第2章 神はいらない助言を与える ー 1
「お目覚めかい?」
目が覚めて疲れが出ているのを感じる。なんというか、スゴイ色々あって精神的に疲れた感じ。悪夢でも見たのだろうか。
「お目覚めかい?」
しかし悪夢にしては変な夢を見た気がする。特に覚えているのは羊がスーツを着て天冠を巻いていて、飛び跳ねたり鳴いたりしていた。あれは何かのメッセージ・・・スピリチュアル的なものだろうか。
「あー・・・もしもし?」
うーん馬鹿馬鹿しい。スピリチュアルなんてこの町に来た段階でありもしないのだから信じようが信じまいがどうでもいい。結果は自分で起こすものだ、大概が他人に邪魔されることが見えているが。
「おーい、聞こえてるか―」
それはそれとして、だ。僕はその夢で何かを閃いたはずなんだ。いや、違う。閃いたのではない、何か結論を思いついた。でも思い出せない。なんだろうか?あの夢にあったのは羊と校門とマネキンと・・・あと何か大切な何かが・・・看板?
「・・・・・・・・・・」
いや、ここは論理的に行こう。消去法だ、簡単だが確実性が高い。えーっとじゃあまずありえなさそうな羊から潰してくか・・・?いや、なんか大事だった気がするし。でも。看板に書いてあったことも大事だった?あれ、でも、いや、あれ・・・・?
「いい加減こっち見ろ、馬鹿野郎!!!」
「わっ、なななんだ!?」
「やっとこっち見たか、全く」
声が聞こえた方向にはあからさまにこの世の存在ではないものがいた。勲章がくすんだ軍帽にたくさんのサビた胸章が色あせた軍服を彩り、三日月のような顔に欠けた部分に浮かぶ月のような球体がさらに人という次元からかけ離れたイメージを生む。そして足が腿より先が崩れていた。なんというかタイムスリップでやってきた過去の亡霊を見ている気分になった。いや、待て待て待て!
「お前何なんだよ!家の中の鍵は閉めてたから――」
そこまで言って気が付いた。家の中の鍵はすべて閉まっていた。もしどこか一つでも開けようとすればサーモグラフィとか付いている無駄に高性能なセキュリティが働いて寝ている僕を無理にでも起こしただろう。そしてセキュリティが作動していないとなると、目の前のコスプレし辛そうな恰好をしたヤツは鍵を開けずに侵入出来る存在だということだ。
「目は、覚めたみたいだな」
ソイツは僕の顔を見て鼻を鳴らす。ここで冗談の一つでもかませればいいのだが、そこまで僕は豪胆ではない。相手が何をしてくるか分からない、様子を窺うために口を噤んだ。
「そう固くなるなって。別に悪さをしに来たわけじゃない」
「・・・だいたいその台詞を言う輩は怪しさ満点なんだけど」
「ん?まあ・・・・だな」
目?の部分の球体が上に凹んで⋂の形になった。笑っているってことでいいのかな?
「とりあえず落ち着けって。そう身構えても今のお前に持てる武器なんてないだろ?」
言われて自分の状態に目が向いた。そうだ、今起きたばっかりで何にも持っていない。精々あるとすれば机に置いてあるペンぐらいだ。このペンで正体不明の存在を倒せるだろうか?・・・・いや、考えるだけ無駄か。
「はぁ、分かった。降参」
「よろしい、じゃあちゃんと座って話を聞いてくれ。俺はこのままでも疲れないからこの状態で話すぞ」
今やっと気が付いた、足が無いのにどうして立っているのかと思ったらフワフワと浮いていた。なるほど、勝てる可能性が全く見えなくなりました。大人しく話を聞こう。スゥと枕の下にあるハサミの存在を頭の中から消した。
「さて、自己紹介からいこう。俺は・・・・ウルーレカ・ド・フォトン。そうだな長いからウルでいいぜ」
え、ウルーレカ?フォトン?なに?どういう名前だ・・・?
「な、なんというかスゴイ名前だな」
「だからウルでいいさ。テストに出る偉人じゃないんだし覚えるだけ無駄無駄」
はっはっはと乾いた笑いをするウル。なんか嫌な思い出でもあるのだろうか。笑うウルは僕に向かってどうぞと手を差し伸ばす。ああ、僕の紹介をしろってことか。
「僕は山河海人。まあなんだろ、海人でいいよ」
「なるほどな、カイトか。凧みたいに飛んでいきそうに見えないがな」
その一言でむっとなった。人の名前を聞いておいてそんな言い方されたらムカつかない方がおかしい。
「そんなこと言うならウルだってどっかで似たような名前がいた気がするけどな。そうそう、北欧とかにいたなんかの神様とか」
「・・・ああなるほど、ウルっていう名前で創ってたんだな」
「え?」
「いや、なんでも。とりあえずその神がどういうのかは知らないが、俺は破壊神っていう歴とした神だってことは言っておく」
ギョッとなり、思わず(枕元のハサミを取ろうと)後ずさった。破壊神がこうしてわざわざ家に訪れたってことは僕を殺しにきたとかそういう展開になるのか!?いやそんな謂れがあるのか!?
