.....ごめん、時間を稼いで。」


 「ああ。時間を稼ぐのはいいが――

  別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?」


「かっこつけやがってッ........!!」



『ククク、麗しい友情だ。だが、助けなくてもよいのか?私にはハイゴブリンもいる。全員でかかって来る方がよいと思うなぁ!全員で!!!」


「プリマさん!!お願い、正気を取り戻して。」


『そうだ、40秒で戦闘の準備をしな!! あ~……その友情ごと地に沈めてやろー!!』


邪教徒の声が不気味に響く中、ゾンビたちが濁った眼球を冒険者たちに向け、ゆっくりと歩みを進めてきた。その異様な姿に、地下空間の空気がより一層重く冷たくなる。


「くそ、来るぞ……!」

サーマルが弓を構る。しかし、その緊張の中、プリマはまだ混乱したまま動けずにいた。


「お願い、プリマさん!」

レベッカの声が響く。しかし、プリマはリベリスを抱えたまま震えるだけだった。


「わたし……わたしのせいで……ごめんなさい……みんなごめんなさい……」

彼女の呟きは次第に弱くなり、涙がその頬を濡らしていた。


「プリマさん、大丈夫です。俺たちはまだここにいるぜ!」

ペプシが叫ぶ。彼の声はまるで、深い霧の中に一筋の光を投げかけるようだった。


「そうだ、私たちがいる。怖くないよ!」

レベッカも力強く言葉を重ねる。ペプシは無言で頷きながら盾を前に構え、ゾンビにじりじりと近づく。


その声が、プリマの胸の中でわずかながら灯をともした。


「……わたし……まだ……できる……」

プリマの震える声が静かに空間を切り裂いた。彼女は目を閉じ、震える手で胸元の聖印に触れる。


『おやおや、そんなもので何ができるというのだ?』

邪教徒の嬉しそうな声色が響く。だが、彼女の中にはもう迷いはなかった。


「聖なる力よ……わたしに力を……」

プリマが聖印を掲げると、その周囲にほのかな黄金の光が漂い始めた。その光は次第に強さを増し、地下空間の闇を切り裂くように広がっていく。


「これが……わたしの力……!」

彼女の声が震えから確信へと変わる。


塵滅イクソシズム───!」


その瞬間、彼女を中心に眩い光の波が広がった。光がゾンビたちを覆うと、不気味なうめき声を上げながら彼らの体が崩れ、瞬く間に灰となって消えていく。その光景に、邪教徒とゴブリンの表情が固まった。


((滅ぼしやがったああああああああああああああああああああ!?!?))

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