第2話

 こうして異世界生活が幕を切った。


 ノヴァから言われたのはこの世界で生きてみることだけで。

 漠然としすぎだ。


 にしても、最初にプレゼントされたオーク肉は極上だった。


 周囲を見回してオークがいないか確かめた。

 しかしあるのは大自然と、後ろにある大洞窟の入口だ。


 俺が取れる選択肢は二つある。


 魔境イニシティとの看板がある大洞窟に入ってみるか。

 それとも広がる大自然を開拓していくか。


 どうしようかな?


 大洞窟からささやかれている気がする。


 ――おいで、こっちにおいで。


 怖すぎるって!

 洞窟は今の俺にとって危険すぎると判断したので、足は自然と森林に向かった。


 昔漫画とかで読んだ限りだと、先ず確保すべきは水源だ。

 生活魔法の中には探し物へと誘導してくれる魔法もあるので、それを使えばいい。


「サーチ――近くの水源」


 呪文を唱えると、目の前にガイドらしき光が点々と輝き始めた。

 この光を追っていけば水源にたどり着けるらしい。


 雑多に生えている草木をかきわけて進むと、人手が入っていそうな狭い道が見つかった。

 これは近くに人がいる証拠ではないだろうか?


 ガイドに従ってそのまま道なりに進んでいくと、大きな湖に着いた。


 透き通った水質は、綺麗な紺碧色の湖底を映し出していた。

 幻想的でとても趣がある、魚影もさきほどから視界にいくつも入る。


 釣りしてみようかな。

 便利な生活魔法の中には釣りに適したものもある。


 魔法で出来た光る釣り竿に釣り糸と針を湖に垂らしてっと。

 数秒後、手にしていた竿に強い手応えが走った。


「キタッ!」


 ばれないよう、竿を魚の動きに合わせて丁寧に引き寄せて。

 水面に近づいた所を一気に釣り上げる――ッッ!


 全長80センチオーバーの鮭に似た魚をゲット。


 早速調理してみるか。


 しかし大自然の中にある湖で野良BBQしようとするのはとても危険な行為だった。


「カット――三枚下ろし」


 先ずは釣った魚を生活魔法で三枚下ろしにして、内臓や骨を取り除く。

 その後はとりあえず焼いてみる。


「ステーキ」


 こんがりとした焼き魚の完成だ。

 香ばしく、美味しそうにできたので、肉厚な部位から咥えてみる。


「はむ……うっま! 脂が乗ってすごくまろやか、肉も柔らかくて」


 ホッケに近い味わいだ。

 などと、異世界の初めての焼き魚に舌鼓している最中。


「後ろにオークがいるにゃ!」


 謎の鼻声がして、後ろを振り向くと一匹の巨漢なモンスターが俺に突進していた。そのモンスターに気が付けど、突然の出来事に足がすくんで――このままだとやられるっ。


 恐怖からまぶたをぎゅっと閉じてしまうと、断末魔が鼓膜に鳴り響いた。


「もう大丈夫にゃ」


 先ほど聞こえた鼻声は大丈夫だと言った。

 おそるおそる目を開くと、二足歩行の一匹の猫が目の前にいて。


 先ほど俺目掛けて突進してきた巨大な豚鼻は、数メートル先で前のめりに倒れている。倒れているモンスターの左には剣を鞘に納めている黒い皮鎧の女剣士が立っていた。


 二足歩行の猫は可愛らしいクリーム色の短毛で、シャム猫のような相貌で俺を心配そうに見ている。


「こんな危険な場所で無防備に釣りしてたのかにゃ? お前は馬鹿にゃ」

「助けてくれてありがとう、だけど出会ってすぐの人を馬鹿呼ばわりはちょっと」

「ごたくは結構にゃ、私の名前はウーナ、君の名前は?」


 して、俺こと家成竜馬は一匹の猫の獣人ウーナと。

 その連れであるアケビ色の瞳が特徴的な女剣士のルディと出会った。

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