十三話


一方、ヴィルヘルムとわかれたヴィオラは木陰に腰掛けて火照る心身をしずめようと奮闘していた。


それというのも、あの賢者が、無自覚に色気を振り撒いてくるせいだ。


彼は気付いていないようだったが、街なかの若い女たちは皆、ヴィルヘルムを見て色めき立っていた。彼はそれほどまでに魅力的な男性なのだ。


それなのに、どういうわけかあの男は身体接触スキンシップが多すぎる。


膝枕なんてもっての他だ。うっかりだらしない顔をして見惚れてしまったではないか。


自分はれっきとした年頃の娘だ。距離感をわきまえてほしいと、ヴィオラはなんだか苛々してきた。


そもそも彼は、自分のことは妹くらいにしか思っていないのだろう。でなければこんなに頭を撫でたり密着したりなどできないはずだ。


そう思うと、彼女の胸にぼんやりと影が差す。


(――あの方が、わたくしを見てくださることはない)


アリスについて話すとき、彼はいつも愛おしそうな、切なげな目をして遠くを見ている。


そんな彼を見て、その心がどこにあるのかわからないほど、ヴィオラは鈍感ではなかった。


だから、この恋心はきっと叶わない。


けれど、それでもいいから、ヴィオラはせめて彼の役に立ちたいと、そう思ってきたのだった。


(そう、愛されなくたっていい)


熱はすっかり引いてきた。冷静になった心で、彼女は思う。


(それでも、ただ愛することはできるもの)


それは見返りを求めない、無償の思いであった。


――かつてヴィルヘルムがヴィオラを救ってくれたように。


(それはそうと――)


ヴィオラは険しい顔をして額を押さえた。


(わたくしってば、ヴィルヘルム様を置いてきてしまったわ――)

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