En Déplacement
怖いというより、訳の分かんない話なんだけど。…そういうのでもいい?
私が小学生ぐらいの頃の話なんだけどさ、友達にJちゃんって子がいたわけ。めっちゃオシャレでかわいい子で、すっごい仲良くてね。
小学生の頃ってさ、「休みの日も遊ぶ友達」って限られるというか、もうそこまで行くと相当仲良いって感じ、あるじゃん。Jちゃんはもう、まさにそれ。しかも”遊びに行く”っていうのも、バスに行って隣町行くとか、そのレベルなわけ。だからもう大親友だよね。
今は連絡取れてないんだけどさ。元気なのかなあ。
んで、Jちゃん引越しちゃったんだよね。小学五年の時かな。連絡取れなくなっちゃったきっかけでもあるんだけど。
泣いたね~。最初にJちゃんから「引越さなきゃいけない」って言われたとき、いやだ~!ってマジ泣きしたの覚えてる。
その話を聞いてからはそれまで以上に一緒に遊ぶようになったんだけど、引っ越しの日が近づくにつれて、帰り道に一人になったときに完全にブルーになってねえ。あんまり本人の前で泣くと心配かけちゃう!って子供心に思ってさ、本人の前では泣かないようにして、帰り道に一人でさめざめと泣きながら帰ったこともあるよ。
…まあここまでだと…自分で言うのもなんだけど、普通に良い話じゃん?
最後の最後で、本当に意味わかんないことがあったんだよね。
いよいよJちゃんが引越す、って日の事なんだけど…まあ当然、見送りに行くよね。もうこれでJちゃんと遊べなくなるんだ、ってもう頭の中グチャグチャになりながら行くわけよ、Jちゃんの家に。
そしたらさ、家が違うんだよね。
…本当に家が違うんだよ。
これすごい良く覚えてるんだけど、Jちゃんの家の三軒隣ぐらいに誰も住んでない空き家があったの。ドアに「お問い合わせはナントカ不動産まで」って看板が張ってあって、子供でも一瞬で(あ、ここ誰も住んでないんだ)って分かる家。
なんでかわかんないんだけど、引っ越し当日だけ、Jちゃんの家がそこになってた。
でも、絶対おかしいんだよ。だってさ、本当にほんの三日前とか二日前もJちゃんの家で遊んでるんだよ?
私はJちゃんのご両親にも、まあ、なんていうか…だいぶ顔が効いてたから、引っ越し前っていう何かとバタバタしてる時でもよく家に上がらせてもらってたんだよね。
Jちゃんと私とで、Jちゃんのお母さんがやってた家の掃除を手伝って、お手伝いのお礼!つってお菓子食べさせて貰ったり、「この人形は本当に大切なものだから、引っ越し屋さんには頼まないで自分で持ってくんだ」なんて話を、家具が少なくなってスカスカになった家の中でJちゃんから聞いて、めちゃくちゃセンチな気持ちになったりとかしてるわけ。
で、引っ越し当日になったら、Jちゃんの家が全然別の場所に移動してて。もう意味わかんないよ。
引越す一日前にわざわざ家を変えるとか絶対有り得ないしさ。しかもたった三軒隣に。
いやあ…訊けなかったねえ。
引っ越しって…さっきのJちゃんの大切な人形じゃないけどさ、最後の最後まで使う最低限の寝具とか、あと貴重品とかは引っ越し業者には頼まないで車で運ぶことがあるじゃん。そういう”最後の荷物”を、Jちゃんの両親が例の家から普通に運び出してんの。ちょっとした食器とか布団とか…いかにも、長年住み慣れた家から最後に運び出してます、って感じで運んでるわけ。で、そういう運ばれてる家具類、私は三日前とかにJちゃん家で見かけてるんだよね。
それ見ちゃったらもう、「あれ?ここ違う家じゃないですか?」とか訊けないよ。そもそも、引っ越し寸前ってタイミングがタイミングだし。
勿論その瞬間はJちゃんと会えなくなる寂しさのが勝ってたから、号泣しながら別れを惜しんだんだけど、Jちゃん一家の乗った車が見えなくなったところで我に返ってさ。
やっぱり何度確認しても、その家って三日前ぐらいには絶対に空き家だったんだよ。
そこで、(あ、じゃあ私の覚えてる方のJちゃん家がどうなってるのか見に行けばいいんだ)ってなって、行ってみたわけ。
そしたら、私の記憶通りのJちゃんの家…だった家はそのままそこにあったんだけど、家じゅうの全部の窓のカーテンが閉まってて、家の中が全く見えないようになってたの。
で、そのカーテンの柄が、明らかに私がJちゃん家に遊びに行った時に見てた柄だったんだよね。
それ見た瞬間なんか…Jちゃんと別れた寂しさが吹っ飛ぶぐらいに怖くなっちゃって、うわー!ってめちゃくちゃ走って帰って。
さっきも言ったけど、携帯とかもない時代だから、Jちゃんとはそれっきり会えてないんだよね。
何度か手紙のやりとりはしたよ。だけど、今度は中学の時に私が引越すことになって…一応、引っ越し先の住所からも手紙送ったんだけどさ。
高校生の頃には自然と手紙のやりとりもなくなっちゃったね。そこはもう…多感な時期の、感性と人間関係の変わり目というか。
だからJちゃんが今どうしてるかは…本当に、全然わからない。
まあ、あれはどういうことだったのかって本人に聞いてみたい気持ちはあるけど…でも、連絡取れなくなったからJちゃん本人に確認が取れない、ってのはある意味では幸せかもね。
だってさ~、これ本人に聞いて「いや、私ずっとあの家に住んでたよ?何言ってんの?」なんて返って来たら怖すぎるでしょ!万が一なんか理由があって最後一日だけ家を変えてたとしても、それが気まずい理由だったらめっちゃ嫌だしさ。
それにJちゃんとの思い出は「良い思い出」のままで取っておきたいじゃん。だからこれ、「あれは何だったんだろうなあ…」ぐらいに思ってるのが丁度いいんだ、と思うね。
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