第2話 代表に会ってみた

車で何時間も走ってとある地方都市に着いた。

久々の都会の空気に少し緊張する。

季節はまだ梅雨の時期だったが、から梅雨で天気予報ももうすぐの梅雨明けを予告していた。

その為外気はかなり高く、街には薄着の女性が溢れていた。

(可愛い職員はいるのかな)

不純すぎる事を考えながら車を走らせる。

それから30分もすると風景が少し田舎になってきた。

『目的地周辺です。運転お疲れさまでした』

カーナビがお父さんマークIIの書いてくれた住所に着いた事を教えてくれる。

(ここかぁ)

古いアパートと一軒家が並んで建っていた。

塀や壁は無く、アパートの方に『自立支援施設 生堂』と書かれた真新しいプレートが貼り付けられていた。

何か古そうでお洒落とは程遠い施設なので、この時点で完全に美人職員は諦め、職員駐車場と書かれているアパート前に車を停めようとする。

すると一軒家の方から何人か出てきた。

リーゼントヘアーで組織の人っぽい服装のおじいさん、坊主頭で口髭の厳つい大男、金髪刈り上げ男の3人が運転席に近づく。

「君が新村さんかな?」

リーゼントヘアーのおじいさんが話しかけてきた。

「はい、しばらくよろしくお願い致します」

私が挨拶をすると金髪刈り上げ男がこっちに車停めて下さい、と誘導してくれた。

「僕がここの代表の拳田だ。よし、今日から君も絆人だね。よろしくな、新村さん」

リーゼントの組織の人っぽい服装のおじいさん、拳田さんが車から降りた私に向かって笑いながら言う。

「じゃあ今から簡単な君の業務内容を説明した後、歓迎会をやるからね」

そう言って私達は1軒屋の方に歩き出す。

「あっ、最初にこいつらの紹介をしておくね」

坊主頭が岩沖津さん。

金髪が見入板さん。

3人共外見と裏腹にとてもフレンドリーだった。



1軒屋の中にある事務所の様な所で業務内容の説明を受けた後、これから仕事中泊まる部屋に案内された。

小綺麗な6畳間だった。

畳も真新しい。

「よーし、新村さん。あなたも今日から絆人だ。よろしく」

案内してくれた岩沖津さんが笑顔で言ってくれた。

「その、きずなひと、というのは何ですか?」

ここに来てから何回か出てきた不思議ワードが気になっていたので聞いてみた。

「ん? それはね、ここ、生堂にいる人間は絆で結ばれている人間達、という意味なんだ。だから絆人なんだよ」

目をキラキラさせながら言う岩沖津さん。

あれっ、なんかブラック企業の空気がするぞ。

少し嫌な予感がした。



しかし大きな居間でおこなわれた歓迎会でその不安はかなり払拭された。

そこには職員であろうスタッフの他に、入所者であろう人達もいたのだが疲れ切った顔の人もいなければ別に怯えている様な感じの人はいなかった。

そしてホワイトボードには『歓迎 新しい絆人新村さん ようこそ生堂へ 』と色とりどりのペンで書かれていた。

テーブルにはビール、お酒、ジュース、ごちそうが所狭しと並んでいた。

「さぁ新村さん、こっちに座って」

拳田さんが私を真ん中の席に座らせた。

「みんな、今日から職員絆人になる新村さんです。全絆人は新村さんより先輩になるので色々教えてあげて下さいね」

拳田さんが紹介してくれると、

「じゃあ俺が教えてやるよ」

お調子者らしい若者が私に言う。

「おい~、良介はまずバイトが続くようになってからそう言う事言えよ」

見入板さんが言うと全員大爆笑になった。

良介、と言われた若者もおどけている。

雰囲気はとても良い感じだ。

ホッとした私。

歓迎会はとても楽しかった。

だが最後に少し不安になる出来事があった。



数時間後。

「よし、じゃあそろそろお開きです。その前に生堂歌を全員で歌いましょう。新村さんはまだ歌詞を知らないだろうから聞いていてね」

拳田さんが言うと全員立ち上がって歌った。

夢~夢~絆~男~、夢~夢~絆~男~、夢~夢~絆~夢~夢~絆~、夢~夢~絆~男~、男の夢を~追いかける~俺は男だ~胸を張る~、夢~夢~絆~、夢~夢~絆~、夢~夢~絆~男~。

女子はどうするんだよ、というようなブラック企業顔負けな演歌調のこの歌を全員で歌う絆人達。



大丈夫かなぁ、ここ。








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