Rassembler

 数年前に働いてたバイト先で、Mって奴と仲良くなって。

 けっこうチャラいやつなんですけど、俺にもちょっとチャラマインドがあるというか。だから自然と馬が合って、休みの日も遊ぶようになったんですよ。

 その流れで自然とMが普段から一緒に遊んでる友達もいろいろ紹介してもらって、今もその面子とよく遊んでるんですけど。


 あれは二年前ぐらいだったかなあ。

 八月の終わりぐらいに、いつも遊んでるメンバーの中のFっていう奴の家で、俺とMと家主のF、あとちょっと先輩格みたいな感じのSさんって人の四人で飲んでたんです。

 なんか…夏の終わりに思い出作りてえな、って話をずっとしてたんですよね。最初は今度どっか遊びに行くか、みたいな普通の話だったんですけど、そのうちにFが

「あ、そういえば近所に心霊スポットありますよ!しかも幽霊が出ないやつ!」

 とか言い出して。

「幽霊が出ないやつってどういうこと?」

 って訊いたら、

「なんか見た目はそれなりに不気味な空き家なんですけど、行った奴みんな大したことないって言ってて。だからちょうど良いんじゃないですか?肝試しに!」

 って。

 全員酒が入ってたってのもあって、じゃあひとまず肝試しで思い出作りするか!ってノリになっちゃったんですよね。


 で、みんなで懐中電灯持って、Fの案内でぞろぞろ心霊スポットに向かって。向かってる間にFが色々と説明してくれたんですけど。


 どうも、その家で子供が亡くなるような事故があったと。それでなかなか買い手が付かない、という事実がまずあって。

 それでいて、その事実だけがなんというか…宙に浮いていて、だからあそこは心霊スポットだ!という根拠になって。

 で、起こった事実は「子供が亡くなった」という話なのに、血まみれの女が出るだの、二階からこっちを見ている男がいただの、目撃談が全部無関係な話ばかりで、適当でグチャグチャだと。だから、逆に「嘘で固めないといけないぐらい大したことないんじゃん」ってことになって、近所の不良とかが肝試しに使うようになったらしくて。

 実際、なんか変な目に遭った人ってのは、少なくともFの周囲にはいなかった。


「っていう家があって…あ、ここなんですけど」

 って、Fが場所の謂れを話しているうちに、その廃墟に着いちゃって。

 確かにこれは何年も人が住んでなさそうだなあ、って感じの、ボロッボロの家でしたね。

「うわあ~これは雰囲気あるな!」

 ってみんなで盛り上がってたら、Fが

「ここもうカギとか全然かかってないらしいんで、周りの住人に見つかる前にさっさと入っちゃいましょ!」

 って言って。実際、家の門も全然カギかかってなくて、スルッと開いたんですね。それでSさんが先頭に立って、

「じゃあ行くぞ!」

 って、こう…意気揚々と玄関のドアを開けて。


 その時…Sさんがドアを開けた瞬間に、ちょうどみんなが家の中が見えるところに立ってて。しかも、Fが持ってた懐中電灯が、たまたま玄関のドアを開けた先の、家の廊下を照らす形になってたんですよ。

 だから、その場にいた全員が、はっきりと見たんですけど。


 三、四人ぐらいの人が、廊下の両脇にあるいろんな部屋に、さっと身を隠すのが見えたんです。


 そのままの勢いでSさんがドアをパッ、と閉めて。

「…やめるか!」

 って言ったんで、みんなで無言で頷いて、中に入らずにそのまま帰りましたね。


 …結局、あれが何だったのかはわかんないんですよ。

 もしかしてFが仕込みをやって俺らを脅かそうとしていたのかな、と疑ったこともあったんですけど、それだったら速攻で帰る流れになったときにネタバラシしただろうし、それにあんな顔真っ白になるぐらいのビビり具合を演技で出来る奴じゃないよなあ、と思って。

 それに、事前に聞いていた話とは何ひとつ噛み合わないじゃないですか。あの家で死んだのは子供だけだったみたいだし、そもそもFの周りの人は全然大したことなかったって言ってたわけだし、きっとそれは嘘ではないし。


 でも…なんていうんですかね、そういう噂を立てられた場所にはなんか悪いものが集まっちゃうんじゃないかな、って素人考えで思ってて。

 …ほら、廃屋って不良のたまり場になってたりするじゃないですか。

 あれは生きている人間ですけど、それと同じで、変な噂が立ったところには何かタチの悪いものが集まって、気付かれないようにそこにいたりするんじゃないかって…想像ですけど。


 とにかく、この体験をしてから、俺らは心霊スポットとかに絶対に行かなくなりました。もう「曰くに対して変なモノが全然出ない」みたいな話も全部信用できなくなっちゃいましたしね。

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