「待て待て待て待て!落ち着けって!破壊神だからお前を消すとかそういう理由で来たわけじゃない。というか考えてみろ、わざわざ朝っぱらからそんなはた迷惑なことするか?それこそ歴とした存在がするはずもないだろう?」
割かしそんなこともない気がするような……。まあ世間一般的に考えればそうかもしれないが、もしもということもあるかもしれないだろう。怪訝な目で見ているとウルは無い口で大きく息を吐く。
「ただそれについて聞きたいだけなんだ」
それとは?ウルの指した方に目を向けると、昨日ゴミ袋に入れたはずの黒い本が枕元にクリスマスプレゼントみたいに靴下に入った状態で置かれていた。
「うおおおおおおおおおおおおわわわわあああああああああ!!!????」
今度はウルの方に後ずさりベッドから落ちた。今度こそハサミのことが頭から吹き飛んだ。
「おいおい、どんだけ驚いているんだ。まさか自分でやりませんでした、とでも言うか?こんな子供に贈るプレゼントみたいにしてるのに」
「だだだからここまで驚いてるんだろ!だって、これは、ゴミ袋に入れたはずなんだ!こんなところにあっていいわけない!」
それにこの靴下なんだ!思わず掴んでみると僕の靴下ではなく明らかに女性もののくるぶしが隠れる長さのソックスだ。それに無駄にいい匂いがする。じゃない!問題はそこじゃない!
「流れは分からんが捨てたのに手元に戻ってきたのか、犬みたいに」
「その表現は生物的観点から見るとアウトな気がするけど合ってる」
「俺が無駄な証拠になってるからな」
というかコントをやっている場合ではない。
「ふむ、ちょっと持たせてくれ」
ウルに本を渡そうとしたが、伸ばしたウルの手は本には届かず小さい電撃の音が鳴りウルの手が何かによってはじかれた。ウルは痛そうに顔の球体を波立たせる。
「痛ぇ・・・はじかれたぞ、なんだこの本」
「大丈夫?」
「熱いものに触った程度だ、問題ない。・・・が、とりあえず、次はこれだな」
何をするか聞く前に辺りを見回したウルが机の上にあったペンをひょいと持ち上げて本に投げる。
するとペンは本に弾かれて明らかに殺意の籠った速度でウルの軍帽に突き刺さった。あーあ、と残念そうに軍帽をはたきながらウルは顎で本を指した。次やってみてくれ、とペンを渡してくる。
「え、嫌なんだけど!?」
失敗したらペンが眉間に突き刺さる可能性がある実験を喜んで受ける人間がどこにいるというのか。
「安心しろ、多分大丈夫だ。あ、でももう一つデータが欲しいからちょっと失礼」
ウルはいきなり僕の手首を掴んで本に触らせようとする。しかし先程より重そうな電撃の音と共にウルの手だけが弾かれて僕の手は本の表紙に届いた。
「痛えな、この野郎!しかもさっきよりも威力上がってるじゃねぇか!」
焦げた手袋から蒸気が出ているので確かに抵抗が強くなっている。
「でも僕は触れる、なんで?」
「なんでって・・・海人がその本に選ばれたからに決まってるだろ。今の実験が完全に証明している」
「はぁ?」
「まあ信じられないだろうから、さっきやったことを一通りやってみてくれ」
と言われたので一通りやってみたが、何も起きない。持ってもペンを投げても電撃は来ない。ウルの腕を掴んで、こんにゃくの入った袋を掴んでる感じだったが、本に近付けるとウルの手にあの電撃が走り、僕の手には一切ダメージが無かった。
「・・・・・・な?つまりそういうことだ」
痛そうに黒くなった手にフーフー息をかけるこの破壊神はいったい何を言っているのか。本が誰かを選ぶとか20年以上前の漫画じゃあるまいし。仮にそれが本当だとしても・・・あれ?
「そう、だから試したんだ。3回、統計を取るならそれぐらいは欲しいからな。そして悉く失敗した。これが結果だ」
「・・・・もしかして思考読めてる?」
「思考読みなんぞ破壊神に無用の長物だと思わないか?単純に思考誘導しているだけ」
それは思考を読むよりもヤバいことじゃないかな、とは思ったけどそれとは別の考えが浮上してきた。
「ウルがここにいるのって・・・」
「お、どうやら頭も冴えてきたみたいだな。ようやく本題に入れる」
ウルは椅子に腰掛けて、足を組む。まるで偉い上官が部下に命令を下すように。そして無い口で夢みたいなことを言い出した。
「海人が今触っている本は恐らく予言書だ。そしてその本は狙われる」
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