第七話 メアリーの国②
「
ファンタズムという言葉は、幻想、幻影の他に、幽霊なんて意味もある。
やっぱりその本、呪われてるんじゃないか?
「私がその絵本を手に取って読むと、衝撃的なことが書いてありました。何度も読み返して内容は
『むかしむかしあるところに、一人の赤ん坊が生まれました。
その赤ん坊は、眼の場所全てが黒目になっており、夫婦は不思議に思いました。
そしてその日からでした、黒目の赤ん坊が生まれたその村で、全く日がささなくなったのは。
村はいつでも夜のようになってしまい、村人は外を出歩くのも難しくなってしまいました。
二人はこの現象を不気味に思い、村の占い師に相談することにしました。
すると、その子供の眼を見て、占い師は言いました。
「こいつは――数千年に一度現れるといわれる存在、
夫婦は、赤ん坊を殺してしまうことを考えました。
しかし、愛しい我が子を殺すことなんてできませんでした。
そのまま子供はすくすくと育ち、やがて大人になりました。
そして18歳の誕生日を迎えた朝のこと、その村は影も形も無くなり、村をずっと
ついにこの村に日が差し込めたのです。
あの赤ん坊は悪魔の使いだったのでしょうか?
村にはただ一つ、異世界のゲートだけが残されていました』
「なんだこの胸糞悪いストーリーは! 子供に読ませる気あるのか? これ」
「一人の赤ん坊が生まれたことで国の様子が一変した、まるで私のことを言っているかのようでした」
「で、お前はそのあとどうしたんだ?」
「私は、自分の眼もなにかおかしいのかもと気になり、町の病院で相談することにしました」
「さっきの全部黒目ってところか」
「分かったことは、私には
虹彩――白目と黒目の間にある、目に入る光の量を調節する場所だ。
人によって色が異なるというのは知っているが、無いというのはどういうことだ?
「それって無虹彩症というやつか? 光が
「正確には、黒目と虹彩が同一化していたというのが正しいです。私の黒目と虹彩は、全く同じ黒色で、見分けがつかなかったそうでした」
「なんだって!」
俺は慌てて彼女の眼を確認する。
本当だ、黒色と白色しかない。
一見当たり前に感じるが、先ほどの通り、人間には虹彩という、俺でいう茶色の目の場所も存在する。
モノクロな見た目に目が持っていかれて眼まで目が及ばなかった。
なんてことだ、俺は眼の研究者失格だ……。
「そんな私の症例に、他のお医者さんも集まってきて、一人がこう言ったんです――
「その医者も、あの絵本を知っていたということか」
「というより、古くから伝えられてるおとぎ話みたいなもんらしいです。今はあまり聞かなくなって、絵本を読んだ人と年配の人くらいしか知らなかったらしくて」
「お前のうわさが年寄りにまで広まったら、面倒なことになるぞ」
「どうしてそれが分かったんですか? まさに教授の言った通りです。私のうわさはどんどん広まっていき、やがて国中が私のことを知るようになりました」
「それで迫害につながると」
「私に優しくしてくれた大人たちも、目の色を変え、私を責めるようになりました。この国から出てけ――とか、殺してしまえばこの世界は元通りになる――とか」
「なまじ知識がある分、こういうときは大人の方が厄介だ。彼らは自分の考え以外に世界があることもしっている。だからこそ、自分より正しそうな相手に従ってしまう」
「私を
(「そんなことを言う人に、殺されそうになりました」)
メアリーのその言葉は、そういうことだったのか。
流石の俺でも、世界の特殊な眼をくりぬいてコレクションにするなんてことはしない。
世の中にはとんだマッドサイエンティストもいたものだ。
「そんな状況でどうしたんだ? 逃げる場所も信頼できる相手もいないのに」
「私には一つ、逃げる場所の目星がついてました」
「そんなこと言ったって、国中、下手すると世界中がメアリーの敵になってるかもしれないんだぞ」
「はい、だから私はその世界から逃げました。あの絵本の最後の一文を覚えていますか?」
『村にはただ一つ、異世界のゲートだけが残されていました』
「おい、まさか……!」
「私が行ってた図書館はとても大きなところでした。大きすぎて誰も足を踏み入れないところがあるくらいに。その一室にあったんです、扉の奥の奥、誰も行ったことのない、ほこりまみれで分かりにくい、空間が歪んでいるところが!」
彼女は続ける。
「私も昔、一度見かけたときはそこからすぐに逃げました。だけど今はそれに賭けるしかなかったんです、異世界のゲートに! 私は、それに向かって飛び込みました!!」
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