Expérience
霊感テスト、って知ってます?
そうです、あの有名なやつ。目を瞑って、自分の家の中に入る想像をして、ドアや窓を開けていって、っていう…それで家の中に知らない人がいたら、霊感あるよ、みたいな。
あれを僕も…高校生ぐらいのときにやったことがあって。
高校の頃に仲が良かったクラスメイトのYとFって奴らがいて、いつも僕と、その二人の…三人で遊んでたんですよ。
二年の夏休みのときに、Fの家に遊びに行ったんです。無目的に集まったもんだから、会話もそんなになくて。だらだらゲームしたり漫画読んだりして。
それで…ちょうどYが持ってきてた雑誌が「怖い話」特集だったんです。いま思えば学生向けの雑誌らしい、安い内容だったんですけどね。口裂け女がどうとか、怪人アンサーがどうとか…そういう有名な都市伝説と、あと読者投稿の薄い体験談が載ってるだけの、まあよくある作りで。
それきっかけで、知ってる怖い話を言う流れになったんです。
でもみんな別にオカルトとか詳しい訳じゃなかったから、大したことのない、有名な話しか出て来なくて。だから本格的に怪談を話すというよりかは、なんか子供の頃にこういう噂あったよね…って感じの懐かし話の方がメインでした。俺の通ってた学校にも花子さん出るって噂あったよ~、みたいな。
その時に、Fが「そういえば霊感テストってあったよな」って言い出して。
ちょうど漫画にもゲームにも飽き始めていた時だったんで、やってみっか!って流れになったんです。
順番に目を瞑って、家の中を想像して。最初がFだったかな?あんまそこはよく覚えてないんですけど。僕が一番最後だったのは確実です。
めっちゃ覚えてるのは、Yが終わったあとにどうだった?って訊いたら「マジ無人!」って返して来て。リズム感とかYの言い方も相俟ってみんな妙にツボっちゃって、それから「マジ無人!」が仲間内での流行語になったんですよ。
「マジ無人」、未だに三人でLINEとかでやり取りしてるときに使いますからね。
それで僕の番になって。
まず目を瞑って風景を想像したら…目の前にあったのが通学路にあった、おばあちゃんが一人でやってる駄菓子屋だったんです。家からは数十メートルぐらい離れた位置にあったんじゃないかな。Kってお店だったので、「Kバアの店」って呼んでたんですけど。
「あのね、いまKバアの店の前!」
「いや遠いだろ!」
みたいな感じで二人にツッコまれつつ、Kバアの店の前を真っ直ぐ進んで、角を曲がって、すると僕の住んでる家が見えてくるはずなんですけど。
僕の家があるはずの場所に、全く見覚えのない家が建ってたんです。
…ものすごく古い家でした。なんて言うのかな。ちょっと昔の…モノクロの映画に出てくるような日本家屋でしたね。
もうその瞬間、めちゃくちゃ混乱して…だってこれ僕が頭の中で想像してることじゃないですか。だから本来、僕が知っている範疇のものごとしか起こらないはずなんですよ。
でもいま、確かに、明らかに、頭の中に見たことのない家が思い浮かんでいる。
訳の分からないことが起こったせいで、完全にパニックになっちゃって…反射的に目を開けたんです。それで
「ヤバいヤバい!」
って絶叫して。最初はFもYも僕がふざけてると思ってたらしいんだけど、なんかパニックでだんだん汗かいてきて、それ見て二人も”ふざけ”じゃないって気が付いたらしくて、Yが僕の肩を掴んで
「おい!落ち着け!どうした!」
って言ってくれて、Yも部屋にあった麦茶を飲ませてくれて…やっと落ち着いたんですけど。
落ち着いてから今あったことを話したら、FもYもすごい怖がっちゃって。
「なんかヤバいからお祓いとか行ったら?」
「いや、お祓いとかなの?これ」
みたいな話になって、場の空気もなんか変になっちゃって…その日は解散になりました。
で、時期がかなり飛ぶんですけど。
大学二年のときに実家を建て替えることになったんです。
僕はもう一人暮らしをしてたんですけど、県内の大学に通ってたんで、普通に実家が電車で三十分ぐらいの距離でそんな遠くなかったんですよ。
それにちょうど夏休み期間ってのもあったんで、気が向いた時に実家に行って片付けを手伝ってたんです。手伝ったら毎回お駄賃とか食べ物とか貰えましたしね。
それで何回目か…片付けがけっこう佳境に入ってた頃に手伝いに行った時なんですけど。
その日は祖父の部屋の片付けを手伝ったんですね。
祖父は八十代になった今でも、毎日ひとりで散歩に出かけるぐらいには矍鑠としているお爺ちゃんなので、部屋の片付けもほとんど一人で済ませちゃってて。ただ天袋とか、箪笥の上とかの高い所にあるものを下ろすのは流石に難しいってことで、そういう作業を主にやっていました。
押し入れの上の天袋から家電の箱とか、古い本とか、そういう荷物を下ろして空にしたら、奥の方に何か…紙みたいなものが落ちてるのが見えて。
何これ、って思ったんですけど、その時たまたま祖父がトイレかなんかに行ってていなかったんです。じゃあ、ひとまず取り出しておいて、お爺ちゃんが帰ってきたら「これ何?」って聞けばいいか、ただのゴミだったら捨てればいいし…って思いながら手を伸ばして、取って、見てみたんです。
写真でした。
ものすごく古い、変色してカビの生えた白黒写真。
…写ってたのが、高校のときにFの家で「心霊テスト」をやったときに頭に思い浮かんだ、あの古い日本家屋だったんですよ。
あと、家の前に人が立っていました。
昔の写真だからなのか、それとも撮り方が悪かったのかはわからないんですけど、全体的に画質がちょっとボヤッとしていて、そのせいで顔はよく見えませんでした。
ただ、体格からして男の人だった…と思います。
それ見た瞬間に、ものすごい…なんて言うんですかね…戦慄というか…怖気みたいなものが、ぶわぁっ!て体を駆け巡る感じがあったんです。
あっ、これはあまり深追いしちゃいけないやつだ、って直感的に思って。
それで、床に積まれた沢山の本の中から、一冊を無造作に選んで引き抜いて、バッと適当なところで開いて、そこに写真を挟み込んで、そのまま本の山の中に戻したんです。なんかこの写真のことを家族に話してはならないし、見つかってもダメ、かといって捨ててもいけない…って思ったんですよ。そしたら反射的にそうやって…本の中に隠してたんですけど。
でも、なんであんな反射的に「本の中に挟んで隠す」って判断を取れたのかは、今でもわからない。
その日はもう写真のことで頭がいっぱいになっちゃったので、そのあとどういう風に一日を過ごしたのか、あんまり覚えてないです。
結局、家を建て替えてからは実家を何となく避けるようになっちゃって、あまり実家には帰ってないんですよね。
別に家族仲が悪いってことではないんですけど、やっぱり写真のことがすごい引っかかるようになっちゃって、心境的にそんな頻繁に帰れる感じではなくなっちゃって。
…おじいちゃん、あの写真見たのかなあ。
一回ぐらい訊いてみてもいいのかなあ…。
いや、たぶん訊かない方が良い…ですよねえ。
…高橋さんもそう思いますよね?
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