第3章 悪魔はただ静かに見守る ー 0

 

 地上が騒がしいという報告が来たのは8面のボスにバグによるハメ技を使われてコントローラーを投げた瞬間だった。

 

 「なに?天使が地上に降りた?」

 部下からの報告に思わず声を荒げた。別に驚いたわけではない。ハメ技を食らった後に重要そうな内容の話を聞けば思わず声も荒げたくなる。

 「は、はい。事の仔細は把握出来てませんが、確実に降りたという目撃証言が取れました」

 「・・・・・ふむ」

 可能性としてはいくつかあった。

 まずはお気にの人間を見つけたが一番わかりやすいのだが、それほどまでに純真無垢が今の情報社会に現れるとは考えづらい。ただでさえ悪魔や天使、それ以上に神の存在が曖昧になっている。というかこれがエンタメとして消化されている時代に神託で未来をどうこうよりもガチャで欲しいを当てた方が喜ばれる。そんな時代にお気に入りを見つける神なんているか?となる。

 次点で何かを企んでるか。これが昔は多かった。悪魔と天使の対立は如何せん風呂の水垢並みにしつこい。どれだけの本で書かれ、どれだけの娯楽として楽しまれたか定かではない。まあそれでをされたりもしたが。

 (だが・・・)

 これだとしたら、もはや時代遅れも甚だしい。儂ら、悪魔も、彼奴ら、天使も、もはや風前の灯に近い状態なのだ。戦ったとしても共倒れにしかなれないだろう。それこそ世界の終わりに相違ない。それは2千年近くも前から起きているのだから例え風化しかけていても理解しているはず。それほどまでに愚かになったのなら手の施しようがない。

 (他にもいくつかあるが、可能性としては砂漠に落ちた針を探すことの方が簡単なレベルだ。捨ておいても問題は無いか)

 そうなると考えられるのが、

 「ははぁ、なるほど」

 「いかが致しました?」

 「ちょっとしたクイズを思いついた。やってみるか?」

 「え、えぇ。まあ」

 悪魔は基本ゲーム関係を持ち出すと断れない。プライドがあるとかではないが、単純に楽しみたいのだ。勝っても負けても暇つぶし。それが今の悪魔の世界に言い聞かせた掟だ。無駄に寿命が長いからな。意外にもこれで治安が安定しているのだから驚きではある。

 「お前さんがこれからツボを作る職人だったとしよう。お前さんのツボは結構売れ行きが良くて、基本似たような形を作れば問題なくやっていける」

 「・・・・?と、言いますと?」

 ああ、そうだった。コイツは真面目過ぎて極端に頭が固かった。こういう話の中で起きる置き換えですら深く考えてしまう。だからなぞなぞでも、深く考えすぎて話が進まなくなることが多い。

 「つまりそこらにある普通のツボを作ってれば生きていけるってことだ。・・・それは置いておいて、ここからが問題だ」

 「はい」

 「お前さんは同じものばかり作っていてあることに気が付いた。それはなんだと思う?」

 「・・・・・・・?」

 早速分からなくなっている。ククク、やはりこういう問題を出したときに悩む顔というのはいいものだ。自分が優位に・・・いや上司だったわ。くだらない。

 「ヒントを出そう。ツボを作るには土台が必要だ、陶器だから当然だよな。でも、その土台が市販のものと同じものを使っていると気が付いたってことだ。どうだ、ここまで出せば分かるか?」

 「・・・・・・・・・・・・・!!それは、つまり・・・!!」

 よし、急造のクイズにしては割かし分かりやすく作れたみたいだ。

 「今の世界は儂らみたいな存在は物語の存在だ。それが土台だ。方法はまだ分からんが、それを丸ごとすり替える、それが彼奴らの目的であるはずだ。これが成功してしまえば―――」

 「天使の蔓延る世界が生まれる・・・!?」

 まあそこまで行ければという話だが。母数が圧倒的に足りない状態で出来るとしても一宗教を一世紀前後流行らせられるかどうか。世界を丸ごと塗り替えるとなるとのような宣託を受けたものでも現れない限りは大きく変化することはないだろう。

 「し、至急準備を―――」

 「待て」

 急かしたわけではない。部下を手で制し、腕を組む。

 「慎重になるわけではないが、今はまだ静観を貫くべきだ。特に儂らは。誇張ではないぞ、事実だ。動くのはすべての情報が出そろった時だ。それまでは何もするな。いいか」

 「し、しかし・・・このまま後手に回ってしまえば・・・」

 「後の先、という言葉がある。カウンターという言った方がいいかもな。それを狙う」

 これに関しては部下の気持ちも分かる。最新のゲームが発売されたからすぐに買いに行かなければネタバレされてしまう。それと同様のことだ。だが、中身がシステム、シナリオ、そしてキャラがすべて完璧な神ゲーか、一つのシステムの不備で全てが台無しになるゴミゲーかは開いてみないと分からないパンドラの箱だ。箱の中身を知るには慎重にならなければいけないのだ。故に後から先に取るのだ。・・・漁夫の利なのでは?

 「では、どうしますか?」

 「言ったろう?待つんだ。あの世界を信じて」

 「信じられますか?あの世界を」

 なんだコイツは。思わずため息を漏らしてしまう。まだまだ部下の教育が足らないということだろうか。今後考えなければ。

 「馬鹿め。こんな大作ゴミゲーを作る世界だぞ、下手な神がそう簡単に取れる訳がなかろうが」



 暗い暗い地の底で、人知れずに見守る世界。勝てば一興、負けても一興。所詮はただの暇つぶし、それぐらいの方がこの世は楽しい。だろう?



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