第3話

 窮地の俺を救ってくれた二人は名をウーナとルディというらしい。


 ウーナは猫の獣人で。

 ルディは青毛のミディアム髪とアケビ色の瞳が艶めかしい女剣士。


 今は彼女達が一瞬の間に倒した身長二メートルほどの巨漢のオークを調理していた。


 ウーナはアニメ調の鼻声を繰って、俺の行動に驚嘆していた。


「まさかオークを食う奴がいるにゃんて、世界は広いにゃ」

「オークのステーキはクソほど美味いんだぞ?」

「確かに美味しそうな匂いがするにゃ、竜馬、さらにこれを使うといいにゃ」


 ウーナは肩に掛けていたバッグに手を突っ込み、俺に塩を渡す。


「私は錬金術師にゃ、塩を錬成するぐらい訳ないにゃ」

「へぇー、で、ルディさんは剣士として戦闘が得意?」


 問うと、ルディさんはこくりと頷いた。


 ルディさんのスタイルは整っていた。

 きめ細かい白い肌に、すらりと長く柳松のように流麗な四肢。


 加えてアケビ色の瞳と長いまつ毛と柳眉、鼻筋も細くて美人な顔貌。


 反則級の容姿端麗さだ。


「一応できたけど、二人とも食べる?」


 オークのステーキ三人前の出来上がり。

 ウーナが用意した木の皿に盛って、二人に差し出す。


 残った肉は生活魔法の亜空間倉庫にしまった。

 亜空間倉庫は時間の概念がないようで、腐ったり酸化することもないらしい。


 ウーナは白い前掛けを着用し、よだれを垂らしてご馳走にありついた。


「む! これは大発見にゃ!」

「ていうと?」

「オークの肉がこんなに美味だなんて、世界広しと言えど私達以外知らないにゃ!」


 へぇー、特に突っ込まないけど、誰も試してなかったんだな。


「じゃあ今までは倒したオークの肉ってどう処理してた?」

「そのまま放置されて、たいていは虫や野獣に食わせてたにゃ」


 もったいない、オークの肉の味はウーナも太鼓判押すように美味だ。

 ルディさんも一心不乱に舌鼓している。


 さて、再びオークのステーキを食べて、さすがに満腹だ。


「ウーナ達はこれからどこに行くの?」

「私たちは近くの村に帰るにゃ、今日はルディと一緒に森に素材採取しに来てたにゃ」

「俺もついていってもいい?」


 と言うことで、二人について行き、地元の村へとお邪魔した。

 村は木造りの家が多めの農村。

 どこか西洋の名残りがあって、絵画の落ち葉拾いのような田園もある。


 村につくとルディさんは俺とウーナに片手を上げた。


「じゃあね、私は家に帰る」


 ウーナが慣れた様子でルディさんに笑顔を向けて。


「今日はありがとうにゃ! またよろしく頼むにゃー」


 と三々五々に散ろうとしていた。

 ちょっと待ってくれ、俺はどうすればいい。


「ウーナ、俺は?」

「竜馬は村長に会いに行けばいいにゃ」

「OK、村長さんはどこにいる?」

「ルディについて行くといいにゃ、ルディは村長の孫にゃ」


 そ、そういうことは早く言ってくれよ。

 一旦は別れたルディさんの後を追い、そのまま彼女のお宅へと向かった。


 ルディさんの家は村の中でも別格のたたずまいで。

 ここだけ敷居に壁の囲いがある立派なお宅だった。


 住み込みの家政婦さんがルディさんを出迎え。

 俺はさっそく村長さんと応接室で面会した。


「ルディから話は伺っています、ようこそ異世界の人」


 村長さんは女性の方で、車椅子に乗っていた。


「初めまして、今日、この世界にやって来たばかりで右も左もわかりませんが、しばらくこの村に住まわせてくれませんか?」


「単刀直入ですね、話が早くて助かります。返事としては、歓迎いたしますよ」


「ありがとうございます!」


「貴方は生活魔法なる便利なものを使えると、孫のルディも推薦してましたからね」


「ありがとうございます」


「是非この村に尽力してください、部屋はこの家の空き部屋を一つ貸しましょう」


 何から何まで本当にありがとうございます!


「俺は炊事掃除洗濯が得意なので、こき使ってやってください!」


 って、胸張って自己紹介した翌日――

 家政婦のエミリアさんに連れられ、俺が向かった先はこの村にある冒険者の宿場だ。


 宿屋兼、酒場兼、村の集会場兼、クエスト屋兼などなどと、色々兼用されている施設で、木造りの床の上に山盛りの衣服とシーツなどが置かれている。どれもこれも汚れていて、しかも臭う。


 俺をここに連れてきたエミリアさんは俺の背中を手で押して言った。


「洗濯が得意なんだろ? これ頼むよ」

「いいですけど――クリーニング」


 洗濯の生活魔法の呪文を唱えると、指先が白く光って。

 その指先で汚れていた洗濯物の山に触れると、一瞬で洗浄された。

 隣にいたエミリアさんは目を大きく開いている。


「え……えぇ? 今日一日は掛かると思っていたのに、こんな一瞬なのかい」

「俺もこんなに便利だとは思ってなかったです、今日初めて使ったので」

「じゃ、じゃあ、この宿場の掃除も頼めるかい?」


 いいですよ。

 呪文は一緒で、同じ洗浄魔法だ。


 指先が白く光って、それで汚れている物をタッチすると、一瞬で洗浄される。ところどころ黒カビや青カビがあった湿り気のあった宿場は建てられた直後のように綺麗になった。


 その光景を見届けたエミリアさんは俺の背中を強く叩く。


「竜馬、あんたは使える、使えるよ!」

「ありがとうございまーす」



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