十四話


地上をじんわりと暖めていた太陽がその姿を隠し、空が紺碧こんぺきに染まり出す頃、ひとつ、またひとつと、星がまたたきはじめた。


市街の中心部の夏祭りの会場に作られた「星おどり」の舞台は、客席に対して弓なりになった半月型をしている。そのに沿うように階段状に客席が設けられていた。


集まった数多くの観客たちは談笑しながら、この神事の始まりを待っていた。


舞台の上では、やや緑をんだ青い光を柔らかく放つ衣装に身を包んだ年若い娘たちが数名、身を寄せ合うようにして時を数えている。


不意に、歓談する観客たちの声を掻き分けるように、んだ琴の音が響いてくる。それを聴くや否や、人々はしんと静まり返った。


――「星おどり」が始まる。


すると、舞台の中央で丸く集まって屈んでいた舞姫たちが、薔薇の花弁が開いて舞い散るかのように、一人、また一人と立ち上がってはその姿を満天の星明かりの元に現した。


星の精霊のごとき少女たちは、三重の円になって並び立ち大きく腕を広げる。そして長い袖を琴の音に合わせて数回揺らした。


両手を一振りすると、片方の手からは青い星、もう片方の手からは黄色い星がこぼれ、それは彼女たちの指先に寄り添うように吊り下がる。


舞姫たちは片足を軸にし、もう片方の足の爪先を床に滑らせて一回転した。すると、両手の先から吊るされた星が弧を描き、星明かりを弾いてきらめく。


彼女たちが動く度に仄青ほのあおく裾がなびき、辺りにきらきらと光の粒が降り注いだ。


その幻想的な光景に観客たちはすっかり魅了され、舞姫たちが美しく舞う様子をただひたすら目で追っていた。


突然、琴の音が途切れる。その瞬間、舞姫たちも動きを止めた。衣擦きぬずれの音さえ響かない静寂せいじゃくが、広場を包んだ。


皆がその先を固唾かたずを飲んで見守っていると、舞台の最奥さいおうから今度は鈴の音が響いてくる。


断続的に鳴るその音に合わせて、舞姫たちはくるくると踊りながら、徐々に音のする最奥へと集まっていった。


そして舞台の入り口を隠すように並び立ったかと思うと、再び花弁を散らすかのようにふわりと舞って、音の主をあらわにする。


そこには、他の舞姫とは異なり、片手に大きな鈴をたずさえ、黄色い光を帯びた衣装を身にまとった少女が立っていた。


彼女は鈴を鳴らしながら舞台のきわまで歩み出て観客の前にやって来る。そして少女が腕を天に突き出した瞬間、鈴がふわりと宙に浮いた。


それはそのまま空高く上がっていき、やがて月と重なる位置までくると、涼やかな音を響かせて霧散むさんした。


再び琴が旋律せんりつを奏でる。舞姫たちはそれに合わせて舞い踊り、次第に動きをゆるめ、始まりの姿を繰り返すように中央に集まった。


しかし始まりとは違い、彼女たちは観客の方を向いて立つと、両のてのひらを合わせた。


すると、指先を伝っていた青と黄色の星が寄り添うように重なる。


やがて琴の音が止み、少女たちの衣装からゆっくりと光が失われていく。


そして、この空間にはまるで星明かりしか存在しないかのように、静寂が辺りを満たしていった。


かくして「星おどり」はしめやかに終演となった。


神事の終わりに際し、人々は手を合わせて祈り、誰一人として声を出すことはないのであった。

